※ 司法書士試験用です。

 

 

Ⅰ 地上権の登記(不登法78条

(1)登記事項

 

1.地上権設定の目的(目的が「事業用建物の所有」であるときは、その旨)

 

2.「地代」またはその「支払時期」の定めがあるときは、その定め

 

3.「存続期間」の定めがあるときは、その定め

 

4.契約の更新・存続期間の延長・建物の買取請求などを「しない」とする旨の特約があるときは、その特約(定期借地権・長期タイプの事業用定期借地権)

 

5.「地下または空間を目的とする地上権」(民法269条の2)の行使のために土地の使用に制限を加える旨の特約をしたときは、その特約

 

 

地上権の登記を申請するときは、以上の登記事項を申請書に記載しなければならない(不登令3条1項13号・別表33)。

 

記録例

借地権(建物所有を目的とする地上権)

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「登記の目的」が地上権設定。「地上権設定の目的」が鉄筋コンクリート造建物所有。

 

定期借地権(存続期間が50年以上)

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地上権設定の目的を「建物所有」とすることで、この地上権が借地権であることを示す。特約は「借地借家法第22条の特約」。

 

事業用定期借地権(長期タイプ:存続期間が30年以上50年未満)

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地上権設定の目的は「借地借家法23条第1項の建物所有」。

特約は「借地借家法23条第1項の特約」と記録される。

 

事業用定期借地権(短期タイプ:存続期間が10年以上30年未満)

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地上権設定の目的は「借地借家法23条第2項の建物所有」。

 

地下または空間を目的とする地上権

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「登記の目的」は地上権設定。区分地上権設定ではないことに注意(民法にも不登法にも区分地上権の文言は存在しない)。

地下または空間の上下の範囲を必ず定めるので、その範囲を記録する。

特約は、その内容を具体的に記録する。

 

地上権の移転

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所有権以外の権利の移転なので「付記登記」。

 

(ア)定義・意義

(a)地上権とは、「工作物」または「竹木」を所有するために、他人の土地を利用する権利をいう。このような土地の利用は賃貸借によることもできる。

 

・地上権と土地賃借権の差異は、「譲渡性の有無」と「存続期間の長短」である。

地上権は物権なので譲渡性があり、したがって地主には登記義務がある。これに対して、賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾が必要とされ(民法612条)、したがって賃貸人には登記義務がない。賃貸人が任意に応じたときに登記をすることができる(同605条)。しかしこれでは借地人の保護に欠けるので借地借家法10条で修正されている。

存続期間は、地上権では契約により自由に設定できる(存続期間を定めないこともできる。民法268条)。一方、賃貸借では50年を超えることができない(同604条)。

 

(b)地上権と土地賃貸権には差異があるが、「建物の所有を目的とする」地上権と土地賃借権には、共に借地権として借地借家法の規定が適用される(借地借家法2条1号)。

 

・通常、不動産に関する物権と賃借権を第三者に対抗するためには、登記をしなければならない(民法177条・同605条)。しかし借地権の場合は、その登記がなくても、借地人が地上に登記した建物を有するときは、借地権の対抗力が認められる(借地借家法10条)。建物は借地人の所有だから、地主の協力がなくても一人で登記ができる。

 

・借地権は、

① 存続期間満了後も借地契約の法定更新が認められ(借地借家法4条同5条

② 借地権設定者からの更新拒絶に制限があり(同6条

③ 建物の再築による存続期間の延長があり(同7条

④ 借地権者(借地人)に建物の買取請求が認められる(同13条)。

 

・借地権の存続期間は30年であり、契約でこれより長い期間を定めることができる(同3条)。しかし法定更新が認められるため、結果として存続期間が定められていないのと同じになる。このように、借地権は借地権設定者に不利であるため、実務界からの要請により定期借地権が創設された。

 

(c)定期借地権とは、当初定められた期間で契約が終了し、その後は契約の更新などができない借地権である。

 

・借地権の存続期間が 50年以上の場合に、次の ①~③ を「なし」にする特約をすることができる借地借家法22条)。

 

① 借地契約の更新

② 建物の築造による存続期間の延長

③ 借地権者の建物買取請求

 

・定期借地権は借地権者に不利であるため、設定契約は公正証書によるなど書面によってしなければならない。

 

(d)事業用定期借地権とは、事業用の建物の所有を目的とする定期借地権である。

 

・事業用定期借地権には、存続期間が 10年以上 30年未満の「短期タイプ」と、30年以上 50年未満の「長期タイプ」がある。

「長期タイプ」の場合に、次の ①~③ を「なし」にする特約をすることができる。(借地借家法23条)。

 

① 借地契約の更新

② 建物の築造による存続期間の延長

③ 借地権者の建物買取請求

 

