「遅い、なぁ」

 

5月。

寒い日が続いて、ようやく暖かな日が訪れた。

新緑が、久しぶりの太陽に応えるように揺れている。

ここしばらく寒い日が続き、新芽たちも元気がなさそうだった。

春が浅くて、遠くて。待ち遠しかった、こんな風によく晴れた日。


デートの約束の日が、思いっきりはしゃぎたくなるような晴天に恵まれたのに、想い人はまだ来ない。


いつもの待ち合わせ場所。

すこし駅の喧騒から外れた、小さな公園の青いベンチ。

 

そばで毛づくろいした野良猫が、こちらに向かってにゃぁん、と鳴く。

クリーム色の猫だった。光に揺れた、柔らかな毛に手を伸ばす。

 

「お前も誰かを待ってるの?」

 

そうしても逃げないあたり、人に慣れているらしい。

よく見れば、丸々としていて毛艶がいいから、あちこちを渡り歩いているのかもしれない。

あの映画に出て来る猫みたいに、たくさんの名前があるのかも。

この子もきっと世渡り上手なんだろう。

 

ふと、時計を見ると約束の時間から、もう20分を過ぎようとしていた。

いつも遅刻なんてしないのに。何かあったのかなぁ。

携帯にもなにも連絡はなくて、待ち受けの二人で撮った写真が無機質に映し出されるだけだった。

その中で、愛おしい人はこちらへ笑顔を向けている。

「いまどこなの」

ぴっと頬のあたりを指で弾いた。

自分から連絡をするのは気が引けた。焦らせてしまうかもしれないし、連絡がないのは手が離せないのかも。

などと色々言い聞かせる。

 

 もうすぐ来るかも!なんて、切り替え、

手鏡でもう一度髪型と、メイクをチェックして。

彼が来るのを待つ。

 

 

「‥‥すみません!!」

 

はっとその声に顔をあげる。

慌てた沖田さんが息を切らして、こちらへ走って来るのが見えた。

さっきまで居た猫は、なぁーんだ、きたの、と言いたげな表情を浮かべて

立ち去っていく。気を利かせてくれたのかもしれない。

 

 

 

「遅かったですね」

ちょっとだけ、拗ねた声になる。

もっと笑顔でいたいのに。

「連絡してくれてもよかったのに」

こんな責めるような言い方‥‥。


心の中のトゲトゲは、どんどんと、ツクツクになって、優しい言葉は浮かんで来なかった。

 

「すみません。見てたんです。そしたら時間を忘れてしまって」

 

「なにをですか。まさか買い物?ひとりで?待たせておいて?」

あぁ刺々しい言い方。かわいくない。

何見てたのって聞きて。仲直りしたいのに。


 

「あなたをです。さっき猫と話してましたよね? 鏡みたり、その姿がかわいくて」

 

あぁばかだ。

この人、ばかかもしれない。

 

けれど、たったそれだけで、機嫌をなおしてしまう私は、もっとばかだ。

 

「暑かったですよね。ほんとうすみません。私を待ってくれてるんだって思ったら、つい」


ーー見とれてしまいました。



あぁもう。なんなの、なんなの。

恋は盲目だ。けど少しだけ悔しいから。

 

「アイスクリーム」

「え?」

「アイスクリームごちそうしてくれたら、ちゃらにしますっ」

 

彼は笑みを深める。

 

「お安い御用です」

 


 

 

あぁああああああああああああああああ

久しぶりのSS。

朝読んだ、菖蒲の花が咲く頃に、のイベント

沖田さんがよくて。かいちゃったの。

 

おそまつw