「ただいま」

「……おかえりっ」

 抱きつかれて,思い切りよくキスされたので,返り討ちにした。

 うっとりした顔で脱力する体を強く抱いて支える。

 やっぱり痩せたと思っただけで,胸が苦しくなって,縋り付くみたいに抱きしめた。

 全身からお風呂上がりの優しいにおいがしてくらくらする。



「ユノヤ,何か飲む?」

 まるで日常のように接してくれるのがうれしくて,むずがゆい。

「んん,いい。ジェジュン何してたの」

「さっきまで飲んでた」

 家で? ひとりで?

「ユチョニと飲んでて,さっき帰ってきてお風呂入ったんだ」

「ユチョンと? 2人で仕事だったっけ?」

「ううん,3人一緒だったけど,ジュンスはサッカーしに行った」

「ハハ,元気ならいいけど」

「元気だけど忙しくて,なんか,欲求不満みたいだ。俺みたいに」

 聞き捨てならないと思いつつ,靴を脱いだ途端に力強く手を握られ引っ張られる。

「足りなかった? 昨日のじゃ」

 もういいって言うくらいどこもかしこも愛した。昨日も俺が帰ってきたのはこの家なのに。

「ちがう,俺,欲張りなんだ」

 笑い声を含んだ声に思わず笑って返すと,後ろから少し見えた横顔が寂しそうだったから気になった。

「ジェジュンア,シャワー浴びたい。すぐ行くから待ってて」



 気持ちは言葉にして伝えても,きちんと伝わっても,たとえお互いが同じ気持ちだったとしても,それを分かち合えるとは限らないって分かった。この数年の出来事だ。

 好きだから,愛してるから,だから一緒に生きられるわけじゃない。

 俺たちの正直な気持ちは純粋で,無邪気でも,それだけで報われるわけじゃないって,すごくよく分かってるけど。

 だから,打ちのめされたのだけど。

 やっぱり正直な気持ちが何より一番強い。

 何かを見て,どう目に映るかは,その気持ち次第だから。



「ゆの……,お風呂長い」

 ベッドに向かうと,すでにジェジュンが横になっていた。アッパーシーツから素肌の二の腕と胸がはみ出してる。

「ごめん待たせて。また飲んでたの?」

「ん……」

 ベッドに乗り上がると,とろんとした瞳が見上げてくる。

 うれしそうな満面の笑みで両腕を差し出されて,求められるのは気分がいいけど,明らかにジェジュンは酔ってる。

「これ,飲み過ぎだろ」

「ぜんぜん飲んでない。ほんのちょっと,残ってたの飲んだだけ」

 ベッドサイドにほとんど溶けた氷の入ったグラスとウイスキーの空瓶。まさか本当に全部飲んだんじゃないだろうけど。

 髪を撫でて,頬を包み込む。少し熱い気がする。

「ふふ」

 この表情。ちゃんと正気があるのかどうか心配になる。

「ゆの,ちゅー」

 囁くような声でねだられる。分かりやすく体が反応してしまった。

 酒が強いのは考えものだ。調子に乗って飲んでも身体的な不都合がすぐには出てこないから。

「ジェジュンア」

「ちゅうーう,して」

 目を閉じて甘くつぶやかれる。

 こういうのは惚れてる方が負けって決まってる。

 何を言われても何をされても,もう,俺にはジェジュンを喜ばせることしか考えられないんだ。







 抱き合っているうちにジェジュンの酔いは醒めたようだ。うらやましい身体だな。

 ジェジュンの色々を口にして,逆に俺が酔っぱらうんじゃないか。

「なんかすっきりした」

「俺はもうちょっと話がしたかったのに,ジェジュンが襲うから」

 ベッドの上で体を起こして,ジェジュンが差し出したたばこを吸う。

「……だって,話聞くとそわそわするから。考えたら会いたくなる。どこかに行きたくなる。行くところなんて別にないのに」

 チャンミンに会いたい。何度もつぶやかれると,うれしいような,少しもやもやするような。

「今は俺がいるのに?」

「すぐにいなくなるだろ」

「それはジェジュンだって同じだろ」

「電話しても出ないし」

「出られるときは出てるじゃん」

「電話もそんなにくれないし」

「俺が掛けても出られないときあるだろ」

 またケンカのようになってしまった。さっきも抱き合いながら,似たような話をしたばかりだ。

 言葉が違っても,お互いに言い放ってる内容は一緒だ。

 いつも会いたい,声が聞きたい。

 隣で横になったジェジュンの顔を覗くと,あまり見たことのない,ナーバスな表情をしていた。

「会いたいんだ。ユノがいないと。会いたくなるんだ。ちょっとでも聞いたり見たりすると,つらい」

「俺だって会いたかった」

「……ずっと,ユノは俺のもので,俺と一緒で,まるで自分みたいに思ってた」

 離れられるなんて,思わなかったんだ。

 そんなの,俺も同じだ。



 ジェジュンが不安になるのは言葉だけじゃ足りないからだ。

 体温に触れていないと,不安なんかなくならない。

「ジェジュンは俺のものだよ」

 たばこの火を消して,ジェジュンを抱きしめる。

「ジェジュンが誰と会ってても,俺のだと思う」

「なんでそんなに自信があるんだ」

 ジェジュンが俺の首に両腕を巻き付けて,抱きしめ返してくる。

 ふと,ジェジュンの胸元に1か所,せがまれて付けた痕が目に入る。これは虫さされだなんて通じないぞ。

 でも,ジェジュンがそんな風に愛されないと満たされないって,俺は知ってる。

「じゃあ,俺がそう思ってるだけ?」

「ちがうよ……」

「愛してるから。ジェジュンア,俺のものだろ」

 俺は怖がらない。

 求めても手に入らないものがあるなんてことは,分かるほどに大人になったつもりだから。

 また,会えない日々は続くのだから,ケンカなんかせずにいよう。

 額にそっとキスをすると,ジェジュンがやっと,少し笑った。

「……ありがと。そう,思ってくれて……」

 また,見慣れない,せつない表情だった。

「愛してる」

 信じられるのは,この気持ちだけだ。