「風街レジェンド2015」8/22(土)東京国際フォーラム ⑧ | BIGな気分で語らせろ!

BIGな気分で語らせろ!

気分だけでもBIGに。
ビートたけしさん、北野武監督、たけし軍団、その他諸々について気が向いた時に。

吉田美奈子さんが残した妖艶な熱風をクールダウンさせるかの様にインストゥルメンタルで演奏されたのは、風街バンドによる「スピーチバルーン」
これはメンバー紹介も兼ねていて、間に「カナリア諸島にて」も挟まれる形式でした。

漫画の台詞を入れる“吹き出し”を意味する「スピーチバルーン」をインスト形式で演奏するなんて、こんなに粋な計らいもないなと静かに感動しておりました。
そしてこれがエンディングで、更に大きな感動を呼び起こすとはこの時は思いませんでした。

メンバー紹介で改めて感じましたが、今回の風街バンドは普通では考えられないくらいの豪華メンバーです。ざっくり言ってしまえば“キャラメル・ママ&Parachute混成部隊”。この日演奏された曲目を、当時のレコーディングで演奏した人が沢山います。こんなに豪華なメンバーが揃う事は2度と無いのでは。いえ、それがまた実現するとしたら、それは松本隆50周年コンサートでしょう。

そして次に演奏されたのは、中川翔子さんの「綺麗ア・ラ・モード」
私はこの曲を初めて聴きましたが、近年に於いても松本隆さんが素晴らしい作品を残している事に感激しました。
また中川翔子さんは、ある意味では“色モノ”としてのイメージが強烈ですが、この様な正統的な作品をじっくりと聴かせる事の出来る実力を持っている事を改めて実感しました。だからこそ松本隆さんの作品提供が実現したのでしょうし、それをこの場で歌う事になったのでしょう。
そして中川翔子さんの作品は、70~80年代の作品群と並べても全く違和感の無いものでした。

そして続くのは、
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斉藤由貴さんの「卒業」
個人的に大好きな曲なので、非常に楽しみにしていた一曲です。

この曲の詞には、松本隆ワールドの真髄が詰まっていると思います。
歌詞の内容は学園生活を回想し別れを惜しむものですが、しっかりと前を向いて先に進んで行こうという意思が描かれています。これは一連の聖子さんの歌詞でも同じですが、過去を乗り越えて未来に向かう強さが描かれているからこそ、松本作品は性別も時代も超えて聴き継がれているのだと思います。

そして、私が聴くたびにいつも感動してしまう一節が、

“駅までの遠い道のりを
はじめて黙って歩いたね”

という部分です。
昨今のヒット曲は、好きだとか愛してる等のストレートな言葉を、ひたすら連呼するものが多く見受けられます。
しかし「卒業」でのこの一節からの方が、伝えたくても伝えられない気持ちが痛い程伝わってきます。

また松田聖子さんの「赤いスイートピー」の、

“何故あなたが
時計をチラッと見るたび
泣きそうな気分になるの?”

という一節からも、同じ想いが伝わってきます。

古来より日本人は気持ちをストレートに伝える事よりも、胸の内に秘める事を美徳としてきました。これは島国という特殊な環境下で、更には村社会で協調して平和に生きて行く為に必要な知恵として育まれてきた日本の文化です。そしてこの奥ゆかしさこそ、日本人の感性であり美学なのだと私は思います。

そして、相手が言いたくても言えないのであろう気持ちを感じ取る思いやり。これもまた日本人の美徳です。
相手の気持ちを斟酌する、行間を読む等の表現に代表されるこの繊細な感性は、これからも大切にして行かなければならない文化であると思います。

この曲のオリジナルバージョンでは、斉藤由貴さんの、湿っぽさを感じさせないある種のあっけらかんとした歌唱が魅力であると思います。

そして筒美京平さんが紡ぎ出した起伏の激しいメロディが、まだ拙さの残っていた斉藤さんの歌唱と相まって、10代の不安定な胸の内を美しく描き出していました。
このメロディとこの歌詞が出会い、それをあの当時の斉藤由貴さんが歌ったという事は、昭和歌謡曲の一つの奇跡でしょう。

そして「風街レジェンド」での斉藤さんの歌唱は、あの時の少女が歳を重ね、あの時の想い出に当時とは違った意味を今は見出している、そんな趣のある感慨深いものでした。

きっと
“でももっと哀しい瞬間”
を経験したであろう事による深みが、そこにはありました。

風街ソングはそれぞれの人生を映し出し様々に色を変えながら、永遠に輝き続けるのです。

⑨に続く。