善き人 | リリィのシネマBOOK

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ぐうたら主婦リリィが、気ままに綴る、映画レビュー
劇場観賞は月平均5・6本、洋画贔屓かな


劇場鑑賞しました
 
善き人
 
 
 
 


 
制作国 イギリス/ドイツ (2008年)
 
原題 GOOD
 
監督 ヴィセンテ・アモリン 
 
キャスト
ヴィゴ・モーテンセン (ジョン・ハルダー)
ジェイソン・アイザックス (モーリス)
ジョディ・ウィッテカー (アン)
スティーヴン・マッキントッシュ (フレディ)
マーク・ストロング (ボウラー)
ジェマ・ジョーンズ (ハルダーの妻)
アナスタシア・ヒル (ヘレン)
 
 
 
 
 
 
 
解説
英国の劇作家、C・P・テイラーの舞台劇を映画化
ヴィゴ・モーテンセンが、自身の著書をヒトラーに気に入られたばかりに、ユダヤ人との友情や善き人であろうとする己の信念との狭間で苦悩を深めていく大学教授を好演したヒューマン・ドラマ
監督はデビュー作「Oi ビシクレッタ」で注目を集めたブラジル在住の新鋭ヴィセンテ・アモリン
 
 
あらすじ
1930年代、ナチス台頭のドイツ
ベルリンの大学で文学を教えるジョン・ハルダーは、家族思いの善良で平凡な男
ところがある日、安楽死をテーマにした彼の小説がヒトラーに気に入られ、渋々ながらも入党せざるを得なくなる、しかしジョンには、モーリスというユダヤ人の親友がいた
生き延びるためのやむを得ない選択ながら、モーリスへの後ろめたさに苛まれるジョン、やがて、ユダヤ人への弾圧が激しくなる中、ジョンはモーリスの国外脱出を手助けしようとするが・・・
 
 
  
 
 
リリィの評価 ★★★★☆
 
 
感想
 
原作は1981年に52歳で他界した英国の劇作家、C・P・テイラーの遺作である舞台劇 
邦題は「善き人」になっていますが、やや誤解を招く表現かも知れない
原題の指す「GOOD」は、主人公の人柄に限ったことではなく、人生において選択する善き道、それら善き伴侶、善き友、善き職、そう言った意味合いだったように感じます
ジョンが文字通り“善き人”か否かの目線をずっと向けていると、反撥や落胆を覚えてしまう結果に
あくまでジョンは物事を正しくも悪しくも行う、文才に秀でているだけの凡庸な男性でした
 
 
家庭でのジョンは、痴呆症の実母に呼びつけられては、現実から逃げるようにピアノを弾き鳴らす妻に気遣う、上を下への大騒ぎ
片手間、子供たちと料理を作ったり、頭の固い義理の父を相手にしたり、うだつが上がらないが、辛抱強く働く善き亭主です
大学教授であるジョンは、書物の山に囲まれた机に座って、文学者らしく自分の世界に没頭する
家族の生活は上手く噛み合ってないけど、不確かな愛情の糸で細々つながっている印象を受けました
もしも若く美しい女生徒アンが言い寄ってこなかったら、もしも執筆した小説がヒトラーの目に留まらなかったら、ジョンは面倒を抱えながらもこの日常に甘んじていたでしょうか
しかしアンの豊満な魅力にジョンは平伏し、ヒトラーはジョンの文才を見い出した
 
偶然目の前に転がってきたチャンスを掴んだだけで、ジョンは優柔不断で流され易い人物に思える
長年ユダヤ人の友モーリスと親しくつき合っているとは言え、信念を持っているようにも感じない
社会的な出世を餌にされれば結局ナチス入党も拒まず、新たな妻アンは尊ばれる生粋のアーリア人
安穏な場所を約束されたに等しいジョンには、ユダヤ人のモーリスが肩身の狭い暮らしを強いられているのも対岸の火事、どこか現実感が薄く、危機感も薄い
迫害する側と迫害される側、2人の友情にはすでに亀裂が生じているのに、ナチスの軍服を着ていてもジョンは自身が直接手を下しているわけではないから、ユダヤ人の苦境が呑み込めないでいる
モーリスが意地もプライドも投げ捨て、亡命の手助けを懇願したときも、ジョンは立場と保身を慮っていた
 
のっぴきならないところまできてはじめて本気でモーリスの身を案じたジョンは、ようやく知る
ぼやけていた罪悪感が現実として白日の下に晒されたとき、彼は慎重に選んできたはずの善き道の果てに、何を失っていたのか・・・
 
情勢が剣呑な空気を孕んでから衝撃のラストまで、ヴィゴ・モーテンセンの表情がすべて物を言います
彼ありきの映画だと言われているのも納得、まさに入魂の演技でした
 
 


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