(ルドベキアとアネモネが満開だ)
私が53歳か54歳のころ、勤めていた会社が「役職定年制」というのを導入した。
満56歳の誕生日が属する年度初めに部長だのなんだののラインポストから外れてもらう、というのだ。
外れた後は同じ職場に置いておくといつまでも部長ヅラしかねないので別の部署に異動、しかも賃金は最大40%カットするという。つまり中高年は「粗大ゴミ」ということである。
また、会社は法の要請に基づき、定年再雇用制度も始めた。
定年退職後満65歳となる年度末まで嘱託として雇用してくれる。これもOBのくせにデカいツラされては困る、というので現役時代の職場とは全く違う所に配属される。しかも賃金は激減する。
要は「どうしても、って言うんなら雇うよ。法の要請だからさ」ということである。人事は中々口を割らないが、どうも再雇用者の半分は1年後に退職しているらしい。
私は幸いなことにすでに子会社の役員になっていたのでラインポストから外されることはなかったが、賃金の大幅カットは食らった。
定年再雇用には全く興味がなかったので「どうしても」とお願いすることはなかったが、要するに私の会社生活の晩年は、「役立たずの粗大ゴミ」扱いだったのである。
ところが八ヶ岳南麓大泉で暮らすようになって、私の立場は大きく変化した。
昨年夏のことだが、ご近所のWさんがデッキと車いす用スロープ(今後の備え)が完成した記念にBBQパーティをやるというので手伝いに行った。
そこに集う20人ほどの老若男女は皆お年寄り、Wさんは御年80歳だが、ほぼ同世代の人たちばかりである。「老若男女」は言葉のアヤで、「老老男女」が正しい。
プラスチックのテーブルを二人がかりでエイヤエイヤと運んでいるので、どれ私がやりましょうと頭の上に持ち上げてスタスタ運ぶと、じっと私の動きを観察していた40の瞳が一斉に「おお」とどよめいた。
「若い人は力があるね~」
「動きが軽快だね」
「Wさんも近くに若い人が越してきてよかったね~」
と、賞賛の嵐である。
バラの師匠になっていただいているNさんのご主人は同じく齢80歳である。お二人は5年ほど前に東京の家をすべて処分して大泉住民となられている。
Nさんの土地は地中から石がいっぱいでてきて、大きなものは花壇の縁取りに使ったりしていたそうだがローズガーデンにはイマイチ合わないので撤去したいのだが、しんどいのでほったらかしだという。
「じゃあ、私がやります。石は持って帰って私が使います」と申し出るとご主人は大喜び、寄る年波で涙もろくなっているのだろう、なにやら鼻をグズグズ言わせるではないか。
我が老師は85歳、Wさん、Nさんは80歳、大泉で出会う人々は多くが高齢だ。働かないでブラブラしている人間の中では61歳の私が圧倒的に若い。
会社では粗大ゴミだった男も、所かわれば「期待の若手」である。せいぜい期待に応えていこう。
会社で粗大ゴミ扱いされてつまらない毎日を過ごされている方、これからきっといいことがありますよ。
(「粗大ゴミ」、なんともいえないネーミング)