やさしく姉が彼を問い詰めた。

札幌まで行ったことを

話したのだが、

結果ムンクの版画は見れなかった

と言ったとたんに

姉が怒り始めた。

それは性根がない

自分の行動にまったく責任を

とれてないと言って

内緒で札幌へ行こうとしたことより

版画も見れなかったことに

憤怒して彼を

泣きながら殴った。

かれは怖かった。

明らかにかれのメンタル以外の

ものに対しての憤怒だった。

そんな姉がまぶしかった。

 

姉に縁談が持ち上がったのは

日曜の朝のことだった。

何やら家じゅう生気づいて

いるのを不思議に思い

居間に入った。

母がなにやら姉に

くどくど説明していた。

かれは

「何の話だようるさくて

寝ても入れないよ。」

いかにも眠そうにポーズを作った。

「お姉ちゃんの旦那さんに

なりたいって人が今日

家に来るんだって。

急に言うんだもの・・・。」

と、しかめっつらをした。

「そんなこと私だって急に

言われたんですもの・・・。」

なにかしら、

話が長引きそうだから

そんな雰囲気でしょうもない、

ってポーズを作ろうとしたとき

かれは胸が熱くなり

泣き出してしまった。

どうしても泪が止まらず、

母と姉の前で

嗚咽してしまった。

窓の外はよく晴れた

春の日だった。