まだ感染状況が落ち着かぬ、今月のはじめ。

やむない事情があり、父母と一泊で伊豆へ出かけた。

昨春から、
「どっか旅行に行きたい」
と言い続けた父を連れ出すにはよい口実だとも思った。

隣家に住むとはいえ、日常は生活時間がまったく異なり、年寄りのクセに朝寝坊の両親はわたしが出勤する時間に起きていることはほとんどない。
よって、平日顔を合わせることも、休日長くいっしょに過ごすこともない。
土日の数時間がいいところだ。

久しぶりに24時間以上をともにして、この1年ほどで、父がずいぶん衰えたことを実感した。

日常は、小学1年生くらい、と思って接するのがよいのだな、とわかった。

トイレの声かけは大体1時間半くらい。
トイレの前までいっしょにいけば、ひとりで用は足せるが、もといた場所に戻ることはできない。

移動するときには、基本的に後ろから見えるようにして歩く。
やむなく、前を行く時は、こまめに振り返って確認する。

時間に余裕を持って行動し、急かさない。
少しくらいの失敗があっても、大きな声を出したりしない。
「大丈夫だから」
と声かけをする。

などなど、だ。
心も保守的になっているようで、慣れない場所では不安になってしまうらしい。
宿では、
「ここはどこだっけ」
と何度か聞いてくる。
母は、とてもショックみたいだけれど、わたしはなぜか、まったくショックは受けていない。

15歳のある夜まで、相当なファザコンだったわたし。
幼いころ、父が連れて歩いてくれたことを今度はわたしがするだけ。
なんだか、とても自然なことに思えてしまうのだ。

87歳。
このままでいいよ。