道理で誰とも違うと思った。

 ジュンスは特別だった。

 彼が何者かなんて関係なく,俺はジュンスだけに惹かれた。

 まるで俺が彼に出会うために生き存えてたみたいに。

 エルフだなんて,話にしか聞いたことがない種族だ。

 エルフの森が焼き尽くされて以来,なかなかお目にかかれないという。

 どこかにいるらしいとは聞いたことがあるけれど。







「僕,ふつうの人間じゃなかった。母さんの血が濃く出たみたいだ……」

 ジュンスのママがエルフ?

 全然気付かなかった。

 よくよく聞けば,ジュンスはハーフエルフらしい。

 母方のエルフの血が強く表れたのがジュンスで,父方の人間の血が強く表れたのがジュンスのヒョンのようだ。

 ジュンスがすぐにハーフエルフだと言い出せなかった理由はなんとなくわかる。

 やっぱり自分が何者かなんて重大なことが揺らいだら,そんなに簡単に割り切って受け入れることなんてできないだろうし。



 少し御飯も食べてくれたので,シャワーを浴びて早く寝るようにと言ったら,独りにしないでほしいとシャツの裾を引っ張られた。

 そんな風にされて,拒めるわけがないのに。

 眠たそうなジュンスに何かしてしまわないうちにと,急いでシャワーを浴びた。

 すかさず出せ,飲ませろとねだられたときは,泡まみれにしておいしくないって言って,なんとか阻止した。

 そんなに分かりやすくがっかりしないでほしい。

 俺が欲しいなんて,そんな声で言わないで。

 乞われるまま,なんでもあげたくなってしまう。



 今夜も,温かいジュンスの体を抱きしめて眠れる。

 ジュンスをベッドに寝かせ,腕枕をしてしっかりと抱き寄せた。

 それにしても,この世界で希少種になっているエルフが生きることって,かなり難しいんじゃないのか。

 ジュンスのママは一体どうやって子育てしてきたんだろう。



「なんで,今になって分かったの? エルフだって」

「……僕が生まれたばかりの頃,母さんが僕に魔法を掛けたんだ」

「魔法?」

「生涯を共にする相手と結ばれたとき,自分が何者なのかわかる呪文を掛けられた」

 生涯を共に?

「その人と結ばれるまで,僕のエルフの力を閉じ込める魔法だったみたいだ」



 ジュンスのママは,生まれたばかりのジュンスに暗示を掛け,エルフ特有の能力を封じ込めてエルフらしさを消した。

 エルフの能力は,普通に生活するには邪魔になる。

 幼い子供なら確実に持て余すだろう。

 見つかれば,好奇の目にさらされて身体の無事も保証できない。

 命に関わることもあるかもしれない。

 安心してジュンスを生かすために必要な措置だった。

 すべてはジュンスを守るために。

 いずれ,大人になったジュンスが自らの力を認識したとき,共に生き,支える者がいるようにという親心だ。



「でも,いつまでも知らずに生きていくわけにはいかないから……。ユチョンと初めてしたときにわかったんだ」

 初めてって,あのときか。誘惑に完敗した日。

「本当に,魔法が解けた」

 それはつまり,俺がその相手として選ばれたってことだよね。

 都合のいいように解釈するなら,これはプロポーズだ。

 しかも,親公認の。

「ねえ,それって,俺がジュンスを守るから,もうそんな魔法はいらないってことだよね」

 心細そうな表情が,穏やかで優しい笑顔に変わる。

 生涯を共にする相手って,俺なんだよね?

「うん……」

 守りたい。

 ジュンスを独りになんてしない。

 そばにいるのが俺でいいなら,共に生きることを許してくれるだろうか。



 ヴァンパイアになるかならないかなんて,心配することなかったんじゃないか。

 俺が何者だろうと関係ないんだ。

 恐れていたことは何もなくなった。

 はじめからそんなこと,怖がる必要なかったんだ。

 ジュンスが俺を信じてくれていたのに。

 腕の中に閉じ込めた愛しい存在に向けて,自然と言葉が溢れてきた。

「ジュンスヤ,俺と,ずっと一緒に生きてくれる?」







「…………」

「……ジュンス? ……ねちゃった,の?」

「ん……,目,覚めた……今ので」

「聞いてた?」

「うん。ちゃんと聞いてたよ」

 ジュンスのあったかい手がほほに触れる。

「でも,もういっかい言って?」

 ぱっちり開かれた目を見つめながら,どうしようもない愛しさを感じて声に出す。

「ジュンス,愛してるから,俺とずっと一緒に生きてくれる?」

 こらえきれないように笑って,目を細めるジュンス。

「返事は?」

「うん。ユチョンとずっと一緒にいる」

「約束?」

「約束!」

 かわいいくちびるが襲ってきたので,負けじと食いついた。

「ねー,しながら,もういっかい言って?」

 くちびるを付けながらねだられる。

「しながらって」

 大事なプロポーズを,そんなに何回もしろと?

「だって,嬉しかったんだもん」

「1回で効力あるんじゃないの?」

「えー,けち」

「生涯の伴侶に向かって,けち?」

「フフ,いいな。伴侶だって。僕,ユチョンの伴侶だ」

 とろけそうな笑顔を見て,これから何度でも言ってあげようという気になった。

 ずっと,ジュンスを喜ばせてあげたい。







 しかし,ジュンスは今までよく無事だったな。

 本当に俺と結ばれるためだった?

 俺より先に,誰も運命の相手に選ばれなかったということなのか,それとも……?

「知ってる? エルフは不老長寿なんだよ」

 聞いたことがある。ジュンスもそうなんだろう。

 俺は不死だから,ジュンスより長く生きてしまう。

「だからかな。僕にかけられた魔法って,相手も不老長寿とかじゃないと解けないやつみたい」

 人間相手じゃ駄目ってことか。

 待てよ……。

 もしかしたら,ジュンスのママはずっと,ジュンスが死ぬまでハーフエルフだなんて知らなくていいって思ってたのかもしれない。

 だとしたら俺,許してもらえるのかな……。

 ジュンスの小さな手をとって,強く握る。

 まぶたに優しいジュンスのキスが落ちてきた。

「ユチョンに会えて,よかったね。僕」



 ジュンスがそばにいてくれるなら,死なんていらない。

 どうか俺に魔法をかけて欲しい。

 君がいなくなるとき,俺も一緒に死ねるように。