理佐side



私と由依が出会ったのは今から5年前の5月くらいだった。





私は教育実習生として櫻坂高校の3年1組に2週間お世話になることになった。
教育実習生は3年生に入ることはあまりないのだが、今回は特別に3年生に入ることになった。


軽く自己紹介をすると教育実習生や転校生によくある質問攻めをくらう。


でもそんな中、一人でずっと本を読んでいる女の子がいた。


「理佐ちゃん!どこ見てるの?」


理「ごめんごめん。ていうか理佐先生でしょ!」


「えー、まだ先生じゃないじゃん。」


理「でも理佐先生って呼んで。怒るよー」


「こわーい笑」


まったく、学生時代にも理佐ちゃんなんてそんな呼ばれたことないし。だいたい理佐だったからな。





本を読んでいた子が気になって休み時間に名前を確認すると小林由依という名前だった。


私は話しかけようと思ったが、由依ちゃんと呼ぶべきか、小林さんと呼ぶべきか。


理「小林さん、何読んでるの?」


由「小説です。」


理「いや、それはわかるけどさ……題名とか…どんな感じのを読んでるとか…」


由「………」


え?無視?
それとも聞こえてなかった?


「理佐ちゃーん!」


なんか呼ばれてるな。もっと小林さんと話したいのに。


由「私なんかと話してないで他の子と話した方がいいんじゃないですか?」


理「そんなことないよ。でもなんか呼ばれてるから今は行ってくるけど、また話しかけにくるね。」


ああいうタイプの子ね。私と真逆すぎる…
でもああいう子クラスに一人はいるよね。



由依side



高校の時の卒業アルバムを見て高校3年生の5月くらいの出来事を思い出した。





突然私の前に現れた渡邉理佐という存在。
正直あのタイプの人は苦手だ。
仲良くなりたいとは思うけど、結局突き放してしまう。
特に渡邉先生のような人は人気すぎて話せない。


理「小林さん、また本読んでるの?」


理「今度私にも読ませてよ。」


理「今日は外行かない?体動かすのも楽しいよ!」


理「絵上手いね!今度教えてー」


苦手だと思っている私のことなんて知らずに渡邉先生は毎日ずっと話しかけてくる。


でも最近は苦手ではなくて気になる。
私の中で渡邉先生はそんな存在になっていた。


理「小林さん、そろそろ返事してよ。さすがに先生も寂しいよ?」


由「渡邉先生はなんでそんなに話しかけてくれるんですか?」


理「小林さんと仲良くなりたいからだよ。もっとたくさん小林さんのこと知りたい。」


由「小林ってやめてください。小林嫌いなんです。」


理「じゃあ由依ちゃんって呼ぶから理佐先生って呼んでよ。ね?由依ちゃん。」


名前を呼ばれただけ。ただそれだけなのに呼ばれるとキュンと胸が締め付けられるのはなんでだろう。


由「次移動なので…」


理「由依ちゃん?」


もしかして私…理佐先生のこと……好きなのかな。
いや、そんなわけない。


おかしい。絶対おかしい。私があんな人を好きになるわけない。


しかも相手は同性。そして…まだ教師じゃないけど一応教師。
恋をしていたとしても、恋をしてはいけない存在だ。


だから私はしばらく距離を置くことにした。


理「由依ちゃん!」


理佐先生に呼び止められても無視をする。
無視をするのは苦しかった。でも話すことの方が苦しかった。


教室に戻って席に着くと机の中に「放課後居残りね。先生を無視した罰です。」と書いてある紙が入っていた。


居残りは嫌だ。先生といるのも嫌だ。
でもなぜか先生と2人きりという状況になることに少し期待してしまっていた。



理佐side



気づいてしまった。私は由依ちゃんのことが好きだって。


教師と生徒の恋。それは許されない。
でもそんな関係も性別も忘れちゃうくらい由依ちゃんのことが好きなんだ。


最近由依ちゃんに避けられているし振られることも余計嫌われることもわかる。だけど、ここで告白しないと後悔する。そんな気がした。


この学校にお世話になるのも今日が最後。
つまり由依ちゃんと会えるのも今日が最後。


そして由依ちゃんを呼び出した放課後になった。
正直もう帰っただろうなと諦めていた。


由「遅いです…先生が呼び出すから待ってたのに…」


理「ごめん。」


由「なんですか?無視した罰で居残りって何がしたいんですか。」


理「相変わらず冷たいなぁ…そろそろ素直になってくれてもいいんじゃない?私今日で最後だったわけだし。もう会えないんだよ?」


由「理佐先生だって…いつもみんなにああいう対応して…私の思いになんて気づいてないくせに…」


理「え?」


由「好きじゃないならそういう対応しないでください。優しくしないでください。教師だから優しくっていうのはわかります。でもあんなに優しくされたら勘違いしちゃうじゃないですか。」


由依ちゃんがこんなに喋っているところを初めて見た気がした。


理「どういうこと?」


由「だから……私は…理佐先生のことがずっとずっと好きでした。諦めないといけないってわかってても諦められない…」


え?まさか由依ちゃんから告白されるなんて…


由「早く返事してください。恥ずかしいです。振ってくれたらすぐ帰るので…」


理「私も好き。初めて見た時からずっと気になってて…私こそ諦めないとって思ってた。」


由「え?そうなんですか?」


綺麗な涙を流した由依ちゃんを見て優しく抱きしめた。


由「理佐先生だめですよ…こんなことしてるってバレたら…」


理「バレたら何?もう付き合ってるんだからいいじゃん。それがだめなら教師なんて目指さない。」


由「え?何言ってるんですか。」


理「私は由依のことが好き。由依とずっと一緒にいたい。だからそれができないなら教師なんていう仕事やらない。」


由「由依って……いきなり…呼び捨て…」


泣いたり顔赤くしたり忙しい子だな笑
顔を真っ赤にする由依が可愛くてずっと抱きしめていたかった。絶対私が守りたいと思った。


理「今日は帰ろうか。もう結構暗いし送っていくよ。」


車に乗ってしばらくすると由依は寝てしまった。
まったく…由依が寝ちゃったら家わからないから帰れないじゃん…


理「明日土曜日か…学校休みだし……いいよね…」


とりあえず私は由依を自分の家まで連れて帰ることにした。


その後、由依が目を覚まして私の家にいるとわかった瞬間また顔を赤くしていた。





そして今あれから5年が経って私は26歳、由依は22歳になった。


今の由依の年齢はあの頃の私と同じくらいだ。
私は今も教師を続けている。由依もあれから教師を目指して今は教師だ。


お互い未だに話すことがある。
放課後の教室を見ると思い出すよねって。


今でも私たちにとってあの放課後の教室は大切な場所だ。