※ この記事は初学者用に聖書を編集し 注を付したものです。

 

 

ヤコブの息子たちはベニヤミンを連れてエジプトに行き、ヨセフの前に立った。

 

ヨセフは執事に言った。

「彼らを家へお連れしなさい。一緒に食事をする。」

 

執事はシメオンを連れて来て、彼らをヨセフの屋敷に入れた。

 

ヨセフは帰宅すると、彼らに尋ねて言った。

「前に話していたお前たちの父は無事か。まだ生きているか。」

 

彼らは答えた。

「父は無事で、まだ生きております。」

 

ヨセフは目を上げ、同じ母から生まれた弟ベニヤミンを見て言った。

「これが前に話していた末の弟か。我が子よ、どうか神がお前を恵まれるように。」

 

ヨセフはベニヤミンを見て懐かしさに胸が熱くなり、急いで席を外すと、奥の部屋で泣いた。

 

やがて顔を洗って戻って来ると、平静さを装って「さあ、食事をしよう」と言った。

 

こうして彼らは食事をし、共に楽しんだ。

 

ヨセフは密かに執事に命じた。

「あの者たちの袋の中に、運べるだけ多くの食糧と代金の銀を入れておくのだ。

それから私の銀の杯を1番年下の者の袋に入れておきなさい。」

 

次の朝、彼らは見送りを受け、出発した。

 

ヨセフは執事に命じた。

「すぐにあの者たちを追いかけてこう言いなさい。

『なぜ悪をもって善に報いるのか。あの銀の杯は、主人が飲む時や占いの時に使うものだ。お前たちのしたことは悪いことだ。』」

 

執事は彼らに追いつくとこれらの言葉を言い、彼らの袋を調べた。杯はベニヤミンの袋にあった。

 

そこで彼らは町へ引き返し、ヨセフの前で地にひれ伏した。

 

ヨセフは彼らに言った。

「お前たちのこの仕業は何事か。杯を持っていた者を私の奴隷にする。ほかの者は父のもとへ帰るがよい。」

 

ユダがヨセフに近づいて言った。

「ああ、主君。どうか、ひとこと言わせてください。

 

父の魂はこの子の魂と結ばれていますから、この子と一緒に帰らなければ、父は悲しみのあまり死んでしまうでしょう。

 

私はこの子を連れて帰らなければ、永久に罪を負うと父に誓ったのです。

 

どうか私を代わりに奴隷にしてください。この子を連れずに父のもとへ帰ることはできません。」

 

ヨセフは平静を装っていることができなくなり、仕えている者たち全員に、

「皆ここから出ていってくれ」と叫んだ。

 

ヨセフは兄弟たちに自分のことを明かすと、声を上げて泣いた。

 

ヨセフは言った。

「私は兄さんたちを恨んだりしていません。飢饉から私たちの命を救うために、神が先に私をお遣わしになったのです。

 

そして神は私をエジプト全国の宰相にしてくださいました。

 

ですから急いで父のもとへ帰って、私の所へ来るように言ってください。そしてゴシェンの地域に住んでください。

 

飢饉はあと5年続きますから、私がそこで皆を養いましょう。」

 

兄弟たちは父ヤコブのもとへ帰ると、事の次第を話した。

 

ヤコブはそれを聞くと気が遠くなった。とても信じられなかったのである。

 

彼らはヨセフが語った言葉を残らず話し、ヨセフが父を乗せるために送った馬車を見せた。ヤコブはそれを見て元気を取り戻した。

 

イスラエル(ヤコブ)は言った。

「満足だ。ヨセフが生きていた。エジプトに行こう。死ぬ前にどうしても会いたい。」

 

イスラエルの息子たちは馬車にヤコブと家族を乗せ、エジプトへと旅立った。

 

エジプトに行ったヤコブの家族は、全部で70人であった。

 

途中『ベエル・シェバ』に着くと、父イサクの神に犠牲をささげた。

 

その夜、神は幻の中でイスラエルに言われた。

「私は神、あなたの父の神である。

 

エジプトに行くのを恐れてはならない。私はそこであなたを大いなる国民にする。

 

私はあなたと一緒にエジプトに行き、また必ずカナンの地へ導く。

 

ヨセフがあなたの目を閉じてくれるだろう。」

 

ヤコブは『ベエル・シェバ』を立った。

 

ヤコブはゴシェンの地でヨセフと会うために、先にユダをヨセフの所へ遣わした。

 

ヨセフは父イスラエルを迎えるためにゴシェンに行った。

 

そして遂に、彼らはゴシェンの地で再会した。

 

ヨセフは父の首に抱きつき、しばらく泣いていた。

 

イスラエルはヨセフに言った。

「私は死んでもよい。お前が生きていて、こうしてお前の顔を見ることができた。」

 

ヨセフはヤコブを導いて、ファラオの前に立たせた。

 

ファラオはヤコブに言った。

「あなたの年はいくつか。」

 

