海炭市叙景 | リリィのシネマBOOK

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ぐうたら主婦リリィが、気ままに綴る、映画レビュー
劇場観賞は月平均5・6本、洋画贔屓かな


劇場鑑賞してきました
 
海炭市叙景
 
 

 
 
 
 
 
 
 
原作/佐藤泰志
 
監督/熊切和嘉
 
キャスト
谷村美月 (井川帆波)
竹原ピストル (井川颯太)
加瀬亮 (目黒晴夫)
三浦誠己 (萩谷博)
山中崇 (工藤まこと)
南果歩 (比嘉春代)
小林薫 (比嘉隆三)  他
 
 




  
解説

北