※ 司法書士試験用です。

 

Ⅰ変更・更正登記

(1)意義

(ア)変更登記

変更登記とは、登記された権利の内容の一部を変更する目的でなされる登記をいう。

 

変更登記を必要とする「権利の一部変更」とは、登記された権利内容の後発的な変化をいう。例えば、所有権登記名義人の住所の変更・被担保債権の利率の増減・共有物不分割の特約などをいう。

 

(イ)更正登記

(a)更正登記とは、既に存在する登記につき、その当初の登記手続において「錯誤」または「遺漏」があったため、登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に、この不一致を解消するべく、登記された権利の内容の一部を訂正・補充する目的でなされる登記をいう(錯誤があった場合に訂正、遺漏があった場合に補充)。

 

(b)更正登記の要件

① 登記を完了した後、登記につき「錯誤」または「遺漏」のあることが判明した場合であること

錯誤とは、登記上 本来なされるべき記録を欠き、代わりに誤った記録がある場合をいう。例えば、付記登記によるべきところを主登記によった場合である。

 

遺漏とは、単に真正の記録を欠く場合をいう。例えば、権利の存続期間の記録を欠く場合である。

 

② 更正の前後を通して登記としての同一性が認められる場合であること

例えば、なすべき登記を全体として遺漏した場合は更正できない。

また不動産自体を誤った登記や、権利の種類そのものを誤った登記も更正登記の対象とはなり得ない。後始末は抹消登記などによる。

 

これに対し、例えば、物権変動それ自体には錯誤や遺漏はないが、その登記原因に誤りがある場合は、更正登記をすることができる。

 

(c)登記名義人をAとすべきところをBと記録した場合は、原則として更正登記は許されない。これが許されるとすると、登記官には形式的審査権しかないから、関係者の馴れ合いで、登記名義人更正登記を濫用して権利移転登記の代用にするといった弊害を伴う。

 

例外として、抵当権の債務者AをBと更正する登記は許される(ただし根抵当権の場合は許されない)。抵当権の債務者の表示は登記事項の一部に過ぎないからである。この場合は、更正の前後を通して抵当権の登記としての同一性が認められるといえる。

 

(d)登記名義人の一部の者についてだけ錯誤や遺漏があった場合、すなわち共有の登記に関連して、登記名義人の一部の者を遺漏し、または登記名義人を余計に加えた場合(したがって各人の持分の記録にも誤りがある)は更正登記の対象となる

例えば、Aの単独所有の登記をABの共有に更正する場合である。この場合も、更正の前後を通して所有権登記としての同一性が認められるといえる。

 

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(2)登記の申請

(ア)申請人

登記権利者と登記義務者の共同申請によるのを原則とすること、その他すべて一般原則に従う

 

誰が登記義務者となるかは注意を要する。例えば、売買(相続以外の登記原因)によるAからBへの所有権移転登記をBCの共有名義に更正する場合の登記義務者はBとAである。Aは申請義務を完全に履行していないからである。

 

(イ)登記上の利害関係を有する第三者の承諾など

66条※ 読みやすくするために一部修正

権利の「変更登記」または「更正登記」は、登記上の利害関係を有する第三者の承諾がある場合および当該第三者がない場合に限り、付記登記によってすることができる

 

(a)変更登記・更正登記は、既存登記の権利の内容を変更・更正するだけであるから、ある程度までこれを許しても差し支えない。しかし、この方法を無制限に許すと第三者の利益を不当に害する場合がある。そこで不登法は、一定の制限の下で付記登記の方法によるものと定めている。

 

すなわち、付記登記によって変更登記・更正登記を申請する場合において、登記上の利害関係を有する第三者」があるときは、『当該第三者の承諾を証する情報』または『当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報』を提供することを要する別表25ロ)。

 

これらの情報を提供せずに変更登記・更正登記の申請がなされた場合は、その申請が却下されるのではなく、主登記(独立登記)の方法により、その登記がなされる。

 

例外として、根抵当権の極度額の増額変更登記を申請する場合には、必ず利害関係を有する第三者の承諾等を証する情報を提供しなければならない。したがって極度額の変更登記は常に付記登記でなされ、情報を提供できないときは申請が却下される。

 

(b)登記上の利害関係を有する第三者」とは、権利の変更・更正の付記登記がなされたとしたら、登記上の地位が形式的にマイナス変化を受ける者をいう。プラス変化しか受けない者、またはプラス・マイナスいずれの変化も受けない者は、ここにいう第三者に該当しない。

 

