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2016.11.26
現実を知ってしまったら幸せに過ごせなかった

KDP代表 菊池英隆



2014年から「3年連続犬猫殺処分ゼロ」を達成した神奈川県動物保護センター。黒岩知事や杉本彩さんら著名人が出演するPR動画を作るなど、神奈川県は動物愛護に熱心な印象だ。しかし、殺処分ゼロを支えているのは職員さんの努力と、ボランティアによる協力あってのこと。

神奈川県動物保護センターで、犬の保護に大きな貢献をしている動物保護団体の1つが神奈川ドッグプロテクション=KDPだ。KDPの菊池さんが犬の保護活動を始めたきっかけなど、お話を伺ってきました。



KDPの代表 菊池英隆さんが動物保護活動を始めたのは約9年前のことだった。菊池さんは東京生まれ、神奈川県育ち。子供の頃から家族で飼っていた動物、競技スキーやウインドサーフィン、サーフィンなどを通して自然を大切にするなど、動物や自然といったことを、ごくごく当たり前のように自分のライフスタイルに取り入れていたという。



菊池「僕が21〜22歳頃、当時付き合っていた彼女と一緒に暮らすことになって、そこで「犬飼おうよ。」という話になって、当時は保健所で犬が死んでいるなんて知らなかったので、近所のペットショップでミニチュアダックスフンドを3頭買ったんです。「犬を飼う」=「犬をペットショップで買う」だと思っていて。」

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菊池さんは当時、逗子でBarを経営。神奈川県は人口に対して犬登録も多く、場所柄、お店には犬を連れたお客様が多く来店したという。何年かするうちに、犬がもっともっと好きになり、「犬」という存在が、菊池さんの中で、だんだん近くなってきたときに、いままで興味もなかった「保健所の話」が耳に入ってくるようになったという。



菊池「頭の片隅では、「保健所」という存在をわかっていたけど、当時の僕は自分のライフスタイルを向上させるためだけに集中・重点を置いて、楽しく稼ぐということだけを考えていました。その時は、苦しいことや悲しいことを考えると、つまらなくなっちゃうし、見たくなかったし、考えたくなかったんですね。」

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約10年程、わざと目を背けていた「保健所」という存在。そのうちに、菊池さんはその「保健所」が平塚にあることを知ったという。

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菊池「いままでは波を待っている間、富士山の方向、西の方向を見るたびに今日はいい波に乗れたな、いい夕日だな、と幸せを感じる事が多かったのに、ある時から、その方向に「平塚」があると思ったら幸せだと思えなくなってきて。俺はこんなに犬が好きなのに、一方で俺が見て見ぬ振りをしているうちに死んでいく犬がいて、俺は自分に嘘をついて、偽の生き方をしているんじゃないかと思うようになったんです。僕の周りにも犬好きがたくさんいて、逗子は犬好きがこんなにいるのに、死んでいく犬がいて。」



菊池「ある時、ふと、こんなんでいいのかと、犬を救わなくていいのか?と思うようになってから全てのことに対して幸せではなくなってしまったんです。自分の生きる道を失ってしまったんです。いままで生きていた世界で生きていけなくなってしまったんです。偽の幸せを送っていると思って。サーフィンもウインドサーフィンもトップクラスの人以外は自己満足の世界ですから、商売も上を見たらきりがないし、いつまで俺は自己満足で、このまま終わっていいのかと思うと、自分が恥ずかしくなってきて完全に自分を見失ってしまったんですよね。それで、悩んだ末、当時の彼女に「犬を出してきていいかな。」と話したら、「いいよ。」っていってくれて、それでまず初めに、横須賀市のセンターに初めて行きました。その時、3頭犬が入っていたので3頭引き出してきたんです。それが初めての保護活動ですかね。」

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当時はPCもいまのようには活用できてない時代、里親探しは近所のスーパーに貼らせてもらった張紙だった。

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菊池「たまたま、運良く3頭にはすぐに里親さんが見つかり、犬も救えたし、すごい喜びがあって、で、もう一回横須賀の保健所に犬を引き出しにいったら犬がいなかったんです。で、どこに行けば犬がいるのと聞いたら「平塚にいる。」と言われて、平塚に電話したら当時も犬が60頭くらい収容されていて、処分機もバンバン稼働していて、600頭くらい処分していた。で、僕がボランティアしたいと言ったら「まずは登録してください。」と言われたので登録して、登録してから2週間後くらいに「犬を引き取りに来てくれ。」といわれて。

その時からドキドキしちゃって、前の日とか眠れなかった。で、平塚に行く手前に、鶴巻温泉があるんですけど、その煙突から煙が出てるのを見て、僕、あれかとおもって「あーーー!!燃やしてるー!!おっかねー!!」と思って。」



