※ 司法書士試験用です。
Ⅰ 商法の意義
(1)民法との関係
商法は、民法と同じく、経済主体(経済活動を行う単位である人や企業など)の利益を調整するための法である。しかし商法は、対象となる経済主体が企業に限定されるので、商法は民法の特別法の立場にあるといえる。
特別法は一般法に優先するのが法の原則であるから、民法と商法の双方が適用可能な場面で両法が抵触する場合には、商法が優先される。
(2)商法の特色と傾向
(ア)第一に、企業は営利を目的とし、しかもこの目的は継続的かつ計画的である。そこで商行為の規定には、民法に比べて営利性を明らかに示した規定がある。
例えば商法512条では、「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる」と定めている。一方、民法の委任では、特約がない限り報酬を請求することはできない。
(イ)第二に、企業が営利目的を効率的に達成させるために取引を反復して行い、かつ、集団的な処理を行うことが多いことから、商法はそのような処理を行うことを容易にさせている。
例えば 509条では、商人が平常取引を行っている者から、その営業の部類に属する契約の申込みを受けたときに遅滞なく諾否の通知を発しないときには、契約が成立したものとされる。本来契約は、申込みに対して承諾をしなければ成立しないはずである。
(ウ)第三に、取引の円滑・確実化を図る規定が置かれている。
登記などによる公示制度によって、あるいは表見責任によって、取引の安全を図っている。
さらに、510条(物品保管義務)や511条(債務の連帯)のように、一般人よりも重い責任を課して商人の信用を高め、取引を円滑にさせている。
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Ⅱ 商法の適用範囲
(a)商法では、「商人」と「商行為」という二つの概念を使って、商法の適用範囲を明らかにしている。
はじめに、4条1項で商人を定義し、それは「自己の名をもって商行為をなすを業とする者」としている。
次に、その商行為とは何かについて、501条・502条で限定的に列挙している(限定列挙にしている理由は、商法の適用範囲を明確にするため、また類推や拡張解釈を禁じるためである)。
すなわち、商行為から商人を決定し、その商人に商法が適用される(固有の商人)。
(b)しかし、明文の規定で商行為を限定列挙しておくと、経済の発展に追いつかないという問題が生じてしまう。この点に関して4条2項は、店舗などの設備で物品を販売する者や鉱業を営む者は、商行為をなすことを業としなくても商人とみなしている(擬制商人)。
(c)また503条1項では、商人が営業のためにする行為を商行為としており、商人から商行為が決定される場合をも認めている(附属的商行為)。
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Ⅲ 商人
(1)固有の商人(4条1項)
商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
このような形で定義される商人は「固有の商人」と呼ばれる。
(a)自己の名をもって
「自己の名をもって」とは、法律上の行為から生じる権利・義務の帰属主体が、その商人本人であることを意味する。
たとえ商行為を業として行なったとしても、それが権利・義務を他人に帰属させるために行なっているのであれば、その者は商人とはならない。例えば、支配人が会社のために商行為を行ったときには、その行為の帰属主体は会社であって支配人ではない。この場合には、支配人が商人となるのではなく、会社が商人となるだけであり、支配人に商法は適用されない。
権利・義務の帰属主体になりさえすればよく、その者自身が現実に商行為をする必要はない。他人に実行させてもよい。例えば、使用人が営業主のために商行為を代理するときは、営業主が商人であって、使用人は商人ではない。会社においては、会社が商人であって、社長は商人ではない。
(b)業とする
「業とする」とは、第一に、集団的・計画的・継続的に同種の商行為を行うことを意味する。
第二に、営利を目的としていなくてはならない。
「営利」とは、対外的活動によって利益を上げ、その利益を構成員に分配することである。なお、医師・弁護士・画家などの自由職業人が行う事業については、一般的に営利目的で行われていることが否定される。
商法においては、「業とする」は「営業としてする」と同じ意味である。
(2)擬制商人(4条2項)
(ア)意義
急速に経済が進展する時代にあって、商人を「固有の商人」にだけ認めているのでは、現実への十分な対応ができない。そこで商法を改正し、経営形態や企業的設備に着目して商人の範囲を拡大させた。この商人が「擬制商人」と呼ばれる者である。
擬制商人は、商行為だけから商人を導き出すことに限界があったことを示すものといえる。
(イ)店舗などで物品を販売する者
商法501条では、投機購買(安く買って高く売ること)を絶対的商行為としている。したがって、自分が生産または収穫した農作物・畜産物・水産物などについては、
