運ばれてきた夕食。

これを口に入れるのが、なかなか勇気がいる。

思い切っていくしかない。

目の前にあるのはカレーライスなのに。

なぜ、こんなにドキドキしなくてはいけないのだろう。

それもこれも、この女のちょっとずれた愛情のせいか。

スプーンを口に運ぶ。

体が一瞬、震えた。

「お母さん、今日は何を入れてみたの?いつもと少し違うみたいだね。」

カレーライスの入った皿を投げつけたくなる衝動を抑え、

つとめて穏やかに、優しさをこめた声を出す。

「あら、わかる?」

弾むような声。

弾んで、思考が完全に窓から飛び出していってしまったとしか思えない犯罪的な味だぞ、

これは。味見をしてこれなのか。

「あのね、きなこが体にいいってテレビで言ってたの。だから、入れてみたんだけど・・・。あとね、チョコレートを入れるとおいしいっていうのも聞いたし、ヨーグルトに、ケチャップに・・・」

「ちょっと、まって。」

聞いているのも面倒くさくなり、指を折りながら、話し続けるのをさえぎった。

「え?」

「お母さん、ずいぶんがんばったんだね。時間がかかったんじゃない?」

冷静に、冷静に。

「そうでもないわ。だって、カレーはお湯につけてお皿に入れるだけだもの。それに色々混ぜていくから・・・。そうね、いつもより少しがんばったかもしれない。」

得意そうな笑顔。

皿を投げ飛ばし、叫びだしたい衝動を抑えることができるのは、

この女のこれまでの訓練のおかげか。

まずい、と一言かえそうものなら、一瞬にして場が凍りつく。

泣き叫び、何が飛んでくるかわからない。

俺の誕生ケーキが、天井にプレゼントされたことがあったっけ。

そっちのほうが面倒くさい。

ここは、静かにやり過ごす。