婆様はこの時点でも、何故、パパがこんな状態なのか
全然知らされていない。
パパが自分の病気を知ったとき、「お袋だけには知らせない」
と決めたから。
何故なら、自分の父親である爺様も、同じ年齢に同じ病気で
亡くなっているから。

彼が有無を言わさず、去年の夏に婆様がいる高知に
家を買ってでも帰って来たこと、娘達から遠く離れても
頑張ろうって思ったのも、全て「俺が出来る最後の親孝行」
っていつも言っていた。
...実はママにはちゃんと言っておらず、自分の独断で
住み慣れた横浜を離れたから、ママには別の意味で
苦労させているんだけど。


だから、婆様はパパが「口内炎で入院する」って聞いて
それを信じ、でも、何故、私が急に帰って来たかを聞いてきた。
私は「だってあのパパが入院するなんて、ビックリしたから」
としか答えられなかった。
でも、「どのみち、4日には妹と交代で高知入りする予定
だったし、ちょっと早く帰っただけだよ」って追加したら
納得してくれた。


10時過ぎ、次の日に仕事がある父姉様と、ママを病院に
連れて行ってもらうため仕事を休んでもらった、父弟君が
帰ることに。
普段なら婆様も一緒に帰るんだけど、今日だけは父姉様が
「泊まらせる」って言ったので彼女だけ泊まっていくことに。

姉様達を見送って、婆様が母と雑談している間、自分は妹と
どうするか相談する。
とりあえず、夜中はネットで作業をするし、先週1週間、パパ達と
一緒に過ごしていた妹が一番対処が分かる、との事なので、
自分は婆様と一緒に寝ることにする。

婆様はパパの様子を見たがっていたけど、あまりうるさいと
パパに負担をかけるので、「よく眠っているから」と言う理由で
一緒に寝に2階へ上がる。


その晩は、やっぱりパパの事が心配で眠ることが出来ず、
本当は1階に下りたかったんだけど、婆様が起きるから
我慢する。
その間、パパが妹の支えでトイレに行ったりして頑張っているのが
聞こえ、何も出来ない自分がとても悔しかった。

でも3時頃、婆様が完璧に寝たな、って思って起き上がると
「私もトイレに行きたいから。一人じゃ怖いのよね」って言いつつ
婆様も起きる。
仕方が無いので、婆様と一緒に1階へ。

大丈夫かな、って思っていたら何と、パパはコロナの大きい
ストーブに寄りかかって、妹と英語でMarlow(住んでいた場所
から近い、パパのお気に入りだった小さな街。)の話とかを
していた。

婆様は先にトイレに行き、妹とパパに「まだ起きてるんだ」って
言って、3人で少し話す。
...口調もしっかりとしており、顔は疲れていたけど、少し
スッキリしていたから少し安心する。
少し話していたら、婆様が帰ってきて、
「なんで、トイレのスリッパとか床が塗れているの?」って聞いて
妹が「それは、さっき、水をこぼしたから」って答える。
本来なら、「何で?」って問われるところだけど、まだ半分
眠っている婆様はその答えでストンと落ち着く。


「婆様、寒いからもう寝ようよ」って自分が婆様の気を逸らそうと
言ったら、婆様が父をまじまじと見つめ、そして彼の剥き出しの
足に気が付く。
「なんで、こんなに両足が腫れているの?」
...当然の疑問。

でもそこは妹と私が
「ああ、口内炎の治療で使った薬が強いのと、
ずっと寝ているから足が浮腫んでいるんだよ」
ってフォローし、
「ふ~ん、そうなの。じゃ、オヤスミ」って言ってくれた。
そして彼女はには先に2階に上がってもらうことに。
階段を上がる前、婆様に「あんたは?」って聞かれたので
「トイレに行ってから寝るから大丈夫、直ぐ行くよ」って
言って安心させる。


婆様が2階に上がったことを確認してから、パパ達と
また話を続ける。
でも、妹が「大丈夫だよ」って言ったのと、パパが笑って
くれたので、自分も上に上がる。

...結局、パパが再度床に入ったのは4時過ぎで、妹も
ソファで寝たのがその後。


そして、これが、パパが生きてこの家でとった、最後の
眠りとなった。