※ この記事は初学者用に聖書を編集し 注を付したものです。

 

 

ある日、主(しゅ)が、マムレのテレビンの木の傍らで、アブラハムに現れた。

 

それは昼の暑い頃で、彼は天幕の入り口に座っていた。

 

目を上げると、3人の人が彼に向かって立っていた。

 

アブラハムは走って行って彼らに言った。

「よろしければ私の所へ寄っていってください。せっかく近くをお通りになったのですから。」

 

彼らは言った。

「では、お言葉に甘えましょう。」

 

アブラハムは彼らが食事をしている間、側に立って給仕をした。

 

彼らはアブラハムに言った。

「あなたの妻のサラはどこにおりますか。」

 

アブラハムは言った。

「天幕の中です。」

 

彼らは言った。

「来年の春、私たちは必ずあなたの所に帰って来ます。その頃には、サラに男の子が産まれているでしょう。」

 

サラは後ろの天幕の入り口でそれを聞いていた。

 

サラは心の中で笑って言った。

「私も主人も年老いているのに、そんなことがあるだろうか。」

 

主はアブラハムに言われた。

「なぜサラは自分に子供が産まれるはずがないと思って笑ったのか。主に不可能なことがあろうか。」

 

サラは恐ろしくなり、打ち消して言った。

「私は笑っていません。」

 

主は言われた。

「いや、あなたは確かに笑った。」

 

3人はそこを立ってソドムの方へ向かったので、アブラハムは見送るために一緒に行った。

 

主は言われた。

「私が行なおうとしていることをアブラハムに隠してよいだろうか。アブラハムは大きく強い国民となり、すべての民が彼によって祝福を受けるではないか。

 

私がアブラハムを選んだ理由は、彼が家族と子孫に私の道を守らせ、正義を行わせて、彼に約束したことを成就するためだ。」

 

主はアブラハムに言われた。

「ソドムとゴモラの叫びは大きく、その罪は非常に重い。それゆえ私は下って行き、私に届いた叫びのとおりに彼らが罪を行っているかどうかを確かめる。」

 

3人は更にソドムの方へ向かったが、アブラハムはなお主の御前に立っていた。

 

アブラハムは近寄って言った。

「あなたは本当に、正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされるのですか。

 

たとえ50人の正しい者がいたとしても、あなたは町を滅ぼされるのですか。

 

そのようなことを、あなたは決してなさいません。

 

正しい者と悪い者を同じようにすることも、あなたは決してなさいません。

 

全地を裁く方は正義を行うべきではありませんか。」

 

主はアブラハムに言われた。

「もしソドムの町に正しい者が50人いるなら、その者たちのためにすべてを赦そう。」

 

アブラハムは答えて言った。

「私は塵芥(ちりあくた)にすぎませんが、我が主に申します。もし50人に5人足りなければ、それでも町を滅ぼされますか。」

 

「もし45人いたら滅ぼさない。」

 

「もし40人しかいなかったら。」

 

「その40人のために滅ぼさない。」

 

「主よ、どうかお怒りになりませんように。もし30人しかいなかったら。」

 

「もし30人いたら滅ぼさない。」

 

「私はあえて我が主に申します。もし20人しかいなかったら。」

 

「もし20人いたら滅ぼさない。」

 

「主よ、どうかお怒りになりませんように。もし10人しかいなかったら。」

 

「その10人のために滅ぼさない。」

 

主はアブラハムと語り終えると去って行かれた。

 

アブラハムも自分の天幕に帰った。

 

2人の御使いは夕方にソドムに着いた。そのときロトはソドムの門の所に座っていた。

 

ロトは彼らを見ると立ち上がって迎えた。

「お二方、どうぞ私の家に泊まっていってください。」

 

彼らは言った。

「いえ、結構です。私たちは広場で夜を過ごします。」

 

しかしロトが是非にと勧めるので、彼らはロトの家に立ち寄ることにした。

 

ロトは食事を供し、彼らをもてなした。

 

ところが彼らがまだ寝ないうちに、ソドムの人々が若者も老人も町中からやって来て、ロトの家を取り囲み、叫んで言った。

「今夜お前の所に来た男たちはどこにいるのか。彼らをここに出せ。」

 

ロトは彼らの前に出て行き、戸を閉めて言った。

「皆さん、どうか悪いことはしないでください。私にはまだ嫁がせていない2人の娘がいます。娘を差し出しますから、あの方々には何もしないでください。」

 

彼らは言った。

「そこをどけ。お前はよそ者なのにいつも指図する。痛い目に合わせてやる。」

 

彼らはロトに激しく迫り、戸を破ろうとした。

 

そのとき2人の客が手を伸ばしてロトを家の中へ引き入れ、戸を閉めた。

 

そして人々を打って目をくらませた。

 

2人の客はロトに言った。

「ほかにあなたの身内がこの町にいますか。皆を連れてここから逃げなさい。

私たちはこの町を滅ぼしに来たのです。人々の叫びが主の前に大きくなったので、主は私たちを遣わされたのです。」

 

