2018年は忘れられない年だ
大病で手術をした事も理由の一つだ
記憶の限り書いていきたいと思う
ここで書くアプリとは
通話、配信、カラオケが出来る複合型のアプリである
当初通話に人気があり出会い系と判断する人が多い




1. 2018年2月11日


光一はほろ酔いでアプリのカラオケで知り合い達と歌った後
通話を起動した.深夜0時頃だった
全く知らない人と匿名で通話が可能だ
名前やプロフィールも好きに書けるし書かなくてもいい
年齢や性別を偽る事も可能だ。光一は60以上の男性に設定していた
画面には自分を含む8人の名前が表示されタップする事でプロフを見たり
電話を掛ける事が出来る


「こーんばーんわぁー」

通話に出たのはアラサーの女性だった。明るい張りのある声
飲んでいるのだろうか

「こんばんは!僕はとても気分がいいし話したいことがあればなんでも聞くよ!」
「年いくつ?」
「もうそろそろ40だよ」

光一はためらいも無く嘘を付いた。実際の年齢は53才だった
事実を話せば即座に電話を切られる。普通は同年代と話したいと思う
おじさんの昔話や説教を深夜に聞きたがる女性はいない
年齢の割に声が高めで話し方も若く聞こえるので、それで通していた
ネットでは自分を偽る事が楽だし可能だ

「そう。それでプロフィール欄に書いてある飛仙って何?」
「ネットで神って使う時あるでしょ。今はそこまでの力が無いから仙
 一つの所に長くいないから飛仙」
飛仙というのは漫画12国期に出て来る役職名を採ったものである
本来の飛仙と使い方は違うが話題になることも無いのでそのままにしていた

「ふぅん。彼女はいる?」
「いるよ。遠距離恋愛でたまにしか会えないけど。そっちは?」
「いない。じゃあカエサルの物はカエサルに、って書いてあるのは?」
「あぁ本来の持ち主の所に返しなさい。って意味だよ
 このアプリもそうだけどネットでの出会いは増えてるでしょ
 自身を見失い女性に道を外させたまま逃げる奴もいる
 僕は大人として分別を持ってるし元の場所に戻したいね」
「ネットからの恋愛も浮気もありで大人の価値観で最終的に元の所に戻せる
 そういいたい訳?」
「そうありたい。今晩はそんな気もないしもっと楽しい話をしたいね」
「それ全然間違ってるから!!」

彼女は怒って声を大きくした後、通話を切った

光一は思っていた。3連休の中日の夜だから楽しく話したい
数日前のカラオケでのお誕生会、奇跡の様な事がネットで起きた
出来ればお互いそんな話をして楽しく話せればいいのに
酔ってネットの男をからかいに来た。目的は優位に電話を切る事
出来れば通話相手を凹ませて。そんな女性も沢山いる
初対面の女性、酔っていたし仕方ない
なにが間違っていたのか分からない。ネットの恋愛が間違っているのか?
2度と話すことも無いだろう
よくある話と自身を納得させた

彼女は思っていた
コイツは酔ってるとはいえ、どれだけデカイ事をいうのか?
神?仙?何様のつもりだ。しかも彼女がいて女性目当てじゃないと言う
なんでも話せ?それなら私が奴の間違いを分からせてあげよう

光一は自分宛てにメッセージが来ているのを見た
男性の場合よほどモテる、あるいは人気のある人じゃ無ければ突然メッセは来ない
メッセージの差出人は先程の彼女だった

「カエサルの物はカエサルに 神の物は神の元へ
 これはマタイによる福音書22章15節から書かれています
 パリサイ人がイエスを貶める為言った事に対して硬貨を見せイエスが言った事
 そこには元の場所に戻せという事は一言も書かれていません(笑)
 よい夜を」


