【小林麻美】CD



□ 小林麻美(1953〜)、歌手としての活動(シングル/アルバム発表)時期は、Toshibaレーベル(当時)の1972〜76年、CBS/Sonyレーベル(当時)の1984〜87年のニ期。
□ 第二期の初め、84年に発表したアルバム “CRYPTOGRAPH〜愛の暗号” は第26回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。

▶ #昭和歌謡 #J-Pop #田辺エージェンシー



《BEST COLLECTION》 ★+


*CBS/Sony    30DH 412 (C1986)




▶アルバム “CRYPTOGRAPH”(10曲 /P84) から9曲、オリジナル・アルバムには収録されていないシングル(哀しみのスパイ/P84)1曲、アルバム “ANTHURIUM〜媚薬”(P85) からの5曲(‡)で構成されたCD。
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01)雨音はショパンの調べ ※9 (GAZEBO, P. L. Gimbini / J* 松任谷由実) #1
02)哀しみのスパイ (玉置浩二 / 松任谷由実)
03)TRANSIT ※5 (井上陽水 / 松任谷由実)
04)幻の魚たち ‡ (松任谷由実)
05)金色のライオン ‡ (松任谷由実 / 小林麻美)

06)恋なんて かんたん ※7 (松任谷由実)
07)TYPHOON ※3 (松任谷由実)
08)幻惑 ‡ (大貫妙子) #5
09)水晶の朝 ‡ (松任谷由実 / 小林和子)
10)微熱 ※2 (加藤和彦 / 小林麻美)

11)Lolita Go Home ※10 (S. Gainsbourg, Ph. Labro /J* 小林麻美) #2
12)月影のパラノイア ※1 (GAZEBO, P. L. Gimbini /J* 松任谷由実) #1
13)Sugar Shuffle ※6 (Lynsey de Paul, Barry Blue /J* 小林麻美, H* 松任谷由実) #3
14)グランプリの夏 ※4 (井上陽水 / 小林和子)
15)シフォンの囁き ‡ (Christian Holl /J* 松任谷由実) #4

(J*: 日本語詞、H*: 補作詞)

◇Arr.: 武部聡志(02, 03, 06, 07, 10, 13, 14); 井上鑑(05, 08, 09); 新川博(01, 12); 松任谷正隆(04, 15); つのごうじ(11)

▶曲目名の後に付した (※1)〜(※10)の数字は アルバム "CRYPTOGRAPH"の曲順。この中の欠番(※8)は「アネモネ」(玉置浩二 / 安井かずみ / Arr.: 武部聡志)

#: カバー曲〔原曲歌手: #1: ガゼボ (It.)、 #2: ジェーン・バーキン Jane Birkin (Fr.)、 #3: リンジー・ディ・ポール (UK)、 #4: クリスチャン・オール (Fr.)〜第14回東京音楽祭(85)エントリー曲 “Femme dans ma vie”、#5: 大貫妙子〜作者のアルバム「シニフィエ (P83)」収録〕


■ たった2年程度の間に発表された2枚のアルバムと1枚のシングル、曲数にして21曲からこのCDに15曲がピックアップされた、ある意味不思議といえば不思議なベスト盤。ただ、一枚通してこのCDを今聴き直すと、かなりまとまりのよい、少し長めのオリジナル・アルバムを聴いているような気になってきたのも事実です。
もちろん2枚のアルバムからとはいえ、“CRYPTOGRAPH” からの曲が全15曲中9曲を占めることや、アルバム2枚の録音時期が比較的近いことなども、全体のまとまり感をもたらしている可能性はあります。そのことが 伴奏の楽器構成やその編曲などにも、(全部が全部とは言いませんが)影響しているようにも感じます。

■ 曲と詞から紡ぎ出されるイメージは、ヨーロッパ映画(特にフランスっぽい感じ)の1シーンを思い起こさせるつくり。大半の歌詞にユーミンと小林本人が関わっています。こんなところも、ベスト盤とはいえ全体のまとまりを感じさせてくれるところかもしれません。