夜が明けて、2人の御使いはロトに急き立てて言った。

「さあ、早く妻と2人の娘を連れて逃げなさい。さもないと巻き添えになってしまう。」

 

そこでロトは出て行って、娘たちと結婚する婿たちに言った。

「早くここから逃げなさい。主がこの町を滅ぼされる。」

 

しかし彼らは冗談だと思って信じなかった。

 

夜が明けると、御使たちはロトを促して言った。

「あなたの妻と2人の娘を速く連れ出しなさい。そうしなければ、あなたもこの町の不義のために滅ぼされるでしょう。」

 

ロトはためらっていたが、主は彼に憐れみを施されたので、2人の御使いが彼らを町の外に連れ出した。

 

そのとき主は言われた。

「逃れて自分の命を救いなさい。後ろを振り返ってはいけない、立ち止まるな。

山へ逃げなさい。さもないと滅びることになる。」

 

ロトは言った。

「主よ、あなたは大いなる慈しみを施し、私の命を救おうとしてくださいます。

ですが、とても山まで逃げることはできません。災害に巻き込まれて死ぬでしょう。

 

あの小さな町をご覧ください。あそこなら近いですので、行けると思います。

どうか、あの町で私の命を救ってください。」

 

主は言われた。

「あなたの願いを聞き入れよう。あの小さな町は滅ぼさない。だから急いで逃げなさい。」

 

このようなわけで、その町はゾアル(小さい)と名付けられた。

 

日が昇ったとき、ロトはゾアルに着いた。

 

主は、天から硫黄の火をソドムとゴモラの上に降らせ、草木一本残らず滅ぼされた。

 

ロトの妻は後ろを振り向いたので、塩の柱になった。

 

アブラハムは、その朝早く起きて、以前に主(しゅ)と語り合った場所へ行った。

 

ソドムとゴモラの方を見下ろすと、煙が激しく立ち上っていた。

 

こうして、主はアブラハムを御心に留め、滅びの中からロトを救い出された。

 

 

注:ロトの妻は本当に塩の柱になったわけではない。これは比喩である。

「塩の柱」とは何か。「後ろを振り向いた」とはどういう意味か。RAPT有料記事42を参照。

 

ロトはゾアルを出て2人の娘と山に住んだ。ゾアルに住むのを恐れたからである。

 

時に、姉が妹に言った。

「父は年老い、またこの土地には、風習に従って私たちのところへ来てくれる男の人はいません。さあ、父に酒を飲ませ、共に寝て、父によって子を残しましょう。」

 

その夜、彼女たちはロトに酒を飲ませ、姉がロトと共に寝た。

 

ロトは、娘が寝たのも、起きたのもわからなかった。

 

あくる日、今度は妹がロトと共に寝た。ロトには全くわからなかった。

 

このようにして、ロトの2人の娘は父によって身ごもった。

 

やがて姉は男の子を産み、モアブと名付けた。彼はモアブ人の先祖となった。

 

妹も男の子を産み、ベンアミと名付けた。彼はアンモン人の先祖となった。

 

注:モアブ人はケモシュを拝み、アンモン人はモレクを拝んだ(列王記上11章7節を参照)。

 

アブラハムはネゲブ地方に移って、カデシュとシュルの間に住んだ。

 

アブラハムがゲラルに滞在していたとき、彼は妻サラのことを「私の妹です」と言っていた。それでゲラルの王アビメレクはサラを召し入れた。 

 

神は夜の夢にアビメレクに臨んで言われた。

「あなたは召し入れたあの女のゆえに死なねばならない。彼女は夫のある身だ。」 

 

アビメレクはまだサラに近づいていなかったので言った。

「主よ、あなたは正しい者でも殺されるのですか。 

アブラハムは彼女のことを自分の妹だと言ったではありませんか。また彼女も、アブラハムのことを自分の兄だと言いました。私には疾しい考えは全くありません。」

 

神はまた夢で彼に言われた。

「そうだ。あなたは疾しい考えでこのような事をしたのではない。だから私もあなたを守って、私に対して罪を犯させず、彼女に触れることを許さなかったのだ。 

 

彼の妻を返しなさい。彼は預言者だから、あなたのために祈って命を保たせるだろう。もし返さないなら、あなたも身内の者もみな必ず死ぬと知らなければならない。」

 

アビメレクは朝早く起き、アブラハムを呼び寄せて言った。

「あなたは我々に何ということをしたのか。あなたに対して私がどんな罪を犯したというので、あなたは私と私の国とに大きな罪を負わせるのか。」 

 

アブラハムは言った。

「この土地には、神を恐れるということが全くないので、私の妻のゆえに人々が私を殺すと思ったのです。 

 

事実、彼女は本当に私の妹なのです。私の父の娘ですが、母の娘ではありません。それで私の妻になったのです。 」 

 

そこでアビメレクは、羊・牛および男女の奴隷をアブラハムに与え、サラを彼に返した。 

 

アビメレクは言った。

「見なさい。私の土地はあなたの前にある。好きな所に住みなさい。」 

 

