映画「団地」 | MOONLIGHT EXPRESS ムーンライトエクスプレス

映画「団地」

僕は現在、奥さんと一緒に市営の団地に住んでいる。

築四十年以上だが、見た目はそんなに古くなく、何棟も連なっているわけではなく、
1棟建てでありあまりごちゃごちゃしていない。

目の前が大きな木が並ぶ公園であるため、夏は蝉の声が五月蠅いがとても日当たりが良い。

低所得者用の住宅なので家賃がとても安いのが最大の利点だ。

その代りに5階建てであるがエレベーターはなく、4階に住む僕らは毎日階段を上り下りするのが
少し億劫である。

僕の住む団地には色々な人が住む。

耳の聞こえない老婆。

日常の買い物まで大変そうな太り過ぎの中年の母親。

表情に乏しく常にぼーっとしている知的障害の男の子。

夜、娘を一人にして働くシングルマザー。

団地には住む人の数だけ様々なドラマがある。

そんな団地を舞台にしたのがこの映画。

僕の好きな映画「顔」の阪本順治監督と藤山直美が再びタッグを組むのだから期待は高まった。

事故で子供を失った傷心の母親を演じる藤山直美は本当に上手い女優だと思った。

スーパーのレジ打ちのパートの最中、店外に呼び出され店長に怒られ、ボーダーの袖をバーコードに見立て何度もレジ打ちの真似をし自分の自然な表情を取り戻そうとするシーンは可笑しくも悲しかった。

そんな妻に稼業である漢方薬屋を廃業させられ、生きがいもなく団地で新しい人生を送る岸辺一徳の夫も飄々としていてよかった。

脇を固める噂好きな団地の住人達もそれぞれ個性が生きていてよかった。

映画の後、阪本監督の舞台挨拶があった。

「この映画は何というジャンルですか」という質問に監督は「阪本のSと藤山のFでSFです。」と答えていた。

団地で始まるこの物語は、途中から確かに奇想天外な方向に話が進み、SFへとなっていく。

その展開に好みは分かれると思うが、僕は嫌いではなかった。

「顔」のように、生きるために大海に泳いで逃げていくような強い意思はないが、悲しみや辛さからの逃避行する生き方にも救いが見出されていた。

いつもはガラガラの別府唯一の映画館「別府ブルーバード」で見た。

「顔」の一部を同映画館の映写室で撮影した縁のある阪本監督が舞台挨拶を行ったおかげで満席だった。

客席に傾斜が無く画面が見づらかったり、サービスが悪かったりするが、85歳のおばあちゃん館主が頑張っているのでなかなか厳しそうだが存続してもらいたい。