※ この記事は初学者用に聖書を編集し 注を付したものです。

 

 

ヤコブに長子の権利を奪われたエサウは、彼を憎むようになった。

 

エサウは心の中で言った。

「父の喪の日も遠くはない。そのときヤコブを殺そう。」

 

ところが、リベカがこのエサウの言葉を人づてに聞いた。

 

そこでリベカはヤコブに言った。

「エサウがお前を殺して恨みを晴らそうとしています。急いで ハランにいる伯父さんの所へ逃げなさい。エサウの怒りが治まるまでそこに居るのです。1日のうちにお前たち2人を失ってよいでしょうか。」

 

さて、ヤコブの兄のエサウには 2人の妻がいた。2人とも ヘト人であった。

この妻たちはイサクとリベカの悩みの種であった。

 

リベカはイサクに言った。

「私は嫁たちのことで生きているのが嫌になりました。ヤコブまでも ヘト人の娘と結婚するなら、私は生きている甲斐がありません。」

 

そこで、イサクはヤコブを呼んで彼を祝福し、こう言った。

「お前はカナンの娘と結婚してはならない。ラバン伯父さんの娘と結婚しなさい。

 

全能の神がお前を祝福し、多くの子孫を得させ、多くの国民としてくださるように。

 

またアブラハムの祝福をお前と子孫に与え、アブラハムに授けられたこの土地を継がせてくださるように。」

 

こうして、ヤコブはイサクに送り出されてハランへ旅立った。

 

ヤコブがとある場所に着いた時、日が暮れたので、そこで一夜を過ごすことにした。

 

ヤコブは石を枕にして寝た。

 

すると、夢を見た。1つのはしごが天へ向かって伸びており、神の御使いたちが上り下りしていた。

 

主(しゅ)はヤコブの傍に立って言われた。

「私は、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。

 

あなたが今、横になっているこの土地をあなたと子孫に与える。

 

あなたの子孫は砂粒のように多くなって、西へ・東へ・北へ・南へと広がる。

諸国の民は、あなたと、あなたの子孫によって、祝福を受けるだろう。

 

私はあなたと共にいて、あなたがどこへ行くにもあなたを守り、あなたをこの土地に連れ帰る。

 

私は決してあなたを見捨てず、あなたに語ったことを行うだろう。」

 

ヤコブは眠りから覚めて言った。

「主がこの場所におられるのに、私は知らなかった。

ここは何と畏れ多い場所だろうか。ここは神の家だ。ここは天の門だ。」

 

ヤコブは朝早く起き、枕にしていた石を記念碑として立て、その場所を ベテル(神の家)と名付けた。それまでその町の名は ルズと呼ばれていた。

 

ヤコブは誓いを立てて言った。

「神が私と共におられ、私の行くこの旅路を守り、食べ物と着る物を賜い、無事に父の家に帰らせてくださるならば、主を私の神といたします。

 

また、記念碑として立てたこの石を、神の家といたします。

 

そして、あなたがくださるすべての物の 10分の1を、私は必ずあなたにささげます。」

 

注:「諸国の民は、あなたと、あなたの子孫によって、祝福を受けるであろう」とあるが、 この子孫とはイエス・キリストのことである(ガラテヤ3章16節を参照)。

そして、キリストと信仰によって結ばれた者は、アブラハムの子孫とみなされる(ガラテヤ3章26~29節)。

 

ヤコブは旅を続けて東へ行った。

 

見ると、野原に1つの井戸があった。

 

ヤコブはそこにいる人たちに尋ねた。

「あなた方はどこから来られたのですか。」

 

「私たちはハランからです。」

 

「では、ナホルの子ラバンを知っていますか。」

 

「ええ、知っています。」

 

「彼は元気でしょうか。」

 

「元気です。もうすぐ彼の娘のラケルがここへ来ます。」

 

ヤコブが彼らと話をしていると、ラケルが羊を連れてやって来た。

 

ヤコブはラケルに口づけし、声を上げて泣いた。

 

ヤコブは自分がラバンの甥であり、リベカの息子であることを告げた。

 

ラケルは走って行って、父ラバンに知らせた。

 

ラバンはヤコブのことを聞くと、走って迎えに行き、家に案内した。

 

ヤコブは事情をすべて話した。

 

ヤコブがラバンのもとに滞在してから、1か月ほどが過ぎた。

 

