※司法書士試験用です。
Ⅰ 罪刑法定主義の意義
何を犯罪とし、これにどのような刑罰を科すのが良いかは、それ自体として自明のことではない。誰かがこれを決める必要がある。
また、何が犯罪であり、どのような刑罰が科されるのかが前もって示されていないと、人々はその行動を選択するときに不安を感じることになる。
そこで、①この決定を国民自身が、その代表者である国会によって法律の形で行い(法律主義)、②このような決定が事前になされている場合でなければ、人々の行為を処罰することはできないこと(事後法の禁止)が認められている。これを「罪刑法定主義」という。罪と刑を前もって法律で定めておかないと人を処罰できない、ということである。
すなわち罪刑法定主義は、「法律主義」と「事後法の禁止」の要請を含んだ原則である。
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Ⅱ 法律主義
憲法にも刑法にも「法律主義」を直接規定する条文は存在しない(明治憲法では 23条で明文化されていた)。
憲法31条に「法律の定める手続によらなければ処罰されない」との規定があるだけなので、刑法が法律でなければならないかどうかは憲法31条の規定するところではない、との解釈もできなくはない。
しかし憲法31条の「手続」の中には狭い意味の手続だけでなく、手続の中で適用される刑法も含まれると解することが出来る。
そうだとすると、現憲法も「法律主義」を規定していることになり、罪刑法定主義は憲法上の根拠を有することになる。
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Ⅲ 事後法の禁止
(1)憲法39条は「何人も、実行の時に適法であった行為については、刑事上の責任は問われない」と規定している。これは「事後法の禁止」を明文で示したものである。
事後法の禁止は、以下の行為を禁止する規定だと解されている。
① 行為の時に「適法」であった行為を後になって処罰すること。
② 違法ではあるが罰則のなかった行為を処罰すること。
③ 行為のとき規定されていた刑より重い刑で処罰すること。
(2)刑法6条は、憲法39条の規定が置かれる前から、「犯罪後に法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる」と規定していた。
この刑法6条は、以下のことを規定するものである。
① 行為の時に刑が規定されていなかったときは、後にその行為に対して刑を規定して処罰することはできない。
② 行為の時に刑が規定されていた場合でも、後にその刑より重い刑を新たに規定して、その重い刑で処罰してはならない。
③ 刑が軽くなった場合も、軽い方、すなわち裁判時の刑による。
ただし、これは「事後法の禁止」の問題ではない。立法者が「そのような行為は軽い刑で処罰すれば足りるとした以上、もはや重い刑で処罰する必要はない」との理由によるものである。
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Ⅳ 罪刑法定主義の派生原理
刑法の立法・適用の上で、罪刑法定主義の要請から導き出される指導理念としては、
「慣習刑法の否定」「刑法の不遡及」「絶対不定期刑の否定」「類推解釈の禁止」などがある。
(1)慣習刑法の否定
これは法律主義と表裏の関係にある。罪刑法定主義の下では、どのような行為を罰するかは成文法により定められることを要するので、慣習法により処罰することは許されない。
もっとも、慣習や条理が成文法の具体的内容を確定する上で重要な役割を果たすことは否定されない(例えば、不真正不作為犯における作為義務、過失犯における注意義務の認定など)。
※「成文法」とは、憲法や法律のように、文書の形で制定された法規範のことである(規範とは、是非善悪を判断する基準のことであり、通常、行為の禁止・命令の形で表現される)。
「慣習法」とは、人々の間で行われる慣習規範で法的効力を有するものである。文書の形をとらないので「不文法」である。
「条理」とは、物事の筋道のことで、裁判が行われる際に成文法・判例法・慣習法のいずれにも該当する法律が存在していない場合に基準とする事柄のことである。
(2)類推解釈の禁止
類推解釈とは、「Aという行為が処罰されるのなら、これと同じようなものであるBという行為も処罰されて然るべきだ」という解釈方法である。
類推解釈によって処罰すると、法律に規定がないのに処罰することになる点で「法律主義」に反する。また行為の時には処罰すると言明されていなかった行為が後になって処罰されることになる点で「事後法の禁止」の趣旨にも反することになる。
類推解釈が許されないといっても、刑法の規定は常に最も狭い意味に解釈しなければならない、ということではない。拡張解釈は許される。
例えば、器物の「毀損」という語は物理的に破壊することをいうのが通常であろうが、判例は食器に放尿して使用できないようにしたときも「毀損」に当たるとしている。これは、「毀損という行為による法益侵害の実質は効用を失わせることにある」と考えて、毀損という語を拡張解釈したものである。
ただ、刑罰を科すことは慎重でなければならないから、拡張解釈もまた慎重でなければならない。
※「法益」とは、法によって保護される社会生活上の利益のことである。何々権という権利として一般に認められていないものであってもよい。
罪刑法定主義は、犯罪成立の範囲を縮小する方向(縮小解釈)では、類推解釈することを禁止しない。例えば刑法159条は、「事実証明」に関する私文書の偽造を処罰しているが、この「事実」とは、「全ての事実をいうのではなく、社会生活に関連する事実に限る」という解釈がなされている。
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Ⅴ刑法の効力
(1)場所的効力
(ア)属地主義(原則)
属地主義とは、日本国内にある全ての人に対して刑法を適用するものである。
「日本国内」には、国外にある日本船舶・日本航空機内を含む。
(イ)属人主義(例外1)
属人主義とは、犯人が自国民である限り、犯罪地の内外を問わず刑法の適用を認めるものである。
刑法3条は殺人罪・傷害罪・強盗・詐欺罪など、刑法4条は公務員の虚偽公文書作成罪などの比較的重い犯罪について、日本国民が国外においてこれを犯した場合に刑法の適用があると規定している。
(ウ)保護主義(例外2)
保護主義とは、自国または自国民の法益を侵害する犯罪に対しては、犯人・犯罪地の
如何を問わず、全ての犯人について刑法の適用を認めるものである。
刑法2条は、通貨偽造罪・有価証券偽造罪などの重大な犯罪について、外国人が国外においてこれを犯しても刑法を適用するとしている。
(2)人的効力
「天皇」「国会議員の院内活動(憲法51条)」「治外法権を有する外交官・外国軍艦の乗務員」などには、刑法は適用されない。
<参考文献>
平野龍一・刑法概説(東京大学出版会)
前田雅英・刑法総論講義(東京大学出版会)
※は法律学小辞典(有斐閣)を引用。
条理の定義はウィキペディアを引用。
<過去問>
H17-25、H9-23