菊池「だから僕はとても犬が好きだけど、何もできない人、一歩前に踏み出せない人たち、もしくは目を背けちゃっている人たちの気持ちがすごいわかるんですよね。自分がそうだったから。でも、だからこそ、そういう「この国の犬を救える」のって、「愛犬家」でしかないと思うんです。だからこそ僕はそういう愛犬家の人たちに、一人でも多くの人に、なんでもいいから自分たちのために。何かあった時に自分たちの犬が殺されないために、何かできることをやってもらえたらいいなと思って発信しているんです。」

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犬の保護活動をやり始めるようになってから 神奈川ドッグプロテクション(KDP)と名前をつけたのは6年前。

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菊池「それまでは隣の山に住んでたんで、そこで保護活動をはじめたんです。でも周り近所の目があるので「20頭迄」と決めてやっていました。でも、明日処分される犬がいるとわかっていながら、周り近所の目を気にして犬を持ってこれなくて死んじゃったことが何回かあって、次行ったらその犬がいないというのが悔しくて、なんで間違ってることじゃないと思うのに、環境があれば救えたのに、死んじゃったんだろうって悔しくて....そこから土地を探し始めたんです。

その頃まだ仕事もしていたので、千葉の南とか三崎とか探したんですが、毎日仕事にも通わなきゃならなかったので断念して、たまたま何年か前から店をやりたくて場所を探していたときに、歩き回って地主さんとかと仲良くなっていた時のことを思い出して、地主さんのところに行って、「何か土地がないかな。」と聞いたら「いろんな人が見に来たけど断念した場所があるよ。600坪。」と言われて、「見てきていいですか?」と言ったら「見るも何も、森だよ。」と言われた。でも見に行ったんです。草をかき分けて入ってみたら犬が走れない傾斜でもないなと思って、草刈りさせてくださいと言って草刈りして、大丈夫そうだから貸してといって借りました。それが6月くらいかな、そこから作業をはじめて、一人じゃできない時とかは職人さんに手を借りたけど、ほぼ一人で作業して、12月28日くらいにやっと柵が出来上がって、犬を入れられるようになったんですよ。」

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そこからも色々な苦労を重ね、近隣住民との関係を築きながら、ようやく、いまのKDPの形になったという。

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菊池「毎日本当に全てのことにドキドキしながら生活していました。必要に迫られてなんでもやりました。でもね、僕、一度崩壊した事があるんです。保護活動を始めてから、実は割とすぐに支援者が集まったりボランティアさんが来てくれるようになって、メディアの人も来てくれてなんかすごくうまくいっている気がして、犬もバンバン引き出して、気が付いたら120匹くらい犬がいて。でも、その頃、怒りしかなかったんです。犬は保健所にいっぱいいて、捨てる奴がいて、すごく頭にきて、手伝いに来てくれているボランティアさんに対しても、里親さんにも怒っていて、トライアルに出した犬がうまくいかなくて返されたら、ふざけんなって言ったり、自分の許せない事ブログに書いたり、パートナーに対してもとにかく怒りしかなくて、で、120匹近く犬がいたら、吠え声もうるさいから近所の人に頭下げに行ったんです。

「犬の吠え声がうるさくてすみません。」て、そしたら、「犬の吠える声よりあんたの怒鳴る声の方がうるさいよ。」って言われて。



ある日、気が付いたら、ボランティアさんもパートナーもみんないなくなったんです。120匹近くの犬と僕を残して。4年前くらいかな。そこですごく反省したんです。一人になって、反省して、で、昔僕の店でバイトしていた島田さんに声かけて世話を手伝ってもらったんです。本当にこの活動にはどの方面にも「怒りとは負」でしかありません。自分自身も駄目にしてしまいます。」





菊池「僕、早くこうした活動を終わらせて、元の生活に戻りたいです。僕としてはいまの現状、神奈川県のセンターが新しくなったときに、センターが「犬猫の譲渡事業」を行うことについて、個人的にうれしく思っています。」

菊池「ところが、新しく完成するセンターが犬猫の譲渡事業を行うことを、何年も反対している方もいるようなんです。「犬猫の譲渡事業をセンターがやってしまったら、自分たちがやることがなくなるじゃないか。」と言う声もあると。そういう人たちは、犬を保護する事が自分の生活の糧なんですよね。保護犬がいなくなると困るんだそうです。それとね、公務員の中で、何かしようと頑張る人がいると、左遷される人もいるんです。過去に何度か目にして。いい人って出世できないんだなぁと思って。やっぱり僕は行政の中の人も助けてあげたいからこの活動をやっているというのもあるんですよね。犬や猫を処分するとなると職員さんも苦しむから、引き出して、犬も人も助けてあげたい。結局犠牲になっているのは犬だけではなく、実際には行政の中にいる人も犠牲になっているんです。」