損害を被るおそれがあるか否かは形式的に決定される登記官に実質的審査権がないからである。損害を被るおそれのあることが登記の形式上に現れていない者は、たとえ実質的に損害を被るおそれがあっても、ここにいう第三者に該当しない。例えば、先順位抵当権の変更付記登記につき、未登記の後順位抵当権者は第三者に該当しない。

 

逆に、一般的に損害を被るおそれが登記の形式上から認められる限りは、たとえ実質的に損害を被るおそれがなくても第三者に該当する。例えば、抵当権が消滅していても、抹消登記がなされていない限り、その抵当権者として登記されている者は第三者である。

 

このような第三者が登記につき承諾を与えるかどうかは、原則としてその第三者の自由である。ただし第三者として承諾をする義務がある場合はこの限りでない。もっとも、このような承諾義務があることは、実質的審査権限を持たない登記官が判断できることではないから、承諾をする義務があるにもかかわらず任意に承諾をしない第三者に対しては、当事者は承諾を訴求することができる。そしてこの裁判があったことを証する情報をもって承諾を証する情報に代えることができる。

 

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(3)登記名義人の氏名等の変更・更正登記

64条

1.登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、登記名義人が単独で申請することができる

 

2.抵当証券が発行されている場合における債務者の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、債務者が単独で申請することができる

 

(a)登記名義人の氏名等の変更・更正登記については、登記義務者が存在しないから、登記名義人だけでこれを申請することができる。(登記義務者とは、権利に関する登記をすることにより、登記上 直接に不利益を受ける登記名義人をいう。不登法2条13号)。

 

ただし登記原因証明情報として、市町村長・登記官・その他の公務員が職務上作成した情報を提供することを要する(別表23)。登記の真正を担保するためである。

 

(b)登記申請の際、申請情報の内容である登記義務者の氏名や住所が登記記録と合致しないときは、登記の申請は却下される25条7号)。

 

したがって氏名等を変更・更正した登記名義人が登記義務者となる新たな登記を申請する場合は、その前提として、当該登記名義人の氏名等の変更・更正登記をする必要がある(氏名等の変更・更正を証する情報を提供しても、変更登記を省略することはできない)。

 

例外として、「所有権以外」の権利の抹消登記を申請する場合は、氏名等の変更・更正を証する情報を提供すれば、抹消登記の前提として登記名義人の氏名等の変更・更正登記をする必要はない。変更・更正登記をしても直ぐに抹消されてしまうからである。

 

(c)抵当権の債務者の表示に変更が生じた場合には、権利(の内容)の変更として、抵当権者と抵当権設定者との共同申請によって処理される。

 

しかし抵当証券が発行されている場合には、次の理由により(登記名義人の表示の変更の場合に準じて)債務者の単独申請とされている。

 

① 抵当権設定者が、現在の抵当権者(つまり抵当証券の所持人)を確知することが

一般に困難であること。

② 登記原因証明情報として公的な証明資料の提供が要求されるため債務者の単独申請を認めても弊害がないこと。

 

(d)登記名義人の氏名等の変更・更正登記は付記登記によってなされる不登規則3条1号)。

 

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(4)共有物分割禁止の定め

65条

共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記の申請は、当該権利の共有者である

すべての登記名義人が共同してしなければならない

 

この場合、共有者全員が「登記権利者」兼「登記義務者」となる。

 

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Ⅱ 抹消登記

(1)意義

抹消登記とは、既存の登記が登記事項全部について不適法となっている場合に、当該既存登記の全部を消滅させる登記をいう

 

登記事項の全部が不適法である場合が抹消登記の対象となるのであって、登記事項の一部のみが不適法である場合は、変更登記・更正登記・抹消回復登記などの対象となる。

 

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(2)登記の申請

(ア)原則 - 共同申請

・抹消登記も、一般通則に従い「登記権利者」と「登記義務者」の共同申請によることを原則とする。

 

・権利に関する登記の抹消は、「登記上の利害関係を有する第三者」がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる68条)。

 

「登記上の利害関係を有する第三者」があるときは、『当該第三者の承諾を証する情報』または『当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報』の提供を要する別表26ヘ)。

 

・抵当証券が発行されている場合に、抵当権の抹消登記を申請するときは、抵当証券を提供することを要する別表26チ)。抵当権が消滅するので、抵当証券を回収する必要があるからである。

 

(イ)例外 - 単独申請

・判決もしくは相続によって抹消登記(相続による混同で消滅した制限物権の抹消登記など)をする場合には、登記権利者の単独申請によってすることができる。

 

・単独申請によってのみなされる登記(所有権保存登記など)を抹消する場合には、当該抹消される登記の登記名義人の単独申請によってすることができる。

 

