※突然ですが女体化しあ御注意






















 体に若干の違和感を感じながら,朝起きてトイレに行ったらあるはずのものがなかった。


 漏らすかと思った。




 おそるおそる鏡を見たら,映っている姿はどうみても女子。


 伸びた髪と小さい胸。


 何より華奢な全身。




 なんだこれ。事務所の練習生?


 いや,でも,やっぱり。




 これ僕だ。




 慌ててマネージャーのヒョンの部屋に行ったらすぐにその日の予定がキャンセルになって,宿泊先のホテルからお医者さんのところに行ってなんかの検査を受けた後,事務所が用意したらしい見知らぬ家に連れて来られた。


 新しい宿舎なのかな。




 今回のはボケでもなんでもなくて,笑いもとれなかった。


 笑いをとる必要はないんだけど。


 僕を見た人はみんな深刻な顔をした。


 メンバーにも会えないまま,とにかくどこにも連絡しないように言われた。


 部屋からも一歩も出られず,不安で仕方なかったけれど,僕はひたすら歌を歌ってピアノを弾いて,ゲームをして,なんとか気持ちを落ち着けた。


 携帯も取り上げられてしまったので,誰とも連絡がとれない。


 マネージャーのヒョンが付き添っていてくれたけど,男だからずっと一緒にはいられないようだと言って,代わりに夕方やって来たのがウリメンバー。


 ユチョンだった。








「女子って生理になるよね。僕いつなるんだろう」


「ジュンスはそういうの思いついたらすぐ言うね」


 ユチョンに笑われる。


 呆れた?


 さっき,なんで来たのって言って怒られたばっかりだ。


 僕のことが心配で来たんだ。知ってるよ。


 けど今,ふと気になったから。


 いわゆる「謎のポーチ」の中身がいろいろ準備されている。


 ユチョンにも見せてやろう。


「いや,いい」


 ちくしょう。


 でも,ほんとに未知の世界だ。


 簡単にしか教えてもらってないぞ。


「そういうの誰に詳しく聞いたらいい? ちゃんと教えてもらえるのかな」


 考え出したら色々不安になってきた。


「心配しないで。俺がなんとかするから」


「うん? ヨジャのことはヨジャに聞いた方がいいじゃん」


「それはちょうどいい人がいるから,そういう話はその人として」


「え,誰か来てくれるの?」


「後でね」








 親にもこのことは知らせちゃ駄目だと言われた。


 大騒ぎになるから。


 原因が分かるまで心配させないように,まだ秘密。


 とりあえず日本で長引く仕事があることにしておくと。




 男性アイドルグループが男性アイドルグループじゃなくなることは,なかなか大変なことだ。


 その理由がメンバーの原因不明の性転換ではあまりにも常軌を逸している。


 そりゃそうだ。


「俺も状況がはっきりしてから教えてあげた方がいいと思う」


「でもさ,びっくりするかもしれないけど,喜ぶかもしれないじゃん」


 僕次男だし。


「ヒョンは妹ができたってうれしがるかも」


 それはそれで喜ぶだろうな。


 僕の妹かわいいでしょって,みんなに自慢してくれるはずだ。




 僕はそこまで絶望してない。この状況。


 まあ,よく分かってないとも言う。


 何より,歌う声に変わりがなかった。


 もちろん音域も声も男じゃないけど,歌った感じは同じ。


 むしろ声変わりが苦しくない。


 こんな高い声が出るなんて気持ちいい。


「歌えなくなったわけじゃないし」


 それに,いつまでこの状態が続くのかも分からない。


 歌が歌えるだけでいいんだって。


 それだけで何も問題はないと思った。


 あ,サッカーもできるよな?




「僕は何も変わってな……」


 全然平気だと言いたかったのに,急に両肩を強く掴まれて息が詰まる。


「うわ」


 そのままユチョンに突き飛ばされた。


 押し倒されて,頭を打たなかったのは幸い。


「……ユチョナ?」


「変わったよ」


 どうした?


 ユチョンはうっすら笑ってる。


 挑発されてる気がする……。


 もう,調子狂うなあ。


 ユチョンをはねのけるように,おもいっきり全身で抵抗した。




「!」




 ……へ。なんで。


 うそだ。体が全く動かない。


 びくともしないって,こういうことか。


「どこが変わってないの? 教えて」


 全然抵抗できない。


 必死で振りほどこうとしてるのに,手足がまったく動かない。


 逆に,どんどん体がソファに沈んでいくみたいだ。


 何を考えてるのか分からないユチョンの表情。


 血の気が引いた。


 女子って,こんなに不利なのか!


