※ 司法書士試験用です。

 

 

Ⅰ 建物の区分所有・定義

(1)区分所有(区分所有法1条

一棟の建物に構造上 区分された数個の部分で、住居・店舗・事務所・倉庫・そのほか建物としての用途に独立して供することができるものがあるときはその各部分を、区分所有法の定めるところにより、所有権の目的とすることができる

 

(2)定義(区分所有法2条

・ 所有権の目的とすることができる建物の部分を、専有部分(不登法では区分建物)という。

 

・ 専有部分(区分建物)を目的とする所有権を区分所有権という。

 

・ 区分所有権を有する者を区分所有者という。

 

・ 専有部分以外の建物の部分(廊下・階段など)、または建物の付属物(配管など)、そのほか構造上 区分所有者が共同して使用するものを、共用部分という。

 

・ 建物が所在する土地を建物の敷地という。

 

・ 専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を、敷地利用権という(土地所有権・地上権・土地賃借権)。

 

---------------------------

Ⅱ 共用部分・敷地利用権

(1)共用部分(区分所有法4条同11条3項・同15条

(a)民法177条は共用部分に適用されない。

 

(b)共用部分を専有部分と分離して処分することはできない。

 

(c)共用部分を区分所有権の目的とすることはできない。

したがって、規約によっても共用部分を専有部分とすることはできない。

 

(d)規約により、専有部分および付属の建物(物置・車庫など)を共用部分とすることはできる。規約で共用部分とした場合には、民法177条の適用があり、その旨の登記をしなければ(共用部分としたことを)第三者に対抗することができない。

 

(2)敷地利用権

(ア)複数の区分所有者によって敷地利用権が共有される場合には、区分所有者は、

その「専有部分」と「敷地利用権」とを分離して処分することができない区分所有法22条1項)。また、専有部分の全部を所有する者(新築マンションの分譲業者など)が単独で敷地利用権を有する場合も分離処分ができない(同22条3項)。マンションなどの登記簿が複雑になるのを防ぐためである。ただし規約に別段の定めがあるときは、専有部分と敷地利用権とを分離処分することができる。

 

ここでの「処分」とは、「法律行為による権利の得喪・変更」のほか、「強制執行」「抵当権の実行としての差押え」「滞納処分による換価処分」なども含む

 

 

敷地利用権の登記簿が複雑になるのを防ぐ

専有部分(区分建物)と敷地利用権との分離処分を禁止する

区分建物の登記簿にのみ記録できることにする

区分建物になされた登記の効力が敷地権にも及ぶことにする

 

 

(イ)民法255条同264条は敷地利用権に適用されない(区分所有法24条)。

すなわち、共有者の一人がその持分を放棄したとき、または共有者の一人が死亡して相続人がないときでも、その持分は他の共有者に帰属しない。これも登記簿が複雑になるのを防ぐためである。

 

---------------------------

Ⅲ 敷地権の登記

(1)敷地権の定義

専有部分と分離して処分することができない「登記された敷地利用権」を、不登法で「敷地権」という不登法44条1項9号)。規約により専有部分と分離して処分することができるものは、敷地権ではない。

 

敷地利用権が登記されていたとしても、それだけでは専有部分と分離して処分することができるのか / できないのか、すなわち、その敷地利用権が敷地権なのかどうかの判別ができない。そのため、敷地権が存在することを公示する必要がある。

 

(2)敷地権の登記

敷地権が存在することを公示するために、以下の登記をする。

 

① 区分建物の登記記録の表題部に「敷地権の表示」の登記をする。

 

② 土地の登記記録に「敷地権である旨」の登記をする。

この登記は、登記官の職権により主登記でなされる不登法46条)。

 

「敷地権の表示の登記」と「敷地権である旨の登記」を合わせて「敷地権の登記」という。

 

この「敷地権の登記」をすることによって、分離処分の禁止を第三者に対抗することができる(敷地権の登記は効力発生要件ではなく、対抗要件である)。

 

 

記録例 P.42】

〇 敷地権付きでない区分建物の表題登記

 

記録例 P.44】

〇 敷地権付き区分建物の表題登記および敷地権の登記

 

〇 敷地権である旨の登記

 

 

(3)敷地権付き区分建物に関する登記とその制限

(ア)原則

敷地権付き区分建物になされた「所有権」「担保権(一般の先取特権・質権・抵当権)に関する登記の効力は、その敷地権にも及ぶ不登法73条1項本文)。

 