またサラに言った。

「私はあなたの兄に銀一千シェケルを贈った。これはあなたへの償いだ。」 

 

そこでアブラハムは神に祈った。

 

神はアビメレクとその妻および女の召使いたちを癒されたので、彼らは子を産むことができるようになった。 

 

それまで、主はサラのゆえに、アビメレクの家のすべての者の胎を堅く閉ざしておられたのである。

 

さて、主は約束されたとおり、サラを顧みられた。

 

サラは身ごもり、男の子を産んだ。アブラハムは主に言われたとおり、その子をイサク(彼は笑う)と名付けた。

 

やがてイサクは育って乳離れした。

 

サラは、ハガルとアブラハムの間に産まれたイシュマエルがイサクと遊ぶのを見て、アブラハムに言った。

「あの女とあの子を追い出してください。あの子は跡継ぎではありません。」

 

このことでアブラハムは非常に悩んだ。

 

主はアブラハムに言われた。

「イシュマエルとハガルのことで悩まなくともよい。サラの言うことをすべて聞き入れなさい。

 

イサクに生まれる者があなたの子孫と唱えられる。

 

しかしイシュマエルもあなたの子であるから、彼も大いなる国民とする。」

 

アブラハムは次の朝早く起き、パンと水をハガルに持たせて見送った。

 

ハガルはイシュマエルと共に『ベエル・シェバ』の荒野をさまよった。

 

水がなくなると、ハガルはイシュマエルを木の下に寝かせ、「この子が死ぬのを見るのは耐えられない」と言って、矢の届くほど離れて行き、イシュマエルの方を向いて座り込んだ。

 

イシュマエルが声を上げて泣いたとき、天から主の御使いがハガルを呼んで言った。

「ハガルよ、どうしたのか。恐れることはない。主はイシュマエルの泣く声を聞かれた。さあ、立って行ってあの子を抱きしめてやりなさい。私はあの子を大いなる国民とする。」

 

主がハガルの目を開かれたので、彼女は井戸を見つけることができた。

 

主がイシュマエルと共におられたので、彼は成長し、パランの荒野に住んで弓を射る者となった。

 

注:「ベエル・シェバ」は、後にアブラハムとアビメレクが契約を結んだことで、

そう呼ばれるようになった。

 

これらのことの後、主はアブラハムを試された。

「あなたの愛するイサクを連れてモリヤの地に行き、私の示す山で彼をささげなさい。」

 

アブラハムは次の朝早く起きて、2人の若者とイサクを連れ、神の命じられた所へ向かった。

 

3日目になって、神の示された場所が遠くに見えた。

 

アブラハムは若者に言った。

「お前たちはここで待っていなさい。私と息子はあそこで礼拝をしてくる。」

 

アブラハムは薪を取ってイサクに背負わせ、自分は火と刃物を持った。

 

イサクはアブラハムに言った。

「火と薪はありますが、ささげ物の小羊はどこにいるのですか。」

 

アブラハムは言った。

「イサクよ、小羊は神が自ら備えてくださるだろう。」

 

神が示された場所に着くと、アブラハムは祭壇を築き、薪を並べ、イサクを縛ってその上に寝かせた。

 

アブラハムは刃物を取って、イサクを殺そうとした。

 

そのとき天から神の御使いが呼びかけた。

「アブラハムよ、アブラハムよ。その子に手をかけてはならない。何もしてはならない。

 

あなたが神を畏れる者であることが分かった。

 

あなたは独り子をさえ私のために惜しまなかった。」

 

アブラハムは辺りを見回すと、後ろの木の茂みに、角をやぶに掛けて身動きが取れないでいる1頭の雄羊がいた。

 

アブラハムはその雄羊を主へのささげ物とした。

 

神の御使いは再び天からアブラハムを呼んで言った。

「私は自らにかけて誓う。あなたは独り子すら惜しまなかったので、あなたを

大いに祝福し、天の星のように、浜辺の砂のように、あなたの子孫を増やす。

 

あなたの子孫は敵の城門を打ち破るだろう。またすべての諸国民はあなたの子孫によって祝福を得るだろう。あなたが私の言葉に従ったからだ。」

 

注:神がアブラハムにイサクを捨てるように命じられたのは、アブラハムが祝福を受けるに相応しい者かどうかを見定めるためだった。神がその人にとって大事なものを捨てるように要求するとき、それはその人が大きな祝福を受ける前触れである(RAPT有料記事197を参照)。

 

なぜアブラハムはイサクを捨てる決心ができたのか。RAPT有料記事226同229を参照。ヘブライ11章17~19節も参照。

 

 

アブラハムは若者たちの所へ戻り、共に『ベエル・シェバ』へ向かい、そこに住んだ。

 

アブラハムの妻サラは、カナン地方のヘブロンで死んだ。

 

127歳であった。アブラハムは嘆き悲しんだ。

 

アブラハムは、ヘト人エフロンからマクペラにある畑を買い取り、その畑の端にある洞穴にサラを葬った。