ヤコブは言った。

「私の旅路の年月は130年です。私の齢(よわい)の日はわずかで、苦しみ多く、先祖たちの齢と旅路の年月には及びません。」

 

ヤコブはファラオを祝福し、彼の前を去った。

 

ヨセフはファラオが命じたように、父と兄弟たちの住まいを決め、エジプトで最も良いラメセスの土地を彼らに与えた。また家族の数に従い、食べ物を与えて養った。

 

こうしてイスラエルはエジプトの国ゴシェンの地域に住み、そこで財産を得、子を産み大いに増えた。

 

ある日、イスラエルは病気になり、床に伏せていた。

 

ヨセフは息子のマナセとエフライムを連れて見舞いに行った。

 

イスラエルはヨセフに言った。

「全能の神が、カナン地方のベテルで私に現れて祝福してくださったとき、こう言われた。『私はあなたに多くの子を得させ、あなたを多くの国民としよう。またこの土地を永久の所有地としてあなたの子孫に与えよう。』

 

お前の息子エフライムとマナセを私の子とする。

 

ただし彼らの後に生れた子はお前のものとなる。

 

しかしお前の子となる者の嗣業(しぎょう)は、エフライムとマナセの名で呼ばれるだろう。

 

2人をここへ連れて来なさい、祝福しよう。

 

イスラエルの目は老齢のために霞んでよく見えなくなっていた。

 

ヨセフは次男エフライムをイスラエルの左手に、長男マナセをイスラエルの右手に向かわせ、2人を近寄らせた。

 

ところがイスラエルは右手をエフライムの頭の上に置き、左手をマナセの頭の上に置いた。

 

そして祝福して言った。

「我が先祖アブラハムとイサクがその御前に歩んだ神、今日まで私を導かれた神、あらゆる災いから私を贖われた御使いよ。

 

どうかこの子たちを祝福したください。

 

また私の名と、アブラハム・イサクの名が、彼らによって唱えられますように。

 

彼らがこの地の上に増え広がりますように。」

 

ヨセフは、父が右手をエフライムの頭に置いているのを見て不満に思い、父の手を取ってマナセの頭へ移そうとした。

 

ヨセフは言った。

「父上、そうではありません。こちらが長男ですから、これの頭に右手を置いてください。」

 

しかし父は拒んで言った。

「わかっている。我が子よ、私にはわかっている。

 

彼も1つの民となり、また大いなる者となるだろう。

 

しかし弟の方が彼よりも大いなる者となり、その子孫は多くの国民となるだろう。」

 

このように、イスラエルはエフライムをマナセの上に立てた。

 

イスラエルは息子たちを呼び寄せて言った。

「後にお前たちの上に起こる事を話しておきたい。

 

ヤコブの子らよ、集まって聞け。父イスラエルの言葉を聞け。」

 

ルベンよ、お前は我が長男、我が勢い、我が力の初め、威光の優れた者、権力の優れた者。

 

しかしお前は沸き立つ水のようだから、もはや優れた者ではあり得ない。

 

お前は父の床を汚した。ああ、お前は私の寝台に上った。

 

注:次の聖句を参照。

『 ルベンは長男であったが、父の寝床を汚したので、長子の権利を同じイスラエルの子ヨセフの子孫に譲らねばならなかった。そのため彼は長男として登録されてはいない。彼の兄弟の中で最も勢力があったのはユダで、指導者もその子孫から出たが、長子の権利を得たのはヨセフである。』(歴代誌上5章1~2節 新共同訳)

👆

「ルベン」はかつて、イスラエルの側女「ビルハ」と寝た(創世記35章22節参照)。

 

シメオンとレビは似た兄弟。

 

彼らの剣は暴虐の武器。

 

我が魂よ、彼らの謀議に加わるな。我が栄えよ、彼らの集いに連なるな。

 

彼らは怒りに任せて人を殺し、思いのままに振る舞って雄牛の足の筋を切った。

 

彼らの怒りは激しいゆえに呪われ、憤りは甚だしいゆえに呪われる。

 

私は彼らをヤコブの間に分け、イスラエルの間に散らそう。

 

注:「シメオン」と「レビ」はかつて、妹ディナの復讐のためにシケムの人々を虐殺した(創世記34章25~29節参照)。

 

ユダよ、お前は兄弟たちにほめたたえられる。

 

お前の手は敵の首を押さえ、父の子らはお前の前に身をかがめるだろう。

 

ユダは獅子の子。お前は獲物を持って上って来る。

 

彼は雄獅子のようにうずくまり、雌獅子のように身を伏せる。誰がこれを起こすことができようか。

 

杖はユダを離れず、立法者の杖はその足の間を離れることなく、シロの来る時まで及ぶだろう。諸国の民は彼に従う。

 

彼はロバの子をブドウの木に繋ぎ、雌ロバの子を良いブドウの木に繋ぐ。

 

彼は衣服をブドウ酒で洗い、着物をブドウの汁で洗うだろう。その目はブドウ酒によって輝き、その歯は乳によって白くなる。

 

