
Bar Insomniaにて。
悠太「ん?あの黒板の字…」
米子「どした?」
悠太「さちの字だな…」
筒見「あ〜、鈴木さんか。今この店でバイトしてんだっけ」
悠太「うん。週2くらいで。俺らのステージとは被んないように入ってる」
米子「それでか…」
悠太「何が?」
米子「ここ最近、メニューが増えてる。鈴木さんのアイデアが採用されてるって事だろ?」
悠太「…そゆこと!?」
筒見「気づいてなかったんか…お前…」
悠太「い…いや!それくらいはね…気づいていたよ?」
筒見「嘘くさい…」
悠太「がんばってんな…さち…よし!俺らもがんばんないとな!」
筒見「なんで俺と米子も巻き添えなんだよ…」
悠太「さ!行くぞ!」
筒見「こうやってフロア通ってステージ上がるのって、俺いつもニヤニヤしちゃうんだよね…」
悠太「わかる。俺ら今かっこいいはずって思うよな」
幸子「やっほ」
悠太「さ…さち!?どどどどうしてここに!?」
幸子「今日は客として来た」
美樹「こんばんは」
悠太「小田切さんまで…あれ?男子たちは?」
幸子「あいつらはここの雰囲気を壊す」
美樹「とくにナツメくんがね」
悠太「はは…確かに。フユキとかタキシードで来そうだもんな…よし、行ってくるよ。ふたりとも楽しんでね」
幸子「期待してる」
美樹「がんばれ〜」
幸子「あ、料理来たよ。シェフ、これなに?」
シェフ「は?」
幸子「いや、おまかせで頼んだからさ、これなに?」
シェフ「あんたのレシピだよ!」
沙織「はい、ウーロン茶。そっちのかわい子ちゃんは…」
美樹「小田切です」
沙織「ダギリちゃんはレモンティーね」
美樹「ダギリ…」
ーーーーー
幸子「沙織さん」
沙織「ん?」
幸子「アタシ、音楽はあんまり詳しくなくて…悠太たちのステージって、どうです?」
沙織「良くなってきてるよ。最初は『合わせなきゃ。合わせなきゃ』みたいにガチガチだったけど、いい意味でゆるくなってきてる。ミスを楽しめる余裕が出てきたね。ただ米子、あいつはダメだ」
幸子「え?」
沙織「あたし、学生時代ベースだったんだよ。だからどうしてもベースには厳しくなんだよね。米子ぉ!モタッてるぞ!キビキビ弾かんかい!」
米子「お…俺っすかぁ!?」
沙織「ね。こういうハプニングも笑いに変えられるようになってきてる」
美樹「これ!おいひい!さっちゃんの味がする!」
幸子「あんた、アタシ食ったことあんのか…?」
沙織「ふふ。面白い子ね。酔わせたくなっちゃう」
幸子「沙織さんってバーテンの技術はどこで身につけたんですか?学校とか?」
沙織「あなたの料理と一緒かもね」
幸子「え?」
沙織「好きだから、やってるうちにできるようになった」
美樹「なるほど…」
幸子「わかるの!?」
美樹「絵だって一緒だよ。描けるから描くわけじゃないじゃん。描くから描けるようになる。でしょ?」
幸子「なるほど…」
沙織「わかるんだ?」
幸子「そりゃ…美術部ですから…」
沙織「てことはダギリちゃんも美術部?」
幸子「の、部長です」
沙織「そうなんだ!?」
幸子「こないだはイラストコンテストで賞獲ったんですよ」
沙織「え。すご!今は鶏肉貪ってるけど…」
美樹「うまうま…」
幸子「あ、あれ、美樹に頼んだらどうです?」
沙織「いいかも!ねえダギリちゃん。もしよかったらでいいんだけど、この店のイメージキャラクター作ってくれないかな?」
美樹「ん…いいれふよ」
沙織「報酬は…いくらぐらいが相場なんだろ…」
美樹「そうだな…レモンティー1杯…いや、2杯でどうだ?」
幸子「なにそのハードボイルド」
沙織「いやいやさすがにそれは悪い!ちゃんとお支払いします!」
美樹「そうだな…ならこの鶏肉、もう一皿もらおうか」
沙織「…わかった。じゃあ次来た時に鶏とレモンティーでお支払いします」
美樹「やった!」
幸子「本当にそれでいいのか?」
美樹「だって私、この店好きだもん。何か役に立ちたいよ。好きな場所が自分を必要としてくれる。こんなに嬉しいことある?」
沙織「あ、それ嬉しいね。どうもこればかりはビジネスで繋がった人にやってもらいたくはなかったのよ」
ーーーーー
幸子「あ、悠太。お疲れ〜」
悠太「沙織さん、カルピスください。さち、何かステージから見てたけど、君ら盛り上がってたね。誰もステージ見てくれてなかったけど」
幸子「み…見てたよぉ?」
悠太「今日の2曲目は?」
幸子「…『笑点のテーマ』…?」
悠太「はい不正解だったのでウーロン茶没収」
幸子「頼んだばっかの二杯目が!」
悠太「小田切さんは…なにしてんの?」
美樹「スケッチ。まずはこの場の空気を掴まえる…」
幸子「完全にスイッチ入っちゃったよこの人…」