怒っているのか焦れているのか,複雑な表情からは真意が読み取れない。

「僕を犯して?」

 掠れた声でつぶやかれ,言葉を失う俺にジュンスが口付けてくる。

 覚悟していたからか,自分でも意外に思うほど,俺は冷静だった。

 ジュンスのキスに応えながら,衝動を抑え込む。

 告げなければならないなら,今だ。

「ジュンス……,俺はお前を愛してる」

「僕も。君は僕のものだ。そうでしょ」

 願ってもない告白だ。

 俺は君のものだ。思いは通じ合ってるはずなのに。

「そうだよ。だから……」

 だから,体だけが欲しいわけじゃないし,ジュンスを大事にしたいって,わかってるよね。

 ジュンスが微笑む。

 やっぱり君は死よりも蠱惑的だ。

「君が僕に咬み付きたいの,知ってるよ」

「……どうして」

 俺がヴァンパイアだって知ってる?

 ジュンスには内緒にしてほしいとみんなに頼み込んだのは俺だ。

 知らずに俺と接していたジュンスが,後から真実を知って,嫌がるんじゃないかと思うと怖かったから。

「なんとなく気付いて,ユノヒョンたちにも言った。だから,みんなから聞いたんじゃないよ。それに,僕が知ってること黙っててって言ったんだ。ごめんね」

 ジュンスが悪いわけじゃない。

 それに,よかった。ヴァンパイアだって知っても,警戒しないんだ。

 ほっとした。

「君が我慢してるのがたまらなくかわいかった。いつ僕を殺してもよかったのに,全然そんなそぶり見せなかった」

 ジュンスの手がそっと俺の頬に触れる。

「ごめんね。ずっと気分が良かった。僕のこと好きなのはすぐわかったから。優しくされたくて,ここに来てた」

 優しくなんていくらでもする。

 だって俺は君が好きでたまらないんだもの。

 君が笑っても怒っても泣いても,俺は君が喜ぶことだけをしたかった。

 俺といると気持ちいいって思い込んでほしかったから。

「ユチョンはいつも優しかったから……。いつもユチョンだけが安心をくれたんだ」

 結局,何も無理せず,ジュンスといて気持ちがいいのは俺だったんだけど。

 ジュンスも俺といて心地よかったんだ。

 俺を必要としていてくれた?

「僕が何をしても許して,優しくしてくれるのに,僕が思わせぶりなことすると,ユチョンは知らんぷりしようとした。でも,この前は,僕が我慢できなくて……」

「俺だって我慢できなかった」

「でも,僕を咬まなかった」

 咬んだら,君を殺してしまうから。こんなに美しい君を。

「咬まれてもいいと思ってた。ユチョンと同じになれるんでしょ? 僕はそれを選ぼうと思ってた。ずっと」

 瞳はまっすぐ俺を見つめて,揺るがない。

「覚悟してたんだ」

 なんてことだ。

「僕を咬んで。ユチョニのものにして」

 恐ろしく甘い誘惑に慌てる。

 あり得ないと思いながら夢見ていたことが実際に起こると,嬉しいよりも困るんだな。

「……でも舞台が」

 情けない顔になりながらつぶやくと,見事に間抜けな声だった。

 ジュンスが笑い出す。

「君,やっぱり変わってる。人間みたいだ」

「だって,これから舞台が続くだろ。みんな観たがってる。俺も観たいよ。だから」

「じゃあ舞台が終わったら,僕を咬んで」

「……ちょっと,考えさせて」

 混乱する。君が望むことなら,すべてしてあげたいのに。俺の本能を求められているのに。

 素直に喜べないのはどうしてだろう。

 だって,君は,人間だし。

「ユチョニにあんまりいじわるするなって,ジェジュンヒョンに言われた」

「ヒョンに?」

 ジェジュンヒョンはどこまで知ってるんだ。

「でも,やめろとは言われなかったよ。よく考えろって言われたけど,よく考えて,気持ちに正直に行動してたら,結局君に我慢させて,いじわるしてたみたいだ」

「いじわるなんかじゃないよ……」

 ジュンスが俺に会いに来るのが嬉しかった。

「ジュンスが俺に甘えてくれるのが嬉しくて……,もっともっと甘やかしたかった」

「僕はそれが気分よかったよ。ってことはやっぱりいじわるじゃない?」

 それは,俺の思うつぼだよ。

 俺は君に翻弄されたいんだ。

 ジュンスの好きなようにされたい。

 君は自由に俺を翻弄しながら,結局,俺を愛してしまったと言う。

「それがいじわるなら,いじわるなジュンスが好きだよ」

 俺って,救いようがないな。

「ジュンスにもっと,いじわるしてほしい」

 別にマゾヒストなわけじゃないんだけど,ジュンスのかわいいいじわるなら,なんでも受け入れられる。

「ほんとに? だったら……」

 思いがけない力で腕を引っ張られ,そのままソファの上に押し倒されてしまった。

「いい?」