(昭39・4・9民事甲1505号民事局長回答)

【先例要旨】 

『 甲名義に所有権保存登記がなされている建物について、甲・乙双方から、登記原因を「真正な登記名義の回復」(原因日付は不要)として、乙のために所有権移転の登記を申請することができる。』

 

本件先例を一般化すると次にようになる。

「所有者ではない甲が登記簿上所有者(登記名義人)として保存登記されている場合に、真正な所有者乙が登記名義を回復するには、①甲名義の登記を抹消したうえで乙名義の保存登記をする方法でもよいし、②甲→乙への移転登記をする方法でもよい。移転登記による場合は、それが甲・乙の共同申請であるか、判決による乙の単独申請であるかにかかわりなく、登記原因を『真正な登記名義の回復』とすればよい。」(実際には甲→乙への物権変動は生じていないので、原因日付というものはない。)


しかし、乙の登記名義を回復する方法として移転登記の方法によることができるかどうかについては問題があり、判例と学説が対立している。

 

判例(注1)によれば、無権利者がほしいままに成した不真正な無効登記についての回復登記は、必ずしも抹消登記によることを要せず、移転登記によることも差し支えないとしている。

 

その理由は次のとおり。

① 登記名義回復のための登記請求権は法律上当然に生じる物権的請求権であるから。

② 移転登記であっても現在の権利関係に合致している以上、その限度で公示する力があり、登記制度の立法目的を達するに足るものであるから。

 

登録免許税の面からみると、抹消登記によれば不動産一個につき1000円で済むのに対し、売買を原因とする移転登記によれば不動産価額の1000分の20を要するから、通常は抹消登記による方法が好まれる。

 

とすると実際上、移転登記による登記名義の回復は、無効登記が二段以上に渡っていて、登記名義を順次逆戻ししていく抹消登記の方法によることが難しい事情がある場合などに、中間省略登記として利用されることになると思われる。

 

なお、登記名義回復の方法として移転登記でも妨げないかどうかという問題は、仮装譲渡(通謀虚偽表示)などのような、当初から無効な登記についても起こる。

また、取り消しや解除などで権利変動が遡及的に消滅したのに、なお登記簿上あたかも有効な登記であるかのように残存している無効な登記についても起こる。

これらの場合に無効をもって対抗し得ない第三者がいるならば、登記の回復は移転登記の方法ですべきことになる。

 

(注1)大判昭和16・6・20民集20巻888頁

 

 

【参考文献】

不動産登記先例百選〔第二版〕(有斐閣)

山野目章夫・不動産登記重要先例集 (有斐閣)

真正な登記名義の回復の登記とは?(吉澤司法書士事務所)