「短期タイプ」の場合は初めから、契約の更新・存続期間の延長・建物買取請求のすべてが認められないので、これらの規定を「なし」にする特約はなされない。

 

(イ)申請情報の記載事項(不登令3条1項13号・別表33

(a)地上権設定の目的

・地上権設定の「目的」は絶対的記載事項であり、これを欠くときは申請が却下される。地上権は「工作物」または「竹木」を所有する目的で土地を使用する権利だからである。

 

実務上は、「工作物の所有」「竹木の所有」といった抽象的な記載では不適当である。例えば、「鉄筋コンクリート造建物所有」「ゴルフ場所有」「杉所有」というように、工作物または竹木の種類を限定して具体的に記載すべきものとされている。(したがって、文言が法令で決まっているわけではないので、予備校本の書式を丸暗記する必要はない。不登法25条5号参照。)

 

(b)存続期間・地代

存続期間と地代に関する約定は地上権にとっての要素ではない。そのため、登記原因にこれらに関する定めがあるときにのみ申請書に記載を要求される。

 

その約定の内容は、原則として当事者の自由である(永久の地上権も認められる)。

 

しかし借地権にあっては、借地借家法が適用されるので、同法の定める最短法定期間の 30年より短い存続期間を記載した申請書は受理されない(不登法25条13号・不登令20条8号)。

 

(2)重複して地上権を設定することの可否

同一の土地に重ねて地上権を設定することはできない。既に登記された地上権につき登記記録上、存続期間が満了している場合でも、その地上権の登記を抹消しなければ、新たな地上権の設定登記を申請することはできない(不登令20条7号)。存続期間の更新がなされると地上権が二重となり、公示上適当でなくなるからである

 

しかし「地下または空間を目的とする地上権」区分地上権)であれば、その土地を使用収益する者の承諾を証する情報を提供して設定登記を申請することができる。

 

(3)一筆の土地の一部を目的として地上権を設定することの可否

一筆の土地の一部についてだけ地上権を設定することは、実体法上は可能であるが、

地上権の設定登記はできない。申請は却下される(不登令20条4号)。地上権設定の範囲を明確にして登記を簡明にするためである。

 

(4)共有持分を目的として地上権を設定することの可否

共有持分のみを目的として地上権を設定することはできない。他の共有者の持分権に

基づく使用収益権と抵触するからである(共有者の同意があってもダメである)。

 

(5)その他の登記手続

設定登記以外の地上権に関する登記についても一般通則によるが、移転登記は付記登記によってなされる。「地上権を目的とする他の権利の登記」「地上権の処分の制限の登記」についても同様である。

 

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Ⅱ 地役権の登記(不登法80条

(1)登記事項

 

1.要役地

 

2.地役権設定の目的・範囲

 

3.地役権が要役地の所有権と共に移転しないとする旨の特約(民法281条1項ただし書)があるときは、その特約

    

4.承役地所有者に工作物を設置する義務・工作物を修繕する義務(民法286条)があるときは、その特約

 

 

記録例

通行地役権(承役地)

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登記の目的は「地役権設定」。地役権設定の目的は「通行」。

地役権は要役地のための権利なので、承役地の登記簿には要役地の所在地が必ず記録される。

地役権は人のための権利ではないので、地役権者の氏名・住所は記録されない。同じ理由から地代・存続期間も記録されない。

 

通行地役権(要役地)※要役地が承役地と同一登記所の管轄に属する場合

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登記の目的は「要役地地役権」。

登記官が職権で記録する(だから受付番号が余白になっている)。

 

観望地役権(承役地)

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地役権設定の範囲が「全部」でも必ず範囲を記録する。

 

観望地役権(要役地)※要役地が承役地と同一登記所の管轄に属する場合

 

(ア)定義・意義

地役権は、設定の目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利である(民法280条)。例えば、他人の土地から水を引いたり、隣地を通行したりするために設定される。相隣関係(民法209~238条)に定める強行規定に反しない限り、地役権の内容に制限はない。

 

・要役地とは、地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう(民法281条1項本文かっこ書き)。

 

・承役地とは、地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう(民法285条1項本文かっこ書き)。

 

地役権は、A地(要役地)の利用価値を増すためにB地(承役地)を利用する権利である(地役権は人のための権利ではなく要役地のための権利)。したがって地役権は、要役地に付随する権利であると同時に、承役地の所有権を制限する権利である。

 

(ウ)設定の目的

地役権は要役地の利用価値を高めるための権利であるから、その目的を具体的に記載することを要する。目的の内容が細かく定められた場合には、その内容のとおりに記録する。例えば「日照の確保のため、高さ30メートル以上の工作物を設置しない」と定められた場合には、この文言のとおりに記録する。

 