「やっ……」


 こわい。


 どうしてそんなにこわい顔してるの。


「そんなに怯えないで」


 低い声は優しい。


 でも,細められた目が僕に近付くと,ますます恐怖心を煽られる。


「ほら。どうなの」


 両手首はユチョンの大きな手に強く握られて,ソファに押さえつけられている。


 お腹と太股も脚で押さえつけられて身動きをとれない。


 なんでこんなにこわいんだろう。


「ほんとに,変わってない?」


 いや,こわいっていうか,なんというか。


 僕,腰が抜けてしまっているのかもしれない。


「……っ!」


 顔がもっと近付いてきた瞬間,思わず目をつぶってしまった。


 僕はどうなる。








 ふいに緊張感なく笑ったユチョンは,そっと僕の手首を離す。


 どさくさに紛れて首にキスされたのが気にならなかったくらい,とにかくびっくりした。


 圧迫感から解放されると,なんだか腹が立ってきた。


「なっ,なんだよー!」


「え,ジュンスは無防備だなあと思って」


「こわかった!」


 ユチョンの肩を2,3発殴ってやった。


 ねこぱんちだ。弱すぎる。


「ごめん。怖がらせてごめんね」


 わざとならもっと悪い。


「俺は弟がいなくなるなんて考えたくないけどな」


「妹欲しくないの!?」


「そういう問題?」


 うーむ。


「あのね,そんな格好してたらちょっと,目に毒」


「?」


 いつもと同じじゃん。


「女子が男の前で,下着も付けないで,そんなかっこする? 子供じゃないんだから」


 事務所のヌナにとりあえずなんかたくさん着せられてたけど,苦しかったからさっき自分で脱いでしまった。


 今タンクトップ1枚に短パン。


 見下ろしたら,小さな胸と太ももが思いのほかアピールされていた。


 野性的でいいじゃないか!


「痴女なの?」


「……女は今日が初めてなの!」


「えーい,初めてなら逆にもうちょっと気を遣ってよ」


 あー,女子って面倒くさい。


 っていうか僕は,女子にして女子に非ずだ。


 もう,どうだっていいじゃないかあ!


 いら立つ僕を尻目に,ユチョンはやたらと僕を構いたがる。


「なんかユチョン,前と態度違うんだけど……」


「そう?」


 前はこんなことなかったのに。


 僕が女子になったから?


「僕は僕だよ」


「うん。ジュンスはジュンスだ」


 ユチョンの指が僕のほほを撫でる。


「俺の大好きなジュンスだよ」


 恥ずかしいこと言うな。


 こんな甘やかし方されたら,普通は怒るか笑っちゃうのに……。


 なぜか今は,まったくいらいらしない。


「あー,かわいい」


「……僕が!?」


「うん。かわいい」


 ユチョンはうっとりしながら体のあちこちを撫でてくる。


 困惑。


 嫌がらない自分に。


 ユチョンにどれだけ甘やかされようと,そんな自分に違和感を感じないなんて。


 なんかおかしい。


 体が変わると心も変わってしまうのか?


 一人で考え込んでいると,赤ちゃんにするみたいにほっぺにちゅーされた。


「これは嫌じゃない?」


「や,じゃないけど」


 さっきまであんなに怖かったのに,なんで今は怖くないんだろう。


 優しく抱っこされたら,なんだかほっとした。


 でも,どきどきは治まってない。


 ユチョンの顔を見上げる。


 なんだろう,顔赤くなったかも。


 恥ずかしい。


 なんでこんな照れるんだ。


「……そんなじっと見るなよ」


「本当に女の子だなと思って」


 自分でも,まだそこまでじっくり鏡で見てないよ。


 感触を確かめるみたいに,指先で唇をもてあそばれた後,手を取られて爪先までじっくり眺められる。


「……ほんとに僕でしょ?」


 割とあちこち面影があるのだ。


 見事に女子なだけで。


「うん。ジュンスなのは分かる。においとか」


 嗅ぐな。動物か。


「声もかわいい。もっとしゃべって」


 そんなこと言われると,しゃべりにくい。


「緊張するなよ。俺はもう慣れたから」


 慣れとかいう問題なんだろうか。


「なんで,どきどきしてるの?」


 ユチョンが僕の胸の上に手のひらを当てた。


 意外に胸が小さかったから,どきどきしてるのがすぐばれちゃうんだ。


 だめだ。落ち着かない。


「だって……」


 どう言えばいいのか。


 直感的に,あまりよく考えない方がいい気がするけど。


 なんだか,ユチョンがかっこいい。


 すごくかっこよく見えてどきどきするんだけど,そんなこと恥ずかしくて,面と向かっては言えない。


 今まで何度も,かわいいとかかっこいいとか,感心したことは何度もあるのに。


 こんな風にどきどきしたことなかったから,どうしていいか分からない。


「ん? なに,ちゃんと言ってよ」


 う,泣きそう。


 意味分かんない僕。


「……なんか,こわいぃ」


「なんで!? こわくないこわくない。ほらほらかわいいユチョニだよお」




 ユチョン渾身の愛嬌は,誰にも見せられないくらい酷かった。