菊池「本来センターに収容される犬っていうのは捨てられた犬ばかりではなくて、中にはすごく可愛がられて、大切に飼われていた犬もいて、不本意ながら、飼い主さんが家族が亡くなった、病気になってしまったことにより収容されている犬たちも入っているんですね。捨てられていない犬たちが。昭和47年に狂犬病予防法で犬を捕まえて処分していたセンターから、歴史は浅いけど、いまはもう時代が変わっていているんですよね。」



菊池「また、東関東大震災の時なんだけど、僕、地震が起きたとき、福島まで犬をレスキューに行くか迷ったんです。被災地まで神奈川からは遠いし、福島の犬を救ったら、神奈川の犬を救えない、どうしようかなと迷ってて、「行く」と決めたの震災から1ヶ月後。1ヶ月悩んで行ったんで、スタートが遅かったんですよ。最初は「犬を助けに行かなきゃ!」と思って行ったんだけど、それが徐々に変わってきて。」



菊池「犬を保護して、飼い主さんたちにつなげたときに、飼い主さんが「すぐ帰ってこれるから犬を置いて行けと言われて、自分たちの毛布も十分にないところで避難生活を送っているときに、自分ちの犬どうなっているのかな。」とか、毎日色々な心配しながら生活している人に、犬を保護して、預かってますよと連絡してあげると、「本当によかった!やっと肩の荷が下りた、これでやっと安心して避難生活が送れます」と言われたときに、犬のために救助に来たはずが、これって犬であるけど、被災地支援なんだって思った。人の支援なんだって思った。そのとき思ったのは、どんなに行政がちゃんとしたことを言っても、一被災者が心から安心して避難生活を送れていない、それだと、人に優しくない行政だなって思ったんです。」



菊池「やっぱり動物に優しくない国は…なんて言いますけど、この国は人に優しくないから、動物にも優しくないんだなって思って。で、そういうこともあって、福島の震災が「この場所」だったかもしれないと想像すると、今後のセンターがどうあるべきかというのが見えてくると思うんです。そして震災は今後、間違いなくどこででも起こることだと思うんです。」



菊池「僕自身にも言える事だけど、交通事故とか病死とか突然死とか、捨てるつもりもなかったけれど、不本意ながら自分の家の犬がセンターに入ってしまったり、誰にでも起こりうる、震災、天災、災害に巻き込まれた時に、自分の死後、家族である犬や猫が、センターに収容されて殺処分されたら悲しいじゃないですか。だから、人も犬も悲しくないように、人道支援のために運営していけるセンターであればすごく安心できると思うんです。今後のセンターは県民のため・住民が安心して暮らしていける仕組みの1つとして、運用されていくべきだと思う。だからそういう方向に行きたいし、一人一人の愛犬家の方の小さい力の積み重ねが必要だと思うんです。

震災前、後の福島の統計にも数字で表れているように、単発的な避妊去勢の徹底とその啓蒙ではあからさまに数字にはでてきますが、それを長く続ける事で最終的に元々いた在来、地犬、日本雑種の淘汰によって、外国産の犬が日本の畜犬登録の大部分をしめてしまう可能性も出、もらえる犬がいなくなると、自然に買いに走り、繁殖業者の時代到来、ここぞとばかりにセールが始まる、その筋に思う壺である将来も避けなければいけなく、

現に都心部や関東県内では保護犬をもらうか、買うかの二通りの選択肢しか無く思え、それは今の発展した「業界」を象徴していて、数字には出てこない表立たない不明犬、不幸犬の数は増え続け、いつの日か元、現愛護団体が繁殖屋の下請けとなる、恐ろしく、恐怖な事態も起こりうる事にも目を向け、阻止しながら、バランスの取れた取り組みが求められて来る事でしょう。これが他方面とのバランスと言う事です。この広い意味でのバランスを考えていかないと海外の様な動物先進国の将来は日本には訪れる事は無く思えます。」



菊池「当然、僕が言うことなんか、とっくにセンター、行政も考えているんです。でも、実行できるかどうか。やはり行政も「人」じゃないですか。その「人」によって温度差があって。でも、現場でセンターの職員さんを助けながら一緒にやっていく。誰かがやらなければいけない仕事じゃないですか。警察もそうだし、センターもそうだし。神奈川県も数字上は、綺麗な状態になっているけど、これから、新しいセンターができたときにどうなっていくか、と。《殺処分をしない「保健所、センター」を神奈川県がつくってしまったら、今後どうしていくか》という明確な道しるべがないんです。センターを新しくしたのはいいけど、今後どうやってこの「殺処分ゼロ」状態をキープしていくかということ。」



