弁護士に求めらる資質とはなんでしょう。
法廷において瞬時に相手の答弁に対応するものを見つけられる能力(もし~と反論されたらこのように反論しようと考える能力)、陪審員の心に訴える表現ができる能力、過去の裁判結果を調べられる(知っている)能力、様々あると思います。
では、上の3つに絞って考えます。

裁判で勝つためには3つの資質は大変重要になります。
しかし、勝つために必要な3つの資質と、この3つの素質を弁護士がもっていなくてはいけないかは別の話です。

ある弁護士Aさんは、常々リスクを考え「もし~だったらどうすればいいか」を考えるのが得意です。しかし、過去の判例を調べたりするのは大の苦手。過去の判例なんか知らなくても、その場の臨機応変な対応でなんとかなる!だいたい図書館へ行って調べ物するなんて気が狂う!と言っています。

B弁護士は、人前で話すのが大好き。周りの友達は人前に立つと緊張して頭が真っ白になるのに、Bさんは人前に立つとテンションが上がり饒舌になります。そんなBさんは、リスクをいちいち考えるなんて心配性な人間のやることだと思っています。

C弁護士さんは、とにかく人前に出るのが苦手。だれかと二人っ気になってしまうと「なに話せばいいんだろう、なに話せばいいんだろう」とビクビクしてしまいます。壇上になんて立たされた日には、硬直して頭真っ白。なにも喋れなくなってしまいます。そんなCさんは、調べ物が大好き。本を読むのが大好き。図書館にだったら1日中いたって平気、むしろ楽しくてしかたないと思っています。

さて、こんなAさん、Bさん、Cさん。それぞれが法廷に立ち、負け続けていた。そんなところからこの物語は始まります。

Aさんは、過去の判例を全く知らないので、同じ案件で勝訴したことが歴史上あってもそれを引き合いにだせず、負けてしまいました。
Bさんは、自分が話しているときは饒舌ですが、相手に突っ込まれると瞬時にダメダメちゃんになってしまい、負けてしまいました。
Cさんは、そもそも喋れずに裁判になりませんでした...。

Aさんは、Bさんの携わる裁判をみて「そんなツッコミくらい想像して準備できただろうに!」と思っています。
Bさんは、Cさんの裁判を見ていて「法廷に出てきて、緊張して喋れないなんて弁護士として失格だな!」と笑っていました。
Cさんは、Aさんの裁判をみて「なんで2013年の判決を引き合いに出さないだろう。まったく同じ案件で勝っているのに」と思っていました。

そんなときです。ある弁護士コンサルタントが3人を指導することになりました。
コンサルタントはそれぞれに課題を出します。
「Aさん、あなたは過去の事例に乏しすぎる!これから裁判のないときは図書館へ通って、昔の判例を読んできなさい」
「Bさん、あなたは想定される質問を常に書き出し、そこへの対処法を考えなさい」
「Cさん、あなたはひどすぎる!弁護士が人前にたって喋れないんなんて言語道断だ!まずは人前で話す練習をしなさい」

3人は自分の弱点を明確に言ってくれたコンサルタントに感激し、指示通りにすることにしました。
しかし、1ヶ月も経たないうちに、3人とも疲れ果て、顔色が悪いのです。

「Aさん、どうしたんだね?」
「はい・・・。毎日図書館へ通っています。でも私、バカなんでしょうか?集中力がないんでしょうか?何を読んでも頭に入ってこないですし、覚えられません。こんな脳みそじゃ弁護士なんか無理ですよね。そりゃ負けますよ」

「Bさん、どうしたんだね?」
「はい・・・。想定される質問を考えてるのですが、全然でてこないんですよ。自分で喋るのは得意なのに、相手がそれに対して何を言ってくるのかがほとんど浮かんできません。これじゃあ弁護士失格ですね。周りにも、君はプレゼンが得意だから法廷で勝てる弁護士に絶対になれると言われてましたが、それに浮かれてただけでした」

「Cさん、どうしたんだね?」
「はい・・・。私本当に無理です!スピーチの練習塾へ通いだしたのですが、塾がある前日は、明日喋れなかったらどうしようと寝れないんです。案の定、その日になると緊張してなにも喋れません。塾の先生にも、君はよくそれで弁護士になろうと思ったね、とまで言われてしまいました」

