「あー、失敗した」
いらいらしているからか、電車の揺れもいつもより大きい気がする。
口紅がはみ出る。止めろや、この電車。
頭にきて、電車の床を踏みつけた。床に座り込んでいるからか
うまく踏めなかった。
それでも、その音に驚いたのか、中年の女がジロジロこっちを見てくる。
「みんじゃねえ、くそばばあ」
むっとした顔をした中年女をにらみつけてやった。
それでも、すっきりしない。しないんだよ、まったく。
「ちょーうぜー。田中のやろう」
口紅をぬるのはあきらめた。
このままじゃ、くちさけ女になりそう。
化粧ポーチをしまいながら、あいつの顔を思い出していた。
今日、返ってきた数学のテストは赤点だった。
田中の奴、ニヤニヤしながら、「おまえ、もうだめじゃないの」っていいやがった。
「そうそう、なんかあのギトギトっていうの?近寄られたら鳥肌」
「えみ、やばいんじゃないの?寝ちゃえば?」
「うるさい。絶対きもい。そんななら死んだほうがまし」
優も愛も人事だと思って。あのデブ、本当に許せない。
ちょっと動いただけですごい脇汗かいて、顔だってだらだら。
まったく、デブの象徴っていうの?
あいつをギャフンと言わせてやりたい。
知ってんだから。
いつもちらちら、足とか見てるの。
「決めた。あいつ、セクハラで首にしてやる」
「えみ、本気?」優がおどけて言うのを見て、むっとした。
「まあ、見てて」
「ああ、えみちゃん怒ってるし。田中、やばいんじゃないの?」
愛も本気にしてない。留年してまで高校になんかいってられない。
こうなりゃ、田中も道連れにしてやる。