いない!

まかれた!

逃げられた!


司様と違って何時もはこんな意地悪しないじゃないですか!

つくし様!どこ行った!


通勤者も途切れる時間帯。

それでも人波が途切れることのない大都会。


青い信号が赤に変わる寸前で横断歩道を突き抜けるように目に前からいなくなった。

しまッたと追いかける俺の前を車が途切れることなく通りすぎていく。


車の進む方向の信号が赤に変わったのを確認して横断歩道に飛びだしていた。

右折する車がクラクションを鳴らしてもこの際無視だ。


歩道を渡って右に曲がったところまでは目で追ってる。


ここって・・・いわゆるオタクの街・・・

玩具にキャラクターグッズが並ぶ店先。

つくし様にこんな趣味あったか?

それを知られるのが嫌だ逃げた?



豆電球に縁取れたピンクの看板。

アニメ系のキャラクターのかわいい顔は微笑を浮かべてる。

メイド喫茶・・・


「無理!帰る!」

カランと鈴の音が響いて開く扉。

そこから出てきたのはつくし様。

その腕を中から伸びてきた腕が掴む。



「こんなの聞いてない!」

振りほどく素振りを見せて嫌がるつくし様。


「失礼します」

自分のするべき仕事を思い出した俺はその中に割って入る様に身体を横から入れ込んだ。

えっ?

大河原滋・・・


「相葉さん・・・」

詰まった声は俺を意識して呟く。


状況が呑み込めず焦ってるうちに店の中に俺もつくし様も連れこまれてしまった。


「相葉ちゃん、君も同罪だよ」

俺の目の前30㎝に迫るご令嬢。

相葉ちゃんって・・・年上に言うか!

同罪って・・・

俺はまだ何もやってないですけど・・・


「つくしのこんな恰好を相葉ちゃんが見たって知ったら司暴れるだろうな・・・

丈の短めのワンピース仕様の黒のメイド服。

ひらひらハート方のエプロン付き。


「こんなの着なきゃいけないなんて聞いてないから」

膝上20センチのスカートの裾を引っ張っても伸びるはずがない。


ウッ・・・

確かにヤバイ。


もう二度と瞳に映さない様に視線を天井に向けた。


でも・・・

普通気がつかないですか?

外の看板もどう見ても普通の喫茶店とは違います。

服を着る前に渡された時点で気がつくでしょう!


「つくし、バイト探してたんだよね?」

「居酒屋、司が暴れて止めさせられたんでしょう?」

「別に道明寺は暴れてないから・・・夜は止めろって言われだけだし」

「昼間の時間だけでいいんだよ。ここなら居酒屋のバイトの二倍は出せるから」

なんか・・・

大財閥の令嬢が時給の話をしてるのは新鮮。

って、感心してる場合じゃなかった。



「でも・・・」

「何言ってるんですか、これは趣味と実益を兼ねたバイトですよ」

「この前の仮装パティ―もたのしかったじゃないですか」

横からそう説得にかかったのは三条桜子。

この二人が引きこんだのならつくし様が逃げ切れるすべはないと俺は悟った。



「それじゃ相葉ちゃんを使って練習」

えっ?俺?


「にっこりと笑顔で、ご主人様おかえりなさい。ですよ」

明るくにっこりとスカートの裾を指先がつまんであげて品を作る桜子様。


それをつくし様にされた日には俺は殺される。


「いい、相葉ちゃん、割引チケット1年分上げるから協力するのよ」

一年分どころか1か月分も入りませんって!

司様が知ったら数分後には営業できなくなってると思いますから。


俺一人に胸に秘めとくには事が多きすぎる。

ここは頼りになるはずの俺の相棒千葉と秘密を分かち合おう。

許せ!千葉!