コンサルタントは、3人にこう言いました。
「大丈夫だ!最初は誰だってできないもんだ!私の言ってことをやり続ければ必ず成果が出てくる!Never Give Upだよ!」

3人は、また弱点の克服のためそれぞれの課題をこなしていきました。



半年後・・・。

3人は揃って「私は弁護士が自分に合っていない仕事だとわかりました。弁護士をやめて、新しい仕事を探します」と言ってきたのです。

3人はコンサルタントのもとをさり、最後に慰労と前途を祝すために飲みに行きました。バーで3人が慰め合い、自分にあう職業はなんだろうと話をしていました。

そんな時、バーのマスターがこんなことを言ったのです。
「なあ君達、3人で弁護士事務所でもつくってやってみたらどうだ?」と。

3人はぽかんとして、こう言いました。
「ははは、マスター・・・。弁護士の世界はそんなに甘くないよ。みんな弁護士が合ってないってわかったから、やめるって言ってんだよ。こんなダメダメ弁護士3人が集まったってなにも解決にならないさ」

マスターは3人を不思議そうな顔で見て、こう答えました。
「そうかな?さっきから話を聞いていると、想定される問題に対してはAさんが考えて、過去の事例はCさんが記憶していて、で、結局法廷で喋るのはBさんがやりゃいいじゃないのか?まあよ、俺は法廷みたいな難しいことはわかんねーから素人みたいな発想だけどな。はっはっは」

3人は顔を合わせました。
数秒間お互いの顔を見ながら沈黙していましたが、みるみる3人の目が輝きだしました。

「そうか!俺たち3人が力を合わせれば、最強かもしれねー!」


彼らは今、法廷連続勝訴記録を更新中です。

Aさんは「俺はCのやつをみて、なんて根暗なやつなんだって思ってた。応酬できないBを見て、口だけの頭悪いやつだと思った。

Bさんは言います「Aのことを心配性なのか潔癖性なのか、こいつ病気なんじゃないかって思ったよ。C?あーあいつなんかさ、法廷に出て喋れないんだから!昔は見ていて笑いがとまらなかったぜ」

Cさんはいいます「おいおい、みんなひどいじゃないか。僕だって、君達の知識のなさには驚いたよ。こんなちゃらんぽらんな人間が弁護士やってんだから、そりゃ負けるって!」

昔を思い出し大笑いしながら彼らは話していました。

「でも今はさ、3人がお互いの弱点を補って、それぞれが得意なことをやるようになったんだ。今Aは、法廷の世界以外でも建築や経営の勉強をして、リスク管理を学んでる。だからどんな案件が来ても、彼はいろんなこと知っているから瞬時に対策案を考えてくれるんだ。

Cは今でも図書館へ行って毎日勉強してるぜ。この事例での裁判で勝った事はあるかって聞けば、彼はすぐに答えられる。まるで図書館そのものだ。

俺は今は、スピーチの練習しているぜ。昔は気持ちを込めて話せば伝わるって思ってたけど、ジェスチャーや目線も大事だって教わったよ。でもよ、とにかくみんな毎日楽しいんだ。俺だって、ジェスチャー勉強しだしたら、説得力が変わった。それが手に取るようにわかるんだよ。

昔、オールマイティーにならなきゃいけないって思ってた時は、自分の弱点が嫌で嫌でしかたなかった。克服しようと頑張れば頑張るほど、自分のダメさ加減が際立ってきて落ち込んでた。

それに、他のやつの弱点ばかりに目がいっちまってた。今は違う。自分の強みもわかったから、相手の強みもわかるようになった。人それぞれ違うことをよく理解できるようになったんだ。そしたらさ、今までけなし合ってた3人が、すっげーチームになったんだ」




マスターがかけたなにげない言葉。
その何気ない一言が彼らの世界観を変え、成果を変えたのでした。

みなさんは、同僚に何かを求めすぎていませんか?上司に何もかもを求めすぎていませんか?
上司の悪いところばかり考えていませんか?
相手の欠点は、自分の方が出来るからこそ目につくのかもしれません。だとしたら、あなたのやれることはなんですか?

役職や年齢にこだわりすぎて、妬み、悪口ばかりのチームと、そんなことには拘らずお互い助け合って信頼関係があるチーム。
どちらが楽しくて成果の出るチームでしょうか。


そして、どちらを選び、どう行動するか、それを決められるのはどこかの誰かではなく、あなただけです。