『うたう警官』読んだ | 想像妄想空疎空想うそ日記

『うたう警官』読んだ


 
佐々木譲
うたう警官
笑う警官 (ハルキ文庫 さ 9-2)
(右は文庫版。文庫化時にうたう→笑うに改題)

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。大通署の刑事たちはただちに現場に向かい、調査が始まった。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。調査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、裏の調査を始めたのだったが……。

角川春樹事務所HP より引用)

 読んだ順番が後先になったけど、『警察庁から来た男』 を2巻とする道警シリーズの第1弾。

 有志が同僚を冤罪から救おうと裏の捜査本部を設置する。
 タイムリミットは一晩!

 組織を守るための犠牲も厭わない上層部。互いの命を預けた経験を持つ仲間を信じて助けようとする者。中立の立場で真実と正義のために動く者。濡れ衣だろうと理解していてもなお、彼の行為を許せない者。全員警察。それぞれの選択に影響を及ぼす、「うたう」――警察組織を売ると見なされる行為。

「佐伯さんは、津久井さんの無実をこれっぽっちも疑っていないようでしたね」
 小島百合は驚いたように言った。
「あなた、疑ってる?」
「いえ、そういう意味じゃありません」
「じゃ、どういう意味?」
「その」新宮は、どぎまぎしながら答えた。「あんなふうに信じてもらえるひとがいるって、いいなって思ったんですよ」


「裏」捜査班のベテラン刑事が、真犯人に迫っていく様子にわくわくした。誰が本当に信用できるのかも分からない中で、予防線を張りまくる佐伯警部補の用心深さにも感服。かっこいいぜ玄人刑事。

 絵になりそうなシーンも多くて(正義の秘密基地!)、映像向きの作品だなと思った。作者のブログには映像化のオファーがあちこちから来ていたとあった。はっきり情報が出ているページを見つけられなかったが、今は角川春樹事務所で映画を作っているところ、なのかな?

 とてもスリリングで一気に読めた作品だが、ちょっと引っかかったのは、やはり「射殺命令」なんて過激な指令が殺人容疑ひとつで出てきてしまうこと。もちろん登場人物たちも「あまりに異常だ」「何かおかしい」という思いから行動を起こしていくんだけど、読み手がこの射殺命令のリアリティを許容範囲と思うかで、入り込めるかどうかが分かれそう。
 平和ボケ日本人であるところの自分も、ここまでは現実にはないのではと思ってしまった。まぁフィクションだからと割り切って楽しんだ。

 いや、でも、面白かった。
 やはり続き物は刊行順に読むべきであるよ。これを先に読んでおけば、『警察庁から~』の序盤で戸惑うことも少なかったろう。

 あと佐伯が聴いてたブレイキーのモーニンはいいッスよ。自分はボビーティモンズの『ジス・ヒア』のが好き。なんて知ったかぶりしてみたり…。知ってる音楽が使われていると、ちょっとたのしい。

モーニン+2 ジス・ヒア
『モーニン+2』(左)
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
『ジス・ヒア』(右)
ボビー・ティモンズ


 うたった警官はどうなったか。物語はつづく。


警察庁から来た男


 ところで文庫版の『笑う警官』へのタイトル変更は、いまいち納得できないなあ。『うたう警官』のままか、どうせ変えるならずばっときっぱり容赦なく完膚なきまでに変えればよかったのに。だって、作中の誰ひとり笑う状況じゃないし、あの人が連発するおやじギャグは寒すぎだし…。

うたう警官
笑う警官 (ハルキ文庫 さ 9-2)
佐々木譲
角川春樹事務所

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