※ この記事は初学者用に聖書を編集し 注を付したものです。
士師(裁き人)が世を治めているころ、飢饉が起こったため、ある人が妻と2人の男の子を連れて、ユダのベツレヘムからモアブの地に移り住んだ。
その人の名はエリメレク、妻の名はナオミといい、エフラタ族の者であった。
エリメレクはモアブの地でナオミと2人の子を残して死んだ。
2人の息子はそれぞれモアブの女を妻に迎えた。1人の名はオルパ、もう1人の名はルツといった。
彼らはそこに10年ほど住んでいたが、2人の息子もまた死んだ。
こうしてナオミは2人の子と夫に先立たれた。
注:モアブ人は、ロトと彼の長女との間に生まれた「モアブ」の子孫である(創世記19章36~37節を参照)。モアブ人は「ケモシュ」を拝んだ(列王記上11章7節を参照)。
ナオミはモアブの地を去って故郷に帰ることにした。主が民を顧みて、食べ物をお与えになっていることを聞いたからである。
ナオミは2人の嫁に言った。
「実家に帰りなさい。死んだ息子と私によく尽してくれました。
どうか主があなたたちに慈しみを賜わりますように。
主があなたたちに夫を与え、あなたたちが安らぎを得られますように。」
2人は声を上げて泣き、ナオミに言った。
「いいえ。私たちは一緒にあなたの民の所へ帰ります。」
ナオミは言った。
「どうして私と一緒に行こうと言うのですか。夫を持たずにいるつもりなのですか。それはいけません。
主の手が私に臨み、私を責められたことで、あなたたちのために私は非常に心を痛めているのです。」
オルパとルツの2人は声を上げて泣いた。
やがてオルパはナオミに別れの口づけをしたが、ルツはナオミを離れなかった。
ナオミはルツに言った。
「ご覧なさい。オルパは自分の民と自分の神々のもとへ帰って行きました。
あなたもオルパの後を追って帰りなさい。」
ルツは言った。
「私はあなたの行かれる所へ行きます。
あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です。
あなたが死なれる所で私も死んで、その傍らに葬られたいのです。
私があなたと別れるならば、主よ、どうぞ私を幾重にも罰してください。」
ナオミは、ルツが自分と一緒に行こうと固く決心しているのを知って、彼女を説得することをやめた。
2人は旅を続けてベツレヘムに着いた。町中が2人のことで騒ぎたった。
町の女たちが「あなたはナオミですか」と声をかけてきたので、ナオミは言った。
「私をナオミ(楽しみ)と呼ばずに、マラ(苦しみ)と呼んでください。全能者が私をひどく苦しめられたからです。
私はここを出て行くときは豊かでしたが、主は私に何も持たせずに帰されました。
主が私を悩まし、全能者が私に災いを下されたのに、どうして私をナオミと呼ぶのですか。」
2人がベツレヘムに着いたのは、大麦刈りの始まるころであった。
ナオミには、夫エリメレクの一族で、非常に裕福な親戚がいた。名をボアズといった。
注:「ボアズ」はヤコブの息子「ユダ」の子孫である(創世記46章12節・ルツ記4章18~21節を参照)。
ある日、ルツは落ち穂を拾いに畑に行ったが、彼女はたまたまボアズの畑に来た。
ボアズは農夫たちを監督している召使いに言った。
「あれは誰の娘か。」
召使いは言った。
「あれはモアブの女で、ナオミと一緒に帰って来たのです。
彼女はここで働かさせてくれるようにと言いました。それで彼女は朝早く来て、今まで休まずに働いております。」
ボアズはルツに言った。
「娘よ、お聞きなさい。ほかの畑に行くことはない。ここに居なさい。
若者たちに命じて、あなたの邪魔をしないようにと言っておこう。
喉が乾いたら水瓶の水を飲みなさい。」
彼女は地に伏して彼に言った。
「どうして私のような外国人を顧みて親切にしてくださるのですか。」
ボアズは言った。
「あなたの夫が亡くなってからも姑に尽くしたこと、また自分の故郷を離れてこの国に来たことなどを聞いた。
どうか主があなたの行いに報いられるように。主がその翼の下に身を寄せて来たあなたに、十分に報いてくださるように。」
ボアズは若者たちに命じた。
「彼女には束の間でも穂を拾わせなさい。咎めたり叱ったりしてはいけない。
また彼女のために束から穂を抜いて落しておきなさい。」
こうして彼女は夕暮まで畑で働いた。
彼女は沢山の大麦を携えて家に帰り、ナオミにそれを見せた。
ナオミはルツに言った。
「今日どこで穂を拾い集めたのか。どこで働いたのか。」
ルツは言った。
「ボアズという名の人の所です。その人は、刈入れが全部終るまで私の所にいなさいと言ってくれました。」
ナオミは言った。
「生きている者にも死んだ者にも慈しみを賜わる主が、その人を祝福されますように。」
ナオミは続けて言った。