これを販売しても商行為に当たらないことになる。なぜなら、原始取得した物の販売は投機購買に該当しないからである。
しかし、同じ農作物などを販売する者であっても、これを他人から取得して販売する者(スーパーなど)は商人となるわけで、この場合との不均衡は否定できない。
そこで、商行為(501条1号に該当する行為)を業とする者ではないが、店舗などの設備で物品を販売することを業とする者は商人とみなされることになった。
(ウ)鉱業を営む者
鉱業は、特別大規模な企業的設備で経営する産業である。そこで、特に店舗を構えなくても、鉱業を営む者は商人とみなされる。
(3)小商人(7条)
(a)「小商人」とは、商人のうち、営業の用に供する財産につき、最終の営業年度の貸借対照表に計上した額が50万円を超えない者をいう(商法施行規則3条)。
(b)4条1項は業として行う取引の性質によって商人を決めているが、その結果、かなり小規模の者まで商人として商法の規制の下に置かれることになる。
しかし商法の中には、規模の小さい者にまで適用するのが妥当でない規定がある。
例えば、以下のことが考えられる。
(ⅰ)商業帳簿などの規定を守らせれば煩雑な手間を要求することとなり酷である。
(ⅱ)登記制度を義務づけるならば負担が重くなりすぎる。
(ⅲ)小商人の使う商号を保護すると、他の商人の商号利用を妨げることにもなる。
そこで7条は、「商業帳簿の作成」「商業登記や支配人の登記」「商号の譲渡」などの規定は、小商人に適用しないとしている。
しかし7条は、商号に関する規定を全面適用除外としているのではない。商号に関する規定を適用除外としているのは、小商人が商号を専用することで他の商人への妨害となることを防ぐためだからである。すなわち、商号に関する規定の適用除外は、小商人であれば他の商人の商号を侵害してよいことを意味するものではない。
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Ⅳ 商行為
(1)絶対的商行為
【501条】
次に掲げる行為は、商行為とする。
一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
二 他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
三 取引所においてする取引
四 手形その他の商業証券に関する行為
これらの行為を「絶対的商行為」という。
絶対的商行為は、営利性が強いので、反復・継続して行われなくても商行為となる。
してがって、たった一度でも行えば商行為となる(501条には、502条のように「営業としてするときは商行為とする」という文言がない)。
(2)営業的商行為
【502条】※一部修正
次に掲げる行為は、営業としてするときは、商行為とする。
ただし、もっぱら賃金を得る目的で物を製造し、または労務に従事する者の行為はこの限りでない。
一 動産または不動産の投機貸借とその実行行為(不動産賃貸業・レンタル業など)
二 他人のためにする製造または加工に関する行為(製造業・クリーニング業など)
三 電気またはガスの供給に関する行為
四 運送に関する行為
五 作業または労務の請負(土木業・建設業・労働者派遣業・理髪店など)
六 出版、印刷または撮影に関する行為
七 客の来集を目的とする場屋における取引(ホテル・スポーツ施設・動物園など)
八 両替その他の銀行取引
九 保険
十 寄託の引受け(倉庫業・駐車場経営など)
十一 仲立ち、または取次ぎに関する行為(媒介代理商・仲立人・問屋など)
十二 商行為の代理の引受け(締約代理商など)
これらの行為を「営業的商行為」といい、営業としてする場合に商行為となる。
「営業としてする」とは、営利目的で反復・継続して事業を行うことをいう(商法では「業とする」と同じ意味)。
営業的商行為は、絶対的商行為に比べて営利性がやや弱いことから、反復・継続して行われることによってのみ商行為となる。
(3)附属的商行為
【503条】
1.商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。
2.商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。
・商人が営業のためにする行為を「附属的商行為」という。
例えば、運送業者が営業のために車を購入した場合、その車購入は商行為となる。
・「商人が」とあるので、商人でない者が営業のためにする行為は商行為にならない。例えば、これから運送業を始ようとする者が、営業のために必要になる車を購入する場合、その車購入は商行為にならない。
・商人の行為は営業のためにするものとの推定を受けるから、商人の行為が営業のためではないと立証しないと、商行為とされてしまう。例えば、商人が自家用車を購入した場合にその旨を立証しないと、その車購入は商行為とされてしまう。
・なお会社については、事業としてする行為およびその事業のためにする行為は商行為とされる(会社法5条)。会社にあっては、事業と無関係な行為が考えられないからである。
<参考文献>
近藤光男・商法総則・商行為法(有斐閣法律学叢書)