(昭和46.10.4民事甲第3230号民事局長通達)※ 読みやすくするために手を加えています

 

『 順位の変更の登記は、例えば順位番号1番・2番・3番の抵当権の順位を3番・2番・1番のように変更する場合には、1番・2番・3番の抵当権の登記名義人の全てが申請しなければならない。』

 

民法373条】(抵当権の順位)

同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。

 

民法374条】(抵当権の順位の変更)

1.抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。

2.前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。

 

不登法89条】(抵当権の順位の変更の登記等)

1.抵当権の順位の変更の登記の申請は、順位を変更する当該抵当権の登記名義人が共同してしなければならない。

2.省略

 

 

抵当権の順位の変更は、「優先弁済の順位」を変更するものであり、順位番号(登記事項を記録した順序)を変更するものではない。

 

したがって通達の例示の場合には、2番抵当権の順位も変更されると考えられる。

すなわち変更前の2番抵当権の(優先弁済の)順位は、1番抵当権に劣後するが3番抵当権に優先するというものであったのが、変更後には、3番抵当権に劣後するが1番抵当権に優先するという順位になる。この点からすれば、2番抵当権の順位番号は変更していないが、優先弁済を受ける順位は変更していると考えられる。

 

『 変更後の順位をさらに変更する場合には、別個の順位の変更の登記によってする。』

 

再度順位を変更する場合には、先になされている順位変更の登記の付記登記ではなく、別個の主登記によるべきものとされる。(優先弁済の)順位の変更の実質は、「新たな順位の創設」と考えられるので、再度の順位の変更は最初のそれとは全く無関係な別個のものだからである。

 

記録例

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5番登記事項に記録されている「第1」「第2」「第3」が抵当権の順位(=優先弁済の順位)である。1番・2番・3番・4番は順位番号である。

6番登記事項は、変更後の(2番と4番の抵当権の)順位を更に変更した場合である。

 

 

『 順位の変更の登記には、不登法66条および不登規則150条の適用がない。』

 

不登法66条※読みやすくするために手を加えています

権利の変更の登記または更正の登記は、登記上の利害関係を有する第三者の承諾がある場合および当該第三者がない場合に限り、付記登記によってすることができる。

 

不登規則150条】

登記官は、権利の変更の登記または更正の登記をするときは、変更前または更正前の事項を抹消する記号を記録しなければならない。

 

 

順位の変更は、関係する多数の抵当権の順位を一挙に絶対的に変更するものであるから、順位の変更にかかる抵当権に、これをいちいち付記するのは適切でないと考えられる。また、もともと設定登記の変更登記という性質のものでもない。

したがって、登記は主登記でなされる。そうだとすれば、利害関係人の承諾がある場合にのみ変更登記を付記登記でするものとする不登法66条の適用の余地はないことになる。

 

順位の変更は、順位番号の変更ではなく「優先弁済の順位を変更」するものであるから、変更によって抹消されるべき変更前の事項は存在しない。したがって、不登規則150条の適用の余地はない。

 

 

『 順位の変更の登記の申請書には、当該不動産についての登記上の利害関係人の

承諾書を添付するものとする。』

 

(1)順位の変更をしようとする場合には、その順位の変更によって不利益を受ける第三者の承諾を得なければならない(民法374条1項ただし書)。

したがって、そのような利害関係人が存在する場合には、その者の承諾書を、不登令7条1項5号ハの添付情報として提出しなければならない。

 

(2)不利益を受ける第三者(利害関係人)に該当する者は次の通り。

① 順位を変更しようとする抵当権の転抵当権者

② その抵当権の被担保債権の差押債権者および質権者

③ その抵当権の順位の譲渡または放棄を受けている者

④ その抵当権に対して順位の譲渡または放棄をしている先順位の担保権者

 

