小さな公園だが、小さい頃からお気に入りの場所だった。

おやじが怒鳴りちらし、あの女は泣き叫ぶ。

その後は・・・

二人から、それぞれ殴られた。

おれは、やつらのサンドバック。

怒りの発散道具だった。

特に、あの女。

ヒステリックに怒鳴り散らし、味噌汁をこぼしただけで何発も殴られた。

鼻血を出していてもお構いなし。

殴りはじめるともう、自分を止められない。

鬼の形相。

そうかと思えば、急に優しい声で近寄ってくる。

「かいくんはママの宝物」

抱きしめて、キス。

まるで、さっき殴ったことを詫びるように。

でも、絶対に「叩いてごめんね。」とは言わない。

そんな女だ。

罪悪感なのか。

今なら、そうも考えられる。

でも、子どもに理解しろといっても無理なことだ。

夢を見て大きくなる時期だ。

現実のましてや大人のゴタゴタなど。

おれは、いつも顔色をうかがって、びくびくして、そして嵐がきたらひたすら耐える。

それでも5歳の頃にはもう、悟っていた気がする。

そして、やつらの喧嘩がはじまったら、そっと玄関から出て行く。

殴られる時間が、少し後になるだけのこと。

そうわかっていても、安心できる場所を探して旅に出る。

小さな、小さな旅だけれど。

それが、この公園のぞうさんの滑り台の中の空洞。

そこで、ひざを抱えて、ぎゅっとおでこをひざ小僧につけて固まる。

ぼくは、石だ。石ころだ。

叩かれても、蹴られても痛くない。

ぼくは、石だから。

叩かれているのは、ぼくじゃない。

石なんだ。


今は、ベンチがおれの居場所か。

いつからかな。

ベンチに座るようになったのは。

体がでかくなると、「ぞうさん」にも守ってもらえなった。

しかたねえか。

窮屈で、自分から入らなくなったしな。

いらなくなったのか。

家を出てやると決めてからは。

ベンチの上にある外灯に集まる蛾が、顔にぶつかる。

フラフラしてやがる。

お前のような奴は自然界にはいらない。

目的に向かってもいけない無能な奴。

どんな世界にもいるんだな。

ベンチに止まった蛾の羽を右手の親指と人差し指ではさんで、

ジュースの缶に押し込んだ。

羽が折れたが知ったことか。

こいつは、もうここからは出られない。

この、小さな世界でもうじき死ぬのだから。

仲間もいない、この暗闇の中で。

でも、それが無能なやつの運命。

それが世の中のルールなのだから。