■ もう一つあげるとすれば、小林麻美の声が与えている効果でしょうか。声そのものは 弱々しくも 甘さが余韻のように残る、かなりきれいな声です。
その声が、比較的カチッとした伴奏、キーボードやドラムスなどの楽器に溶け込みながら、耳ざわりなく聞こえてきます。
歌が下手とか音程やリズムがアマイということは一切ありません。ただ彼女の声が、伴奏と一体になりながら、聞き手をまやかそうとする《ゆらぎ》のようなものを醸し出している…… 音の陽炎か蜃気楼か、そんな感じも少し。
ポピュラーであれクラシックであれ、歌を聴くという場合、その歌手の声や歌詞などに意識が一番向くわけです。ただ、このCDでは、彼女の歌声だけではなく ついつい演奏される楽器の音の動きも 声と一緒に楽しんでいる自分がいます。

■ アルバム “CRYPTOGRAPH” は 以前にも聞いたことがありました。ただ今回初めて聞いたこのベスト盤は(大ヒット曲を含んではいても) かなり新鮮な気分で聴き、しかもついつい何回も聴き込んでしまいました。シングル盤ではなく アルバムを聴く醍醐味とかオリジナル・アルバム以上の面白さーー みたいなものを感じます。私には比較的珍しいことですが。
収録曲目からいえば、「哀しみのスパイ」は アルバム “CRYPTOGRAPH” に本当は収録されるべき曲だったような気もします。また、少し辛口ですが、「幻惑」は、聴くほどに引き込まれるところがあります。井上鑑の編曲が見事で、大貫の曲に磨きをかけていることも特筆されます。

■ さて、かつて大ヒットした「雨音はショパンの調べ」です。ガゼボの原曲 “I Like Chopin” よりも、日本語詞で歌った小林Ver. のほうが 当時ずっと大きなヒットになったこと、これはよく知られているところです。
第一に 日本語詞タイトルが優っています。ガゼボの直接的な「アイ ライク ショパン」よりずっと詩的で、人によっては ショパンの「雨だれ」の音や曲すら思い起こさせること。それだけいろいろな人に、それぞれの情景をイメージさせるタイトルの《ちから》があるような… もはやこのタイトルで、曲が聞き手と小さなつながりを持ってしまいます。
彼女が歌うサビの部分(Rainy days 〜)、この最後の《Ah〜》が最も高い音。擦れるかどうか、ギリギリで出してるわけですが、ここが他のキレイな声で歌われる部分よりずっと生々しい… 特にセカンド・フレーズの最後、🎼Rainy days 暗号のピアノ Ah〜 ♫‖ というところまでくると、聞き手がまんまと 小林麻美に引き込まれるポイントになっている気もします。

■ 書き出すと いろいろ突っ込みどころの多いCDではありますが、今聴いてもところどころでハッとするような鮮度を保ち、繰り返し聴いても(特に私には)飽きのこない盤。

■ 柴咲コウが アルバム『続 こううたう(P2016)』の中に「雨音はショパンの調べ」を取り上げたのは記憶に新しいところですし、日本語詞を担当したユーミン自身が歌うVer. も比較的知られています。また、(未聴ですが) 杏里によるカバーもあるようです。
ただ、この大ヒット曲だけではなく、同じカゼボの「月影のパラノイア」、ユーミン/曲の「恋なんて かんたん」、先にもあげた「哀しみのスパイ」や陽水/曲の「グランプリの夏」、あるいは加藤和彦/曲の「微熱」などの曲を、新たに取り上げてくれる歌手やグループが出てきて欲しいとも思います。それだけ今でも取り上げられてよい佳曲が 多く収録されているように感じます。 🐾
(2017.5.8)



《GOLDEN J-POP / THE BEST》参考


*Sony M.Ent.   SRCL 4413 (C1998)



◎現時点でもCD店などで(定価で)入手可能な小林麻美・後期Sony録音によるベスト盤 (SBM)

01)雨音はショパンの調べ @既出
02)哀しみのスパイ @
03)シフォンの囁き @
04)移りゆく心 (松任谷由実) P1987
05)愛のプロフェッサー (P. Cassano / C. Ferrandi /J* 松任谷由実) P87

06)I MISS YOU (松任谷由実) P87
07)ルームサービス (松任谷由実) P87
08)アネモネ @
09)引き潮 (大貫妙子) P85
10)水晶の朝 @