(3)抵当権が共同抵当権であるときは、共同担保たる他の不動産の上の後順位抵当権者も利害関係人に該当すると思われる。しかし、登記の申請をする場合、登記官は、登記が申請された不動産の登記記録と申請書とによって当該申請の適否を審査すべきものと考えられるから、他の不動産の上の後順位抵当権者などの承諾書を添付する必要はないものとされている。

 

もっとも、順位の変更の結果、利害関係人が利益を受けることとなる場合、すなわち転抵当権の目的となっている抵当権の順位が上昇するような場合には、承諾を要しない。

 

ここで利益を受ける場合とは、第三者の目的となっている抵当権の(優先弁済の)順位が上昇する場合のみを指す。上位にくる抵当権の債権額が、従前上位にあった抵当権の債権額より少額の場合にも、同じく利害関係を生ずるものとして取り扱うのが相当と考えられる。

 

 

『 順位の変更の登記の抹消登記は、順位の変更にかかる抵当権の登記名義人の全てが申請しなければならない。この場合の申請書には、全ての申請人の抵当権取得の

登記の登記済証(登記識別情報)の添付を要する。』

 

順位の変更は「新たな順位の創設」とみるべきものである。しかも、順位の変更はその登記によって効力を生ずる(民法374条2項)ものとされている。そのため、一旦変更した順位を変更前の順位に戻すというのも「変更前の順位を新たに創設するもの」とみるべきである。

 

これを順位の変更契約の解除とみるべきではない。なぜなら、順位の変更契約を解除しただけでは順位の変更の効力は失わないのであり、登記によって効力を生じたという事実は完全に無くならないと考えられるからである。

 

したがって、順位の変更登記の抹消が問題になるのは、順位の変更の登記に錯誤があって無効な場合に限られるものと考えられる。そして抹消の場合には、抹消されるべき登記を申請した者全員が申請人とならなければならない。その際提出すべき登記済証(登記識別情報)は、順位変更の登記済証(登記識別情報)ではなく、抵当権取得の登記の登記済証(登記識別情報)である。

 

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(昭46.12.27民事三発第960号民事局第三課長依命通知) ※ 読みやすくするために手を加えています

 

『 順位変更の登記の申請は、不動産ごとに各別の申請書によるべきであるが、共同担保である場合において各不動産についての順位変更にかかる抵当権の順位番号および変更後の順位が全く同一であるときは、同一の申請書ですることができる。』

 

順位の変更は新たな順位を創設するものであるから、それは共同抵当権についても各不動産ごとに創設されるべきものと考えられる。

したがって、順位変更の登記は一個の不動産ごとに申請すべきである。

 

しかし、順位を変更しようとする抵当権の全てが同一の共同担保の関係にあり、しかも各抵当権の順位番号および変更後の(優先弁済の)順位が全く同一である場合には、便宜、数個の不動産について同一の申請書で申請することが認められる。

 

 

『 順位番号1番A・2番B・3番Cの抵当権の順位をC・B・Aと順位の変更の登記をした後、順位番号1番A・4番Dの抵当権の順位をD・Aと変更する登記の申請は、A・Dの抵当権の登記名義人が申請人となる。』

 

BとCは、先になされた(優先弁済の)順位の変更によってAに優先する。そのため、共に劣後するAとDの(優先弁済の)順位が変更されても、BとCの(優先弁済の)順位は影響を受けない。したがって、BとCの抵当権の順位は変更しないので、BとCは申請人にならない。

 

※抵当権の順位とは、優先弁済の順位をいう。

順位番号とは、「登記事項を記録した順序」を示す番号をいう。

 

【記録例】

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1番・2番・4番の(優先弁済の)の順位を変更した後、さらに2番と4番の(優先弁済の)順位を変更する場合、申請人となる者は2番抵当権の登記名義人と4番抵当権の登記名義人である。1番抵当権の登記名義人は申請人にならない。

 

 

<参考文献>

不動産登記先例百選〔第二版〕(有斐閣)

山野目章夫・不動産登記重要先例集(有斐閣)

不動産登記記録例