菊池「僕は、単に犬の数を減らす、不幸な犬が減るなら民間の間で、任意なりで避妊去勢を進めるのはいいと思うんですけど。本来、人々が適正に管理し動物たちと共存できる様になれば、元々与えられた身体に対し人の手で外科的な手を加える必要が無く、動物先進国では避妊去勢が禁止されている国もある位です。

これは僕も共感できるし、まったくその通りだと思うのですが、意識の高い人々だけがその様な気持ちをもっていても、いまの日本の状況を考えると、末端は付いて行く事すら出来ない状況にあるんですよね。

例えば、ある保護団体さんのように、保護された犬たちを、動物先進国の考えを取り入れ「避妊去勢をしないで譲渡」(但し、譲渡後、避妊去勢をするしないは飼い主の判断に委ねる。)ということをすると、特に意識の低い地域、昔の飼い方(外飼い)や殺処分数の多い県内だけで行うのは危険とリスクが大きいと思いますが、「避妊去勢をしないまま譲渡」しても、飼い主さん自身、適正管理ができるような、意識の高い他県の人に対しては動物先進国のルールに則る、譲渡・啓発を行うのはとても効果的だと思います。

そしてこの団体さんは本当の意味での動物先進国への将来を見据えたバランスを考えこの方針で取り組みを行っていて、ただずさんに考えも無く避妊去勢をせずに義務化にしているのではなく、殺処分問題と避妊去勢を同じ事ととらえてしまいがちな視野の私もこのバランスを見習うべき事と将来を見据えて考えています。できる所や、必要にかられている場所、時によって避妊去勢での数の適正化を実施し、バランスを考え将来の動物先進国を目指すのが今後のやり方です。」

菊池「民間レベルでの去勢避妊の啓発はすごく良いと思うのですが、ただね、行政レベルでの避妊去勢の規制をしてしまうと、ずっとずっと先、未来のことを考えると雑種がいなくなって、欠陥だらけの犬ばかりが残るということになって、それってちょっと怖いなと思って。本来「いい犬」って雑種の方が多くないですか?病気ばっかりして、疾患を抱えて産まれて来たり、性格的にも問題のあるのは純血種の方が多いように思うんです。



それが血統的に、繁殖業者の中で淘汰されるならまだしも、第1種で扱う犬の去勢避妊のコントロール、蛇口を締めることをしないで、第一種以外の一般の人に、避妊去勢の徹底を行政が法によって行う事により「昔からいた良い質の犬」の数が減ってしまうのに危険を感じるんです。

僕がやっとこの活動を止められて、やっと自分の好きな犬と暮らそうってなったときに「自分の好きな犬」がいないのは悲しいなと思いますし、恐ろしい結果につながる可能性もあると思います。」



菊池「今後、神奈川県は殺処分ゼロ達成後の姿勢を全国に示していかなければならないので、とにかく、第1種動物取扱業の方をどうにかしていかない限り、ちゃんとしたゼロというのは訪れることはないんじゃないかなって思う。どうやって地球にとって、守っていくか、世に残していくか、僕の様に目先の保健所の犬だけを見ているんじゃなく、「本当の人と犬との幸せな世界」を考えると、避妊去勢だけ、そこだけを強く訴えていくことでもないと思うし、そんなに単純な問題では無く、じゃあどうするかということなんです。



これからもKDPでは避妊去勢の手術を積極的に行って行く取り組みもやって行きますが、それはあくまでも民間による今現在の殺処分数に比例した、来年以降の収容頭数、殺処分数、産まれ来る不幸な犬達の数の適正化であって、本当の意味での愛護先進国を目指すには、徹底した避妊去勢のみでは無く、多方面とのバランスの取り方が最重要となって来るでしょう。それも訴えながら、やっていけたらいいなって思うんです。」

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編集後記:

菊池さんが動物保護活動をしてきた9年間で経験した様々な出来事。それはいまもまだ進行形だが、40年にもわたり稼働していた神奈川県動物保護センターの処分機がストップしたその日から、間違いなく、日本の動物愛護の歴史は一歩先に進んだ。

この功績はボランティアとセンター職員の努力の結晶だ。

しかしそれが、今後、未来の「神奈川県」そして日本全国の保健所の方向性を導き、行政と民間と、日本国民みんなで手を取り合い人にも動物にも優しい「保健所」の実現が本当の意味で叶う日が来るのか。

「本当の人と犬との幸せな世界」とは、避妊去勢の徹底だけではなく、多方面とのバランスの取り方が大事だという。

菊池さんの目は、地元、神奈川県の近い将来、現実と、日本全体の遠い未来をもしっかりと見つめていた。

東京犬猫日和

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Writer &Photo:Emi Sekiguchi