(エ)設定の範囲

地役権の設定の範囲が全部である場合でも、申請書の記載を省略することはできない(この場合「範囲 全部」と記載する)。地役権は土地の一部にも設定できるので、その範囲を明確にしておかないと不動産登記制度の目的を達成できないからである。

 

(2)特則

・地代と存続期間を記載することはできない。地役権は人のための権利ではなく、要役地のための権利だからである。

 

地役権者の氏名・住所は記録されない。地役権は人のための権利ではないからである。したがって地役権者に登記識別情報は通知されない

 

・地役権は、承役地の所有権を制限する物権であるため、承役地に設定される。

したがって地役権の設定登記は「承役地」に対して申請する

 

・地役権は要役地に付随する権利であるから、承役地に地役権の設定登記がなされたときは登記官が職権で要役地の登記記録に承役地の表示や地役権の内容を記録する。そのため、要役地に所有権の登記がないときは、承役地に地役権の設定登記をすることができない。要役地と承役地の管轄登記所が異なるときは、要役地に所有権の登記があることを証明するために、登記申請の際に、要役地の登記事項証明書を提供することを要する

 

(3)その他

・地役権は、地上権のように目的物を全面的かつ排他的に使用することのできる権利ではないので、同一の土地を承役地として、異なる要役地のために複数の地役権を設定することができる不登令20条4号)。

 

・地役権は要役地に付随する権利であるから、要役地の移転に伴って地役権も当然に移転する。しかし地役権の移転登記を申請することはできない。地役権者が記録されないからである。要役地について所有権移転登記をすれば、地役権の移転についても対抗力が備わる。ただし、地役権が要役地の所有権と共に移転しない定めをすることができる。

 

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Ⅲ 賃借権の登記(不登法81条

(1)登記事項

 

1.賃料

 

2.「存続期間」の定めがあるときは、その定め

 

3.賃料の「支払時期」の定めがあるときは、その定め

 

4.賃借権の「譲渡」または賃借物の「転貸」を許す旨の特約があるときは、その特約

 

5.「敷金」があるときは、その旨

 

6.土地賃借権設定の目的が「建物の所有」であるときは、その旨(目的が「事業用建物の所有」であるときは、その旨)

 

7.契約の更新・存続期間の延長・建物買取請求などを「しない」とする旨の特約があるときは、その特約(定期借地権・長期タイプの事業用定期借地権)

 

 

記録例

通常の賃借権

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「賃借権設定の目的」は記録されない。

 

借地権(建物所有を目的とする土地賃借権)

 

定期借地権(賃借権)

 

事業用定期借地権(長期タイプ)

 

事業用定期借地権(短期タイプ)

 

転貸

 

賃借権の移転

 

(ア)賃料

・賃料は必ずしも金銭で定める必要はない。例えば「甲土地を使用収益する」と定めてもよい。

 

・数個の不動産を目的とした賃借権の設定登記を一つの申請書で申請するときは、

賃料は不動産ごとに分けて記載することを要する。

例えば「甲不動産、乙不動産あわせて100万円」のように申請書に記載することはできない。賃借権は不動産ごとに別々に登記されるからである。

 

(イ)設定の目的

原則として「設定の目的」を申請書に記載する必要はない。

 

ただし、土地の賃借権が借地権の場合は「設定の目的」を申請書に記載する必要がある。借地借家法の適用があるからである。

 

(2)設定登記の可否

既に賃借権の設定登記がなされている不動産について、重ねて別人のために賃借権の設定登記を申請することができる。賃借権は債権だからである。

 

ただし、不動産の一部について、または共有持分を目的として賃借権の設定登記をすることはできない。これは地上権の場合と同じく、他の共有者の持分権に基づく使用収益権と抵触するからである(他の共有者の同意があってもダメである)。

 

(3)賃借権の移転・転貸の登記手続

・賃借権の譲渡・転貸には、賃貸人の承諾が必要とされる(民法612条)。したがって賃貸人に登記義務はなく、賃貸人が任意に応じたときに登記をすることができる(同605条)。

 

・賃借権の譲渡・転貸を許す旨の登記がない場合に、賃借権の「移転の登記」または「転貸借の登記」を申請するときは、申請書に賃貸人の承諾を証する情報を提供しなければならない

 

・賃借権の移転の登記・賃借物の転貸の登記・賃借権を目的とする他の権利に関する登記・賃借権に対する処分の制限の登記などは、付記登記によってなされる。

 

 

 

<参考文献>

幾代通・不動産登記法(有斐閣)

法律学小辞典(有斐閣)

プログレス不動産登記法ⅠⅡ〔第3版〕(早稲田経営出版)

wikibooks  不動産登記記録例

 

<過去問>

H28-21、H27-18/22、H25-22、H23-14、H22-16、H20-13、H18-27、

H17-23/27、H15-23、H14-21/27、H13-25、H12-17、H11-27、H9-16/17