主が、「名は何か」とお尋ねになると、それは答えた。
「わが名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」
~新約聖書マルコによる福音書5章9節~
私は夢の中にいた。手には血塗られた刀を持ち、もう片方の手には
人間の生首が握られていた。私は暗殺者だった。
首はある国の指導者のものだった。経済情勢が悪化し、国民の生活が困窮する中で期待されてその座についた男だった。しかし、発言はあまりに軽く迷走し、有効な手立てを打てないまま、国民の不満は鬱積していった。
私は政治などどうでもよかった。自分自身が生きられれば。だが、生業は変えられない。ある政党からの依頼だった。
「あいつを殺せば、この国は我々がきっと再生させる」
依頼に来た男はそう熱弁をふるっていた。そして聖夜に決行した。この日の方がインパクトもあると思ったからだ。
さて、帰ろうか。そう思ったとたんに「おい」と呼ばれた。見ると床に置いた指導者の首がしゃべっていた。
「私を殺しても何も変わらない。君だって気が付いているだろう?
この国で指導者の首は何度も挿げ替えられてきた。しかし、現実は何も変わらなかった。むしろ悪くなってさえいる。無駄なのだよ、こんなことをしても。民がわれわれを望んでいる限りは何も変わらない。次もその次も能面のような同じ顔が座るだけだ」
不変。言われてみればその通りかもしれない。口では変革を叫びながらも心のどこかでは安心を望む。それが人なのだ。また、つまらないものを斬ってしまった。