したがって、敷地権付き区分建物に関する権利処分の公示は、区分建物についての登記をするだけで足りる土地について登記をすることは必要ないし、許されない(同2項本文)。これを許すと、分離処分を禁止した意味がなくなるからである。

 

区分建物と敷地権とは一体として処分されるので、「区分建物のみ」に関する登記をすることはできない(同3項本文)。例えば、区分建物の所有権だけの移転を登記原因とする所有権移転登記はすることができない。

 

登記ができないのだから、仮登記もできない

 

 

記録例 P.50】

〇 抵当権の登記に「建物のみ」に関する旨の付記をする場合

 

(イ)例外 

(a)「敷地権の登記」をする前に区分建物になされた所有権・質権・抵当権に関する登記の効力は、敷地権に及ばない(不登法73条1項1号)。

ただし、共同担保の場合は、その登記の効力が敷地権にも及ぶ。そうしないと、法制度上 不都合が生じるからである。

 

一般の先取特権が除外されている理由は、一般の先取特権は法律上、債務者の一般財産すべてに生じるからである。

 

(b)区分建物になされた「所有権に係る仮登記」「質権・抵当権に関する登記」であって、その登記原因が敷地権の発生前に生じたものである場合は、たとえ「敷地権の登記」をした後に登記されたものであっても、その登記の効力は敷地権に及ばない(同1項2号・3号)。

 

所有権の本登記の効力は、その登記原因が敷地権の発生前に生じたものである場合でも、敷地権に及ぶ。

 

(c)上記のaまたはbに該当しない場合(すなわち、敷地権の登記をした後に登記されたものであり、かつ、その登記原因が当該敷地権の発生後に生じたもの)でも、次の場合には、区分建物になされた登記の効力は敷地権に及ばない(同1項4号)。

 

「分離処分の禁止」に該当しない場合

例えば、地上権が敷地権である場合には、建物との分離処分が禁止されているのは地上権であるから、土地所有権は自由に処分することができる。

 

権利の性質上、そもそも一体的処分ができない場合(地上権・賃借権・不動産先取特権など)

 

(ⅰ)地上権は「土地のみ」を目的として設定される。

 

(ⅱ)賃借権は「土地のみ」「建物のみ」に設定される。そのため、区分建物になされた賃借権の登記の効力は、敷地権には及ばない。

 

敷地権が賃借権である場合、賃借権を目的として抵当権を設定することはできないから、専有部分を目的として抵当権の設定契約がなされたときは、結果として「区分建物のみ」を目的とした抵当権となる。当該抵当権の登記の効力は敷地権に及ばない。

 

(ⅲ)不動産保存・工事の先取特権は、一定の事由がある場合に、その「対象物のみ」を目的として法律上当然に発生する。そのため、区分建物になされた不動産保存・工事の先取特権の登記の効力は、敷地権には及ばない。

 

分離処分とその登記を認めないと、法制度上 不都合が生じる場合(共同担保の追加設定や担保権の実行による差押えなど)

 

(ⅰ)土地に設定登記がなされた抵当権と共同担保の関係として、区分建物に抵当権を追加設定することができる。

 

(ⅱ)土地に登記された根抵当権について、敷地権が発生した後の日を登記原因日付として「債権の範囲の変更」の登記をすることができる。

 

(ⅲ)敷地権が生ずる前に設定されていた抵当権の実行による差押えの登記も、

「区分建物のみ」「敷地利用権のみ」を目的としてすることができる。

 

(d)区分建物になされた登記の効力が敷地権に及ばない場合は、敷地権の登記がなされた後であっても、土地についての登記をすることができるし、「区分建物のみ」に関する登記をすることができる(不登法73条2項ただし書・3項ただし書)。

 

「区分建物のみ」に関する登記をするときは、登記官が職権で「当該登記は建物のみに関する」旨の付記登記をする。建物についての既存の登記は、その後も、敷地権に効力を及ぼすものではないから、そのことを明らかにするための付記登記である。

ただし、その権利の性質上、一体的処分ができない権利に関する登記については、付記登記はなされない。例えば、建物の賃借権の登記には、「建物のみに関する」旨の付記登記はなされない。賃借権の性質上「建物のみ」に賃借権が設定されたことは明らかだからである。

 

 

<参考文献>

幾代通・不動産登記法(有斐閣)

清水響・Q&A不動産登記法(商事法務)

プログレス不動産登記法ⅠⅡ<第3版>(早稲田経営出版)

 

<過去問>

H28-20、H27-21、H24-19/24、H23-15、H22-20、H19-20、H18-25、

H15-19、H11-14/27、H10-13、H9-19