ある日、ラバンはヤコブに言った。

「お前は私の甥だからといって、ただで働くことはない。何が望みか言ってみなさい。」

 

さて、ラバンには2人の娘がいた。姉は レアといった。妹が ラケルである。

 

レアは優しい目をしていたが、ラケルは美しくて愛らしかった。

 

ヤコブは ラケルを愛していたので、「ラケルをくださるなら、7年間あなたに仕えます」と言った。

 

ラバンは言った。

「あの娘を他人に嫁がせるより、お前に嫁がせる方がよい。私の所にいなさい。」

 

こうして、ヤコブは7年間 働いたが、ラケルを愛していたので、ほんの数日のように思われた。

 

ヤコブはラバンに言った。

「約束の7年が経ちました。ラケルと結婚させてください。」

 

そこで ラバンは土地の人たちを集めて祝宴を開いた。

 

夜になると、ラバンが娘をヤコブのもとに連れて来たので、ヤコブは彼女と共に寝た。

 

ところが朝になってみると、その娘は姉の レアであった。

 

ヤコブはラバンに言った。

「どうしてこんな事をしたのですか。私はラケルと結婚するために働いたのではありませんか。どうして私を騙したのですか。」

 

ラバンは言った。

「我々の国では、妹を姉より先に嫁がせることはしないのだ。

とにかく、婚礼の祝いを済ませなさい。そうすれば ラケルもお前に嫁がせよう。

だが、もう7年、私に仕えなければならない。」

 

ヤコブが言われたとおりにしたので、ラバンはラケルも彼に嫁がせた。

 

こうして、ヤコブはもう7年ラバンに仕えた。

 

ヤコブは レアよりも ラケルを愛した。

 

主は、レアが疎んじられているのを見て、彼女の胎を開かれた。

 

レアは4人の男の子を産み、産まれた順に、ルベン、シメオン、レビ、ユダと名付けた。

 

ラケルは自分に子供が産まれなかったので、レアを妬むようになり、ヤコブに言った。

「私にも子供をください。くださらなければ私は死にます。」

 

ヤコブは激しく怒った。

「私が神に代われるとでもいうのか。子供ができないのは神の御意志なのだ。」

 

ラケルは言った。

「では召使いのビルハを側女(そばめ)にしてください。そうすれば、私も子供を持つことができます。」

 

こうして、ビルハはヤコブとの間に2人の男の子を産んだ。ラケルは、1人目をダン、2人目をナフタリと名付けた。

 

レアも自分に子供ができなくなったので、召使いのジルパを側女としてヤコブに与えた。

 

ジルパはヤコブとの間に2人の男の子を産んだ。レアは、1人目をガド、2人目をアシェルと名付けた。

 

さて、ルベンが麦刈りの日に野に出て恋なすびを見つけ、それを母レアに持って来た。

 

ラケルはそれを見ると、レアに言った。

「その恋なすびを分けてください。」

 

レアは言った。

「あなたは私の夫を取ったうえに、息子の恋なすびまで取ろうとするのですか。」

 

ラケルは言った。

「それでは、恋なすびと引き換えに、今夜 あの人を姉さんに与えましょう。」

 

夕方になって、ヤコブが野から帰ってくると、レアは出迎えて言った。

「あなたは今夜、私の所に来なければなりません。息子の恋なすびで、あなたを雇ったのですから。」

 

神がレアの願いを聞き入れられたので、彼女はさらに2人の男の子を産んだ。

 

レアは、5人目をイッサカル、6人目をゼブルンと名付けた。

 

その後、レアは娘を1人産んで、ディナと名付けた。

 

次に、神はラケルを心に留められたので、彼女も男の子を産んだ。

 

ラケルは「私にもう1人、子をくださるように」と神に願っていたので、ヨセフと名付けた。

 

注:「恋なすび」とは、ナス科の植物『マンドレイク』のことである。

 

ヤコブは、ラバンの息子たちがこう言っているのを聞いた。

「ヤコブは父の物をことごとく奪い、それによってあの富を得たのだ。」

 

また、ラバンのヤコブに対する態度が以前とは変わっていた。

 

ヤコブは ラケル と レアに言った。

「お義父さんの私に対する態度が以前と変わった。だが、私の父の神は私と共におられる。

 

お前たちも知っているように、私は力の限りお義父さんに仕えてきた。

 

それなのに、私を騙して 10回も報酬を変えた。

 

