夜明け前、大阪で。
3日間の出張の初日、約3年ぶりに元上司のダンディ氏に会った。
30代の精悍なころに出会った彼ももう60歳を過ぎた。
会社員のときはオールバックで決めていたおでこのあたりは少しさみしくなり、元々小さく話す人だったけれど、声はさらに細く、「ああ、歳をとったな」と思いがけず感じてしまった。
彼は定年退職を目の前に、突然会社を去った。子会社時代は社長候補の筆頭だったのに。私は入社した25年前から、彼とは敵対していた同世代の社員の「チルドレン」だったから、上司になったときは冷遇されるだろうと覚悟を決めていた。
しかし、予想に反して仕事面では私を認めてくれて、距離をとりつつもそれ以外の面でも受け入れる姿勢をみせてくれた。
なのに、私はがっちりと壁を作って近づこうとはしなかったのだ。なぜか。

彼の本音みたいなものを少しずつ感じるようになったのは、退職後。なぜだか1ヶ月に一度定期的に連絡がくるようになり、細くつながり続けてきた。
それでも、私の方から連絡することはなかった。いちども。

たぶん、よりかかってしまうのがこわかったのだと思う。ひとりで立っていられなくなりそうで。
でも、このまま死んだら、悔やむのでは?となんだか思い出して、思い切って「再会しましょう」と提案した。

2人で神戸の街を歩き、色んな話をして、酒を飲めないダンディ氏は私のビールにつきあって「そばめし」をおごってくれた。
会ってよかったな。
少し老けていたのはまあさみしかったけれど、それはきっとお互い様だ。
あのとき伝えられらなかったありがとうを伝えることができて。
それから、私はちゃんとひとりで歩いていけるのだ、とわかって。

明日命がある保証はどこにもないのだもの、会いたい人には今日会おうよ。
ダンディ氏と見た夕暮れの神戸の街。