11)EROTIQUE (松任谷由実) P87
12)飯倉グラフィティー (松任谷由実) P87
13)GRAY (松任谷由実) P87

14)哀しみのスパイ (Long ver.) P84
15)雨音はショパンの調べ (Long ver.) P84

*Arr.(既出除く) : 後藤次利(04-07, 11-13); 井上鑑(09); 武部聡志(14); 新川博・武部聡志(15)


■ CD初期の頃に出た旧ベスト盤と比較すると、特に同じ収録曲で比較すると かなりクリアな音質になっているようにも感じます。
曲目についてですが、ヒットした2曲は、このCDには ロングVer.も収録。一見おトクに見えなくもありませんが、勝手なことを言えば、ロングVer.2曲は、それだけをシングルCDのオマケにして、その分別の3〜4曲を本体CDに収録して欲しかったと、個人的には思っています。

■ その他、ここでも別の大貫作品「引き潮」が収録されており、これも聴かせますが、前出の「幻惑」のほうが(セリフが入らないぶん)個人的には気に入ってます。
音はともかく、聴かせる収録曲が多く含まれるのは、こちらより前出のベスト盤のほうかと感じます。 🐾
(2017.5.10)




《Best Collection》 *+

*Toshiba/東芝EMI  TOCT-6655 (C1992/P72〜76)



photo:01

01)初恋のメロディー (筒美京平 / 橋本淳)
02)落葉のメロディー (筒美京平 / 橋本淳)
03)私のかなしみ (筒美京平 / 安井かずみ)
04)恋のレッスン (筒美京平 / 橋本淳)
05)海辺の白い家 (筒美京平 / 橋本淳)

06)女の子は淋しくても (筒美京平 / 橋本淳)
07)さよならのブルース (筒美京平 / 橋本淳)
08)あなたのネクタイ (筒美京平 / 安井かずみ)
09)雨だれ (筒美京平 / 松本隆) #
10)遅すぎた言い訳 (矢野誠 / ちあき哲也)

11)雪どけ模様 (田山雅充 / なかにし礼)
12)白いシャツきて (筒美京平 / 安井かずみ)
13)ぶどう色の経験 (筒美京平 / ちあき哲也)
14)夢見るシャンソン人形 (S. Gainsbourg / 岩谷時子) #
15)アパートの鍵 (筒美京平 / 安井かずみ)

16)夢のあとさき (田山雅充 / なかにし礼)
17)ある事情 (筒美京平 / 安井かずみ)
18)夢でいいから (筒美京平 / 林春生) #

*Arr.: 筒美京平(01-06, 15); 萩田光雄(08, 09, 12, 13, 17, 18); 馬飼野康二(07, 14); 林哲司(11, 16); 矢野誠(10)

(#カバー曲 〜 オリジナル: tr.09/太田裕美、tr.14/フランス・ギャル、tr.18/いしだあゆみ)

■ J-Popへ移行する第二期と比べると、このCDに収録された第一期の曲は、昭和歌謡全盛期の味わいが横溢しています。

■ 筒美京平作品も多く含まれ、その中で曲として一番気に入っているのが、(発売時シングルB面だった) 和製フレンチPops風「女の子は淋しくても (P72)」。サビの下降型メロディ・ラインがなかなか魅力的な印象を与えます。(なお、後年 渡辺真知子が歌いヒットさせた「かもめが翔んだ日 (P78)」の中の下降型メロディ・ラインと、かなり似た感じに聞き取れる気もします。)
他に (やはり発売時シングルB面だった)「白いシャツきて」も、軽やかな鮮度を保っています。

■ また「雨だれ」や「夢でいいから」のカバーは、オリジナルより色彩感がやや淡くなる印象。その一方で 小林のやや甘い透明感のある声で歌われることにより、曲のもつ爽やかさみたいなものは増しており、この小林麻美Ver.もなかなかに捨てがたく感じます。

■ それらの曲以上に、このCDの中で私がベストと感じたのは「夢のあとさき」です。歌から聞こえてくるのは、アイドルっぽさを脱した、かなり大人の小林自身。他の曲(の詞) より、なかにし礼の詞がしみてくるように伝わってきますし、田山の曲が詞を一層深くしているように感じられる佳曲。なかなか出会えない一曲かとも。
演歌Pops系の歌手がこの曲を今取り上げても、きっと面白いのではないかとも思っています。 🐾
(2017.5.23)

photo:03


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