けれども神は、彼が私に害を加えることをお許しにならなかった。

 

彼が『ぶちのある羊と山羊が報酬だ』と言えば、群れは皆 ぶちのものを産んだし、『しま模様のあるものが報酬だ』と言えば、群れは皆 しま模様のあるものを産んだ。

 

こうして神は、お前たちの父の家畜を取り上げて私に与えられた。 

 

夢の中で、神の御使いがこう言われた。

『ラバンがあなたにしたことは、すべてわかっている。

私はベテルの神だ。かつてあなたは、あそこで誓いを立てたではないか。

今すぐこの土地を出て、あなたの故郷へ帰りなさい。』」

 

ラケル と レアは言った。

「私たちは父に他人のように思われているではありませんか。

神が父から取り上げられた財産は、すべて私たちと子供たちのものです。

ですから、神があなたに告げられたとおりになさってください。」

 

ヤコブは直ちに妻子と側女をラクダに乗せ、この土地で得たすべての財産を携えて、父イサクがいるカナン地方へ出発した。

 

その時、ラバンは羊の毛を刈りに出かけていたので、ラケルは父のテラフィム像を盗み出した。

 

注:「べテル」は、かつてヤコブが天へと続くはしごの夢を見た場所である。

 

ヤコブの逃げ去ったことがラバンに知れたのは、それから3日経ってのことであった。

 

ラバンは一族を率いて7日間その後を追い、ギレアデの山地でヤコブに追いついた。

 

神は夜の夢に、ラバンに現れてこう言われた。

「あなたはヤコブを一切避難してはならない。」

 

ヤコブが山に天幕を張っていたので、ラバンも一族と共に天幕を張った。

 

ラバンはヤコブに言った。

「どうして黙って去ったりしたのか。ひとこと言ってくれれば送り出してやったものを。孫や娘たちに別れの口づけもさせないとは、愚かなことをしたものだ。

 

お前たちを無理やり連れて帰ることもできるが、夕べ、お前の父の神が、『ヤコブを一切非難しないように』と、私にお告げになった。

 

故郷が恋しいのなら去ってもよい。だが、なぜ私の神を盗んだのか。」

 

ヤコブは言った。

「私はただ、あなたが妻たちを奪い取るのではないかと思って恐れただけです。

私の所に何かあなたの物があるか、どうぞ調べてください。」

 

ヤコブはラケルが神の像を盗んだことを知らなかった。

 

ラケルはテラフィム像をラクダの鞍(くら)の下に入れ、その上に座っていた。

 

ラバンはヤコブたちの天幕の中をくまなく探したが、見つからなかった。

 

ヤコブは怒ってラバンを責めた。

「私にどんな過ちがあり、どんな罪があって、あなたは私の後を激しく追ったのですか。

 

私の物を一つ残らず調べられたが、何かあなたの家の物が見つかりましたか。

 

私はこの20年間、あなたの家族の一員でした。妻のために14年、家畜の世話のために6年働きました。しかし、あなたは 10回も私の報酬を変えた。

 

もし、私の父の神が私と共におられなかったなら、あなたはきっと何も持たせずに私を追い出したでしょう。

 

神は私の悩みと労苦を顧みられて、昨夜 あなたを戒められたのです。」

 

ラバンは言った。

「お前の妻たちは私の娘、子供たちは私の孫だ。この家畜の群れも皆、私の群れ。お前の目の前にあるものは、すべて私のものだ。

 

しかし、娘や孫たちのために手出しをしようとは思わない。

 

さあ、それでは契約を結ぼうではないか。」

 

ヤコブとラバンはその場で契約を結んだ。

 

次の朝早く、ラバンは孫と娘たちに口づけして彼らを祝福し、自分の家に帰って行った。

 

ヤコブたちは旅を続けた。

 

すると、神の御使いたちに会った。

 

ヤコブが彼らを見た時、「ここは神の陣営だ」と言って、その場所をマハナイム(2組の陣営)と名付けた。

 

ヤコブは エドムの野に住む兄エサウのもとに使者を遣わした。

 

使者はヤコブのもとに帰って来て報告した。

「エサウ様の所へ行って参りました。彼もあなたを迎えようと、400人を率いてきます。」

 

ヤコブは非常に恐れ、思い悩んだ末、民と家畜を2組に分けて、こう言った。

「たとえエサウが一方の組を攻撃しても、残りの組は助かるだろう。」

 