「その人は私たちの縁者で親戚の1人です。その人の所で働けるのは大変よいことです。そうすれば、ほかの畑で人にいじめられずに済むでしょう。」
こうして彼女は、大麦と小麦の刈入れが終わるまで、ボアズの所で働くことになった。
注:次の聖句を参照。
『 畑から穀物を刈り取るときは、その畑の隅まで刈り尽くしてはならない。収穫後の落ち穂を拾い集めてはならない。貧しい者や寄留者のために残しておきなさい。わたしはあなたたちの神、主である。』(レビ記23章22節 新共同訳)
ある日、ナオミはルツに言った。
「私はあなたの落ち着き先を考えました。
あなたの主人ボアズは、私たちの親戚で、私たちの家を絶やさぬ責任のある人です。
彼は今夜、打ち場で大麦をふるい分けます。
あなたは体を洗って香油を塗り、晴れ着をまとって打ち場に行きなさい。ただ彼が食事を終えるまで気づかれないようにしなさい。
そして彼が寝るとき寝床に入って行って、彼の衣の裾で身を覆って横になりなさい。その後すべきことは、彼が教えてくれるでしょう。」
こうしてルツはすべてナオミに命じられたとおりにし、麦打ち場に行った。
ボアズは飲み食いしたあと、麦が積んである場所の傍らへ行って寝た。
そこで彼女は忍び寄り、ボアズの衣の裾で身を覆って横になった。
夜中になってボアズが目を覚ますと、ルツが足もとに寝ていたので彼は驚いた。
ルツはボアズに言った。
「あなたの裾で私を覆ってください。あなたは私の家を絶やさぬ責任のある方です。」
ボアズは言った。
「娘よ、どうか主があなたを祝福されるように。
あなたは、貧富にかかわらず、若者に付いて行くようなことをしなかった。
今あながたが示したこの親切は、これまで示した親切にまさっている。
それで、心配するにはおよばない。あなたが求めることは、すべてあなたのためにしよう。私の町の人々は皆、あなたが立派な女であることを知っているからです。
確かに私は家を絶やさぬ責任のある人間だが、私よりも責任のある人がいる。
今夜はここに泊まりなさい。
明日その人が親戚の義務を果たすというなら、そうさせよう。
しかし主は生きておられる。その人がそれを望まないなら、私が責任を果たそう。」
次の日、ボアズが町の門の所へ行くと、例の親戚の人が通り過ぎようとしたので、ボアズは彼を呼び止めた。ボアズはまた町の長老10人を呼び集めた。
ボアズは彼らの前で親戚の人に言った。
「ナオミがエリメレクの土地を売ろうとしています。
それで、あなたに親戚の責任を果たすおつもりがあるのでしたら、その土地を買い取ってください。
もしその気がないのでしたら、私にそう言ってください。責任を負っている人は、あなたのほかに私しかいないのですから。」
彼は言った。
「その責任を果たしましょう。」
そこでボアズは言った。
「ナオミから土地を買い取るときには、亡くなった息子の妻のルツも一緒に引き取らなければなりません。故人の名を再興して、その嗣業(しぎょう)の土地を後生に伝えるためです。」
親戚の人は言った。
「それはできません。そんなことをすれば自分の嗣業を損ないます。
私に代ってあなたが責任を果たしてください。」
そこでボアズは門に居たすべての民と長老たちに言った。
「あなた方は、私がエリメレクの土地をナオミから買い取ったことの証人です。
また私はルツも引き取って妻とします。これは、故人の名を再興してその嗣業を伝え、故人の名がその一族から、またその郷里の門から断絶しないようにするためです。あなた方はその証人です。」
すると彼らが言った。
「私たちは証人です。
あなたが家に迎える女を、主がラケルとレアのようにされますように。
あなたがエフラタで富を得て、ベツレヘムで名をあげられますように。
主がこの若い女によってあなたに賜わる子供により、あなたの家が、かのタマルがユダに産んだペレツの家のようになりますように。」
こうしてボアズはルツをめとって妻にした。
注:「タマル」と「ペレツ」については創世記38章を参照。
主はルツを身ごもらせられたので、彼女は1人の男の子を産んだ。
そのとき女たちはナオミに言った。
「主はほむべきかな。
主はあなたを見捨てずに、今日あなたに1人の近親をお授けになりました。
どうかその子の名がイスラエルの中に高くあげられますように。
その子はあなたの命を新たにし、あなたの老年を養う者となるでしょう。あなたを愛するあなたの嫁、7人の息子にも勝る彼女が彼を産んだのですから。」
そこでナオミはその子を養い育てた。
近所の女たちは「ナオミに男の子が生れた」と言って、彼にオベドと名づけた。
オべドにはエッサイが生まれ、エッサイにはダビデが生まれた。
注:ユダ → ペレツ → へツロン → ラム → アミナダブ → ナフション → サルマ → ボアズ → オベド → エッサイ → ダビデ(歴代誌上2章3~15節)