彼は死の歌を歌う。

 骨まで溶かされてしまいそうに甘く響く声。

 死は君にとても似合ってる。

 愛しい。俺にとって,死のように甘い存在。

 マチネの一幕が終わった後,耐えきれずにジュンスのもとへ向かった。

 興奮している俺を見ながら,何より先に出来の心配をしてくるところがいじらしい。

 舞台の上のジュンスは神懸かってた。

 息をするのも忘れるほどに見入ってしまった。

 邪魔になる訳にはいかないと思って別れを告げると,ジュンスはソワレの後で俺の家に行きたいと言って,名残惜しそうに俺と別れた。



 舞台の上のジュンスだけを見つめる。

 あの美しい生き物を,俺は一度深くまで味わったんだ。

 思い出すと胸の底が疼く。

 あの日以来,今日まで忙しいジュンスとはなかなか会うことができなかった。

 そのせいもあってか少し熱を冷ますことができたんだけど。

 俺は我慢できる。

 ジュンスの人生を狂わせたりなんかしない。

 そう決めたはずだったのに,また舞台で歌うジュンスを見つめながら,どうしても彼を自分のものにしたくてたまらなくなった。

 ああ,懲りない。

 でも自分でもどうにもできないんだ。







 俺は異端のヴァンパイアだ。

 人間の血も精も必要じゃなかった。日の光にも耐性がある。普段は棺桶も使ってないし。

 同族から排除されたり羨ましがられたりしながら,まるで人間のように,ひっそり生きてきた。

 なのに,衝動はそこらのヴァンパイアと同じだった。咬み付いて血を啜りたい。

 それは本能なんだろう。

 そんな自分のヴァンパイアらしさを感じたのは初めてだった。

 ジュンスに出会ってからだ。

 でも,彼にそんなことをしたくない。

 やっぱり彼をヴァンパイアになんてできない。

 俺はこの身も心も彼のものだけど,彼は,俺だけのものじゃないから。

 結論はこうだ。



 もしも彼に咬み付きそうになったら,彼に俺を殺してもらおう。







「初演の成功おめでとう。早かったね」

「ごめん,もう夜中だ」

 来るなり強く抱きつかれて困惑した。

「早く会いたかった」

「待ってたよ」

「ねえ,ベッドに連れてって」

 俺の手を引いて,寝室に向かおうとする。こんなに早い展開は考えてなかった。

 もっとジュンスとおしゃべりがしたかったから。

「……ジュンスはお酒飲まないよね。なんか酔ってるみたいだ」

 途中で足を止めた俺にジュンスが向き直る。

 ジュンスの何もかもが俺を誘っている。舞台の後だから?

 それにしても恐ろしいほど本能に働きかけてくる。

 表情も,体温も,香りも,俺の理性をなくそうとするみたいに。

「飲んでない。ねーお願い」

「もう,ねむたいの?」

「ユチョニと寝たい」

 見上げてきた瞳は潤んで,汚れなくて純粋そのものなのに,どうしてこんなに俺を煽って挑発するんだろう。

「だめ? お願いしても?」

 甘い声が耳をくすぐる度,全身に電流が走るみたいだ。

「ユチョンのことその気にさせないと,だめ?」

 ちろりとくちびるを舐めた舌先が覗く。

「そうじゃなくて……。ジュンス,疲れてるんじゃないの?」

「疲れてない。うんといっぱい動きたい。なんでだめなの」

「……ジュンスを壊してしまいそうだ」

「壊して」

「……殺してしまうかもしれない」

「殺して」

「どうして,そんなこと言うの」

 ジュンスの両手が俺の首筋を撫でる。

「抱いてくれたら教えてやる」