注:「ユダ」の10代後の子孫が「ダビデ」、「ダビデ」の27代後の子孫が「イエス」である。

 

ゼブルンは海辺に住み、船の泊まる港となって、その境はシドンに及ぶだろう。

 

イッサカルは、たくましいロバ。

 

彼は2つの鞍(くら)袋の間に身を伏せる。

 

彼はその定住の地を見て良しとする。

 

彼は肩をかがめて荷を担い、奴隷となって追い使われる。

 

ダンは自分の民を裁くだろう、イスラエルのほかの部族のように。

 

ダンは道端の蛇、道の畔の蝮(まむし)。馬のかかとを噛んで、乗る者を後ろに落とすだろう。

 

主(しゅ)よ、私はあなたの救いを待ち望みます。

 

注:ダン族出身の有名人は「サムソン」である(士師記13章)。

歴代誌上1~8章には、なぜかダン族の系図がない。

黙示録7章では、その額に神の刻印を押された者の中に、ダン族だけがいない。

士師記18章も参照。

 

ガドには侵略者が迫る。しかし、彼はかえって敵のかかとに迫るだろう。

 

アシェルは食べ物が豊かで、王の食卓に美味を供える。

 

ナフタリは美しい雌鹿。彼は美しい子鹿を産むだろう。

 

ヨセフは泉の畔の、実を結ぶ若木。その枝は垣根を越えて伸びるだろう。

 

弓を射る者は彼を激しく攻め、彼に矢を放ち、彼を痛く悩ませた。

 

しかし、彼の弓はなお強く、彼の腕は素早い。

 

これは、ヤコブの全能者の手により、またイスラエルの岩なる牧者の名により、

またお前を助ける父の神による。

 

またこれは、上なる天の祝福、下に横たわる淵の祝福、乳房と胎の祝福によって、お前を恵まれる全能者による。

 

お前の父の祝福は永遠の山の祝福に勝り、永久の丘の賜物に勝る。

 

これらの祝福はヨセフの頭に帰し、兄弟たちから選ばれた者の頭に帰する。

 

ベニヤミンは噛み裂く狼。朝に獲物を食らい、夕方にその奪った物を分けるだろう。

 

 

イスラエルは息子たちに命じた。

「私は先祖に加えられようとしている。

 

私をマクペラの洞穴に葬っていほしい。そこには、アブラハムとサラ、イサクとリベカが葬られている。レアも葬られている。」

 

イスラエルは命じ終えると、足を床におさめ、息を引き取り、先祖に加えられた。

 

彼はエジプトで17年生きた。

 

ヨセフは父の顔に伏して泣き、口づけした。

 

エジプト人は70日間、喪に服した。

 

喪が明けると、ヨセフはファラオの許諾を得て、父を葬るためにカナンの地に行った。

 

共に行った者は、ファラオの家臣とエジプトの長老たち、そしてヨセフの親族であった。また戦車と騎兵も彼らと共に行ったので、たいそう盛大な行列であった。

 

彼らはヨルダン川の東にある『ゴレン・アタド』に着いて、そこで葬儀を行った。

 

その土地に住んでいるカナン人が葬儀を見て、「これはエジプト人の大いなる嘆きだ」と言ったので、その場所の名は『アベル・ミツライム』と呼ばれた。

 

ヨセフは父を葬った後、皆と共にエジプトに帰った。

 

ヨセフの兄たちは、父が死んでしまったので、ヨセフが仕返しをするのではないかと思った。

 

そこで彼らは人を介してヨセフに言った。

「あなたの父は死ぬ前にこう言われました。

『お前の兄たちは悪を行ったが、どうかその咎と罪を許してやってほしい。』」

 

ヨセフはこの言葉を聞いて涙を流した。

 

やがて兄たちも来て、ヨセフの前に伏した。

 

ヨセフは兄たちに言った。

「恐れることはありません。私が神に代わることができるでしょうか。

 

あなた方は私に悪を企みましたが、神はそれを善に変え、多くの民の命を救おうと取り計らわれました。

 

ですから、どうか恐れないでください。この私が、あなた方と子供たちを養いましょう。」

 

注:「あなた方は私に悪を企んだが、神はそれを善に変えた」とあるように、ヨセフがエジプトの宰相になることが予め神によって決められていたわけではない。

 

ヨセフは父の家族と共にエジプトに住み、110歳まで生きた。

 

彼はエフライムの3代の子孫を見ることができた。

 

マナセの息子マキルの子たちも産まれて、ヨセフの膝の上に置かれた。

 

ヨセフは兄弟たちに言った。

「私は間もなく死にます。

 

神は必ずあなた方を顧みられて、この国から連れ出し、アブラハム・イサク・ヤコブに誓われた土地に導き上がられるでしょう。

 

神は必ずあなた方を顧みてくださる。

 

そのとき私の骨を携えて、ここから上りなさい。」

 

ヨセフはこうして死んだ。

 

イスラエルの子たちは、彼のなきがらを棺に納めてエジプトに置いた。