光一は驚いた。通話を切ってから2,3分しか経っていない
PCで検索したとしてもかなり早いスピードだ。深夜に酔った人のできる事じゃない
そして(笑)と良い夜を、の文字。負けず嫌いな性格でマウントを取りに来た文章だった
楽しく過ごしたいのに。返信はするが喧嘩を買う様なメッセージは書かなかった

「あの短時間で良く調べたね。偉かったね
 それだけの才媛なら男達の鼻を持って振り回せるだろう
 でもカエサルの話は転じて元の所に戻すって意味もある。辞書に載ってる
 勝ち負けの話なら、ここからは全部君の勝ちでいい
 良い夜を」

それから一服した後、光一は新たな通話相手を探し始めていた
喧嘩をしに来たわけじゃない。気持ちよく会話をして寝たいだけだった
積極的に通話相手を探していたわけでも無かった
ぼーっとスマホを見ていると見たアイコン、薄いピンクにhinaの文字。上下にトランプの様に:)のマーク
さっきの女性だ
全く電話を掛けずにいたが、やはり彼女から着信があった
もちろん取らずにスルーしてもいい。そちらの方が穏やかな夜を過ごせるだろう
当時は色々な種類の相談に乗っており短時間で結論を出せるという変な自信もあり
光一は電話を取った

「調べてなんかないわよ!」彼女の怒りはピークに達していた
「え?」
「私はね中学の頃聖書を真面目に勉強したの!だからカエサルの使い方が間違ってる。そう言いたいの!」
「凄いね!ネットで検索したんじゃないんだ。」
「調べて書いたらもっと時間掛かるでしょ!」
「早いとは思ったけど2度驚いた。でも辞書に載ってるよ」
「あなたはどこでカエサルの話を知ったの?」
「漫画」
「ま ん が!」彼女はバカにして笑っていた
「俺も変わった話だな~って前にWebで調べたよ。銀貨だっけ?逸話も見た
 まんが聖書物語にも出て無い話だったから」
「漫画漫画っておじさんのくせに」マウントを取った様に笑っていた

そのあと彼女は22章15節からの話を数分語り始めた
酔っていないかのような滑らかな語りだった。それは検索では無理な事だった

「凄いね。学校がミッション系だったんだね」
「まぁね」彼女は自分の知識を披露して満足そうだ
「でもイイんだよ。分別を持った大人って事を相手に分ってもらえれば」
「だから、それが間違ってるって言ってんだろ!」
光一はこの不毛な話を終わらせたかった。もう一度聖書の話を数分聞くのは説教を聞く様なものだ
「まず、さっき書いたように物事の勝ち負け、それは今後全部君の勝ちでイイ
 けれどね、何事にも表と裏がある
 カエサルの逸話、これが君の言った事で表。そこから転じて元の場所へ戻す、これが裏
 どちらかが正しいじゃなくて、どっちもあってる」
「でも」
「おじさんが嫌なら何回も連絡してこなければイイ。若い男と恋愛楽しんだらいいだろ
 俺はもっと素敵な話をいくつか持ってたし、したかった」
「あなたの言いたい事はわかる。私も楽しくしたかった。でも使い方間違ってる」
「しつこい」


光一は初めて女性に対し電話を切った。文句を言って
どちらかというと優しい性格でメッセージや電話があればお返しをするタイプだ

こんなに後味の悪い通話は体験した事が無かった。自分が通話を切られるられるのはいい
酔った女性相手にやりすぎた
些細な事がきっかけになり話が大きくなり最後はごめんねで済まなくなり謝罪する
良くある話だ。光一はメッセージを送ろうかと考えた
しかしこの後もメッセや電話が来るのはごめんだ。最後は明らかに構って欲しい感じだった
酒が回って寝る事もあるだろう。自分でも冷たいとは思うが放っておくことにした


彼女のプロフィールを見るとフレンド4人、アカウント作成後200日経過だった
フレンド4人は男性のようだった
アカウント作成100日の光一はカラオケを中心に遊んでおりフレンドが数十名だった
これが二人の初めての通話だった