ヤコブは神に祈った。

「かつて私は、杖のほか何も持たないでこのヨルダン川を渡りましたが、今は2つの組を持つまでになりました。

 

どうか、兄エサウの手から私たちをお救いください。彼は私たちを皆殺しにするかもしれません。」

 

ヤコブは持ち物の中からエサウへの贈り物を選び、それらを先に行かせ、自身は野営地に留まった。

 

その夜、2人の妻と2人の側女、11人の子供たちは『ヤボクの渡し』を渡った。

 

ヤコブは独り後に残ったが、1人の人が夜明けまで彼と格闘した。

 

ところが、その人はヤコブに勝てないとみて、ヤコブの腿(もも)の関節を打ったので、格闘しているうちに関節が外れた。

 

その人はヤコブに言った。

「夜が明けるから、もう去らせてくれ。」

 

「いいえ、私を祝福してくれるまでは去らせません。」

 

「お前の名は何というのか。」

 

「ヤコブです。」

 

「お前はもはや名をヤコブと言わず、イスラエルと言いなさい。神と人と闘って勝ったからだ。」

 

ヤコブが「あなたの名前を教えてください」と尋ねると、その人は、「どうして私の名を聞くのか」と言って、その場でヤコブを祝福した。

 

そこでヤコブは、「私は顔と顔を合わせて神を見たのに、なお生きている」と言って、その場所を ペヌエル(神の顔)と名付けた。

 

こうして、ヤコブが ペヌエルを過ぎた時、日が昇った。

 

ヤコブは腿(もも)を痛めて足を引きずっていた。

 

ヤコブが目を上げると、エサウが 400人を率いて来るのが見えた。

 

ヤコブは自ら先頭に進み出て、エサウのもとに着くまで7度、地にひれ伏した。

 

エサウは走って来てヤコブを抱きしめ、首を抱えて口づけし、共に泣いた。

 

エサウはヤコブに言った。

「一緒に行こう。」

 

ヤコブは言った。

「家畜と子供たちの歩みに合わせて、ゆっくり歩いていきます。」

 

その日、エサウはエドムへの道を帰って行った。

 

 

ヤコブは、カナン地方にあるシェケムの町に行き、町の傍に宿営した。

 

神はヤコブに言われた。

「ベテルに行き、そこに住みなさい。そして神のために祭壇を造りなさい。」

 

ヤコブは、家族および一緒にいるすべての者に言った。

「お前たちが身に着けて持っている外国の神々を捨て、身を清めて服を着替えなさい。

 

これからベテルに上り、苦難の時に私に答え、旅の間 私と共にいてくださった神のために祭壇を造る。」

 

そこで、彼らは持っている神々の像と身に着けていた耳輪をすべて、シュケムの近くにあるテレビンの木の下に埋めた。

 

こうして ヤコブらは出発したが、神が周囲の町々を恐れさせたので、彼らの後を追う者はいなかった。

 

ヤコブはベテルに着き、そこに祭壇を築いた。

 

神は再びヤコブに現れて、彼を祝福された。

 

神は言われた。

「あなたの名はヤコブだが、もはや、ヤコブと呼んではならない。名をイスラエルとしなさい。」

 

神はまた言われた。

「私は全能の神である。

 

産めよ、増えよ。多くの国民があなたから出て、王たちがあなたの身から出るだろう。

 

私は、アブラハムとイサクに与えた地を、あなたと子孫に与えよう。」

 

一同はベテルを出発し、エフラトへ向かった。

 

その途中でラケルが産気づいたが、難産であった。

 

ラケルが息を引き取ろうとする時、その子をベン・オニ(私の苦しみの子)と呼んだが、ヤコブはベニヤミン(幸いの子)と名付けた。

 

ラケルは死んで道の傍らに葬られた。ヤコブはそこに記念碑を建てた。

 

イスラエルは更に旅を続け、ミグダル・エデルを過ぎた所に天幕を張った。

 

ヤコブはそこから、ヘブロンのマムレにいる父イサクの所へ行った。

 

イサクは年老い、満ち足りて死んだ。エサウとヤコブが彼を葬った。

 

エサウはヤコブを離れて他の地へ出て行った。彼らの財産が多くて一緒にいることができなかったからである。

 

こうして、エサウはセイルの山地に住んだ。エサウとは、エドムのことである。