・以上のほかに、以下のような単独申請の特例が認められる。

 

(a)死亡または解散による登記の抹消(69条

権利が人の死亡または法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合において、当該権利が消滅したときは、登記権利者は、それらを証する情報を提供して、単独で当該権利に関する登記の抹消を申請することができる(別表26イ)。

 

(b)登記義務者の所在が知れない場合(70条

登記義務者の行方が知れないために共同申請ができない場合は、登記請求権の強制実現の一般原則に従い、登記権利者は、登記義務者を被告として抹消登記手続請求訴訟を提起し、公示送達の方法によって訴訟手続を進め、勝訴の確定判決を得れば、単独申請をすることができる。このほか、次のような簡易な手続きが特例として認められている。

 

① 登記権利者は、非訟事件手続法の規定に従って公示催告の申立てをし、除権判決があれば、それを証する情報を提供して、単独で抹消登記を申請することができる(別表26ロ)

 

先取特権」「質権」「抵当権」「元本が確定した根抵当権」に関しては、次の情報を提供すれば、登記権利者(債務者または物上保証人)のみで抹消登記の申請をすることができる別表26ニ)。

 

被担保債権が消滅したことを証する情報』

『登記義務者の所在が知れないことを証する情報』

 

被担保債権が消滅していない場合でも、債権の弁済期より 20年が経過しているときは、次の情報を提供すれば、登記権利者のみで抹消登記の申請をすることができる(別表26ニ)。

 

『被担保債権の弁済期を証する情報』

『弁済期より20年経過した後に債務全額の供託をしたことを証する情報』

『登記義務者の所在が知れないことを証する情報』

 

(c)仮登記の抹消

① 仮登記の抹消は、仮登記の登記識別情報を提供して、仮登記名義人だけで申請することができる。

 

② 次の情報を提供すれば、登記上の利害関係人も単独で抹消登記の申請をすることができる(仮登記は、将来なされる本登記の順位保全の効力を有するにとどまり、登記本来の効力である対抗力には直接関係のない、一時的・補助的な処分にすぎないため、登記上の利害関係人にも単独申請が認められる)。

 

『仮登記名義人の承諾を証する情報』

        または

『仮登記名義人に対抗することができる裁判があったことを証する情報』

 

ここで「登記上の利害関係を有する第三者」ではなく、「登記上の利害関係人」としているのは、共同申請で仮登記を抹消する場合の登記権利者(当該仮登記の仮登記義務者)を含む趣旨である。

 

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(3)登記の実行

(ア)抹消登記も、ある登記を抹消するという趣旨の一つの登記であるから、一般通則に従い、主登記の方法によってなされる

 

なお、抹消登記をした場合に、抹消した権利を目的とする第三者の権利に関する登記があるときは、この第三者の権利も当然に消滅したわけであるから、その登記を職権で抹消する。

 

(イ)A→B、B→Cの所有権移転登記がなされた後に、各移転登記を抹消するときは、まずB→Cの移転登記を抹消し、次にA→Bの移転登記を抹消することを要する

 

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Ⅲ 抹消回復登記

(1)意義

抹消回復登記とは、ある登記の全部または一部が不適法に抹消された場合に、その抹消された登記を回復し、はじめから抹消がなかったのと同様の効果を生じさせる登記をいう

 

「抹消登記の抹消登記」は許されず、抹消回復登記によらなければならない

 

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(2)登記の申請

72条※読みやすくするために一部修正

抹消された権利に関する登記の回復は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる

 

(ア)抹消回復登記は、不適法な抹消の対象となった原登記の種類に応じ、登記権利者と登記義務者の共同申請により、あるいは原登記の登記名義人の単独申請により、これをする。

 

(イ)登記上の利害関係を有する第三者があるときは、『当該第三者の承諾を証する情報』または『当該第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報』を提供することを要する(別表27)

 

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(3)登記の実行

一個の登記すべてを回復する登記は、主登記でなされる。

登記事項の一部を回復する登記は、付記登記でなされる不登規則3条3号)。

 

 

 

<参考文献>

幾代通・不動産登記法(有斐閣)

プログレス不動産登記法ⅠⅡ〔第3版〕(早稲田経営出版)

 

<過去問>

H28-15/19、H27-15/16/19/20/23、H26-12/14/15/22、H25-12/16/20/24、H24-18、H22-12/13/18/21/22、H21-21/23/27、H20-12、H19-25、

H18-12/15/20/24、H17-20、H16-16/27、H15-14/20、

H14-11/13/16/22/24/26、H13-13/16、H12-18、H11-13/21/24/26、

H10-16/24、H9-12/14/20/21/27