大物主に祟られた男 崇神天皇の国家再建
1 崇神天皇と大物主の人口戦略
第十代崇神天皇といえば出雲系の神である大物主(三輪の神、大国主、スサノオやニギハヤヒとも言われている。)の祟りを恐れた弱いイメージのある天皇です。しかし、もしかすると彼は国の危機を救い、国の再建を果たしたスーパースターだったのかもしれません。
崇神天皇の御代、飢饉や疫病の蔓延で人口が激減し、国は存亡の危機に直面していました。そんなとき、かつて大国主命の前に海から現れ「我を倭の青垣の東の山の上に祀るなら、国は栄えるであろう」と告げた神、大物主が崇神天皇の夢に現れ、「我を祀るなら国の平安を約束する」と告げたのです。天皇がその言葉どおりに大物主の祭祀を行うことで国は平安を取り戻します。
そもそも大物主は三嶋溝杭の娘である勢夜陀多良比売(その娘は富登陀多良五鈴姫で神武天皇の后)の前に「丹塗りの矢」となって現れ、結婚し、子孫を残したとされる神です。二人の間に生まれた子は別雷神で上賀茂神社の祭神となり、各地の神社で祀られています。以後、賀茂氏、天皇家が栄えていくこととなります。私は大物主が大国主命の前に現れた農耕の営みの基準を示す神であるとともに、男女の結びつき、結婚と子孫繁栄の神でもあったと考えています。
ここからは私の考察です。崇神天皇は各地で大物主を祀らせ、祭を行わせました。各地の長老たちが経験と知恵を出し、若者、男女が技術と力を合わせて祭を行ったのです。一人一人が得意分野で活躍することでいきいきと輝きます。男は女の、女は男の魅力に惹かれ、やがて結婚という形で実を結んでいきます。これはまさに勢夜陀多良比売と大物主の出会いの再現です。こうして結ばれた男女が子を産み、子孫を残すことで飢饉や疫病で衰えた国が徐々に活力を取り戻していったのです。
2 大物主に祟られた現代の結婚事情(結婚のミスマッチ)
現在、我が国は農業の衰え、感染症や出生率の低下などで国力を失いつつあります。地方創生事業や子育て支援などを対症療法的に講じていますが、なかなか歯止めが効きません。それもそのはずです。根本の問題は男女が結婚しなくなっているところにあるからです。結婚は古事記の神代の時代から続く国を支える根幹的制度です。男女が結婚することで経済的に強い方が弱い方を支え、子供を産み、親子や一族が協力し合って生活していくための最初の一歩というわけです。
国は様々な福祉施策を行なっていますが、言わば結婚制度こそが国を支える一番の福祉制度とも言えるのです。若者たちが結婚から遠ざかっている現在の国の状況は、まさに大物主に祟られている状態にあるようです。
結婚制度を維持していくためにも地方では、自分たちのまちのためにみんなが力を合わせて地域の活性化に取り組んでいく。政治も産業もイベントも趣味も、祭のように全員参加でそれぞれの能力や知恵を精一杯発揮して個々人が活躍してまちを盛り上げていき、楽しく魅力のあるまちづくりを進めていく必要があります。
他方、国は男女が結婚しやすくなる施策を講じる必要があります。現代では崇神天皇の時代のようには行きません。婚姻率の低下の要因は、現代人の多様化した生活や意識にあるように言われることがありますが、それだけではありません。結婚制度は神代から続いてきたもので、そこには男女それぞれが持つ価値観に違いがあり、それは普遍的なものだからです。現代ではその価値観を満たすことが難しくなってきているのです。
男女間で普遍的な価値観の相違があり、一番の結婚の障害となっているのが男女の収入の問題だと思われます。男女それぞれが相手に求める収入が違っているのに社会全体でそれを満たす男女の収入状況になっていないのです。このため男女間でミスマッチが生じて結婚しない、できない、婚期を逃すという状況が多く発生していると思われます。
女性は上方婚、男性は下方婚の傾向にあると言われます。女性の場合、高収入になると自立して充実した生活ができ、特に出産を望まなければ結婚に魅力を感じないでしょうし、求める相手も、より高額所得者となるのでなかなか相手に恵まれません。また、収入がない、または低い女性は安定した生活のため自分よりさらに高い所得で一定以上の所得を相手に求めます。
一方、高所得の収入層の男性は自分より収入が少なくても、家事手伝い(既に死語?)であっても結婚相手として選びます。これで結婚相手としてマッチするのは中所得以下の女性と高所得の男性です。ここで問題となるのは高所得の男性はごく少数で中所得以下の女性は圧倒的に多数ということです。高所得の男性は、ほとんど結婚にこぎつけ、大多数の中所得以下の女性は婚期を逃します。中低所得の男性は結婚できず、全体として成婚率は低くなります。結果として少子化に拍車がかかるというわけです。婚姻率を高めるためには、結婚におけるこの男女間のミスマッチの状態を打ち破る施策をとる必要があります。
3 婚姻率を高める「丹塗りの矢政策」
こんな状況の時代で崇神天皇ならどんな手を使うでしょうか。私は「丹塗りの矢」を用いると思います。勢夜陀多良比売の心を射抜いたあの丹塗りの矢です。
婚姻率を高め、出生率を上げ、夫婦や親子間の扶養義務を果たし、互いに助け合って生活することで国、地方の福祉にかかる経費は大きく削減されると思われます。この婚姻率上昇による福祉的効果による国等の福祉費削減の試算を行ったうえで、これを将来的な財源として使います。
具体的には結婚した男女のいずれか所得の高い方(経済的に家計を支える率の高い方)一方に、その人の所得に応じて割合を定めて結婚手当を支給するのです。例えば所得が200万円までならその所得の4割、500万円までなら3割、それ以上なら1割という感じです。これによって低中所得の女性からみて同程度以上の所得の男性の魅力がアップします。さらに高所得の女性も自らの所得が増えるので自分より低い所得の男性に対しても結婚に対して前向きとなるでしょう。また、出産、子育て支援への公的負担の軽減や、婚姻率上昇により生活保護費の削減、高齢者の孤立問題にも効果が期待できます。
要するに結婚のミスマッチを起こしている結婚後の所得状況に結婚手当という「丹塗りの矢」を打ち込むのです。
4 先人たちに学ぶ国の在り方
男女の結びつき、結婚は、人口の維持や福祉を増進させて国を安定させる国家の基となるものです。このことを今あらためて再認識する必要があります。
古事記などの神話や御伽草子は、このことを後世に伝えています。ときには過去を振り返り、古の先人たちの声に耳を傾けることが必要だと感じるのです。