冬の間じゅう、毎朝つけていたチェックのマフラーとニットの帽子をはずして歩く。
首すじと耳に冷たい風を感じると、すっと背なかを伸ばしたくなる季節になった。
まだまだ寒い。けれど、もう首はすくめない。

今度の日曜日は一姫の20歳の誕生日。
少し早いけれど、誕生日のカードと図書券、ブックカバーを送った。
たくさんお金を持っているわけでもないし、お金以外で手に入れられるものを探してほしいと思って。

定時に会社を出ると薄明るい。
1ヶ月違いの姉弟の誕生日。
二太郎の誕生日には退社時なんとなく明るさを感じ、一姫の誕生日を過ぎると保育園についても夕日の名残が感じられるようになる。
春だな、と毎年思ったものだ。

あれから何年経ったのだろう。

子どもたちは、自分でなんでもできるようになり、お金に困った時だけ声をかけてくる。
夫は家を出て、ひとり気ままに暮らしているのだろう。
私は誰から見ても、どこから眺めても、中年のおばさんになり、相変わらずあたふたと毎日をこなしている。

秋に胃瘻を施した義父は、日に日に色んなことがわからなくなってくる。しかしながら体は動く。
気ばかり強い義母はおそろしい勢いで物忘れがひどくなり、義父を怒鳴り、不機嫌な時間が増えてゆく。
84歳と85歳になる実父と実母はほとんど人の話が聞こえないけれど、聞こえないことをものともせずに自分らのペースで静かに暮らす。今のところ、だれの手助けも必要としていない。

さて、私はいったいどんな老人になるのだろう。どんな老後を送るのだろう。
みんなそれぞれに「こんなふうに」と思い描いてきた老い方があったのだろう。
その通りに過ごせている人の方がたぶん少ないのだろうな。
「こんなはずではなかった」
そう感じている人も多いだろう。
私はそのとき、どんな風に思うのだろう。
どんな風に感じるのだろう。
そして、いまできることってなんなのだろう。
いい歳をして、まったく本当にまったくわからないのだ。