このお話は 「5」の前の千葉君目線のお話になります。
「ねぇ・・・恥ずかしって」
開いたドアから出てきた二人。
思ったより早かった。
要した時間は10分とかかってない。
ということは俺達がいて気まずい空気は流れないってこと・・・
振り向いて思考が止った。
なんでセーラー服?
そりゃ、まあ・・・確かにまだ高校生に見える彼女。
じつは成人だと知ってる俺は、どういう態度をとったらいいのか・・・
相葉先輩の対応が気になった。
つーか、この人ぜんぜん動じてない。
代表らが進む道を開くように足を一歩横にずらしてみせた。
「千葉 なにも悩むな」
俺の横に来た相葉先輩は小さくそうつぶやく。
悩むなって・・・
確かに俺がセーラー服を悩んでも答えが出てくるわけない。
彼女が高校生って設定、興味があるのは男なら多少は分る。
でも代表たち高校時代から付きあってたんじゃなかったけ・・・
過去に戻りたい?
いや~
今の方が絶対楽しいでしょ。
「相葉、俺の車をここに持ってこい」
銀色に輝くキーが弧を描いて相葉先輩の手の中に落ちる。
「護衛は千葉一人でも十分だろう。
それまで、そうだな・・・」
代表が何かを探す様にあたりを見渡す。
「そこにするか」
視線の先には全国チェーン展開中のアイスクリーム屋。
中には若い女性の客が見える。
あそこに代表が行ったら・・・
騒ぎにあるぞ。
ダメです。
俺が代表に言えるわけない。
その前に俺が代表の眼中にない気がする。
つくし様を引っ張ってアイスクリーム屋を目指す代表。
メイド喫茶よりはましかと諦めた。
出来たら俺が車を持ってきたかった。
なぜか、損な役回りはいつも俺。
代表等の後ろの席に座りメニューを眺めるふり。
店に入った瞬間から集まる視線。
きゃーとか、わーとか、誰だか分ってる反応。
気にしてないのは代表だけ。
注文して受け取ったアイスをもって帰ってきた二人。
「はい、千葉さん」
「これでいいかな?」
目の前にはオレンジシャーベットの入ったカップ。
にこっと微笑むつくし様は高校生にしか見えない幼さを残す。
俺のこと気にしてくれる優しさが好きです。
って、代表の好きとは違いますから!
俺の前に腰かけようとしたつくし様の身体が浮いた。
「お前、どこに座るつもりだ。
なんで千葉と3人でたべなきゃならない。
アイスがまずくなる」
隣の席に代表と向かって座らせられるつくし様。
目の前にはセーラーの背中が・・・
その向こうから睨み付ける強烈な視線。
あわてて視線をテーブルに下げた。
俺・・・代表に睨まれるのこれで何度目だ?
「あのさ・・・なんで制服着てアイスなの?」
「学生の時、庶民デート体験させるって言ってたろ?」
「だからって、今さら私に制服を強要しないでよね」
全て聞こえてくる会話。
耳栓・・・ないしなぁ・・・
「似合う」
甘ったるく聞こえた声につくし様の声が止った。
まわりの女の子が赤く顔を染める現象を引き起こしてる。
俺達の間を通って席に着いた女子高生は友達の手を取り合って喜んでる。
似合うって言われたのつくし様に向けてだよな?
「俺さ、お前を困らせるの好きなんだよな」
「え?」
「怒った顔も、俺に食って掛かる声も、拗ねる態度も、照れてる表情も・・・
それでも一番側で見ていたいのはお前の笑った顔だから」
それって・・・全部ってことですよね。
目の前のアイスがジュワッといっきに溶け出しそうだ。
こんな照れくさいこと一気に言えるって男として尊敬。
代表、どんな顔してるのか。
勇気をもって首を上げる。
男の俺がドキッとするほどの優しい眼差しがそこにはある。
本気で彼女を愛してるんだと分かる表情。
全身から溢れてる気がする。
俺が赤くなってどうする。
「着たみたいだな」
店の外に横付けされた赤いスポーツカー。
「行くぞ」
代表の声に素直について行く彼女。
その二人に付いて行く俺って・・・
ホント邪魔だよな。
「お前ら、もういらねぇ。付いてくるなよな」
車に乗り込む代表の声。
そして見送る俺達。
警護いらないんだったらアイスクリーム食べる前に開放してほしかったよな。