開祖さまのお言葉に学ぶシリーズ



『困難の向こうに』


 私が母を亡くしたのは十九歳のときでした。田植えの真っ最中で、春蚕(はるご)があがるいちばん忙しいときに母の看病で父が仕事に出られない。しかも兄が兵隊にとられて入隊してしまい、家の仕事がいっぺんに私にかかってきたのです。

 それまで父と兄のあとについて手伝っていればよかったのが、ぜんぶ自分で段取りをつけ、自分一人でやらなくてはならなくなって、とても自分の肩にはしょい切れないと途方に暮れることもありました。しかし、その苦労のお陰で、どんな骨の折れることも平気になったのです。

 体に障害をもった青年のこんな言葉を聞いたことがあります。「人は体の不自由なことや父母を早く亡くしたことを不幸だと思っているけれども、不幸というのは、そういう条件に甘えて、ちょっとつらいことにぶつかっただけで、すぐに逃げ出してしまうことだ」と。会社の経営でも国の経営でも同じなのですね。いま直面している困難を周囲のせいにして甘えず、このつらいところを乗り切ることで、さらに自分の力がついていくのだとふんばると、洋々たる前途が開けてきます。



『開祖随感』/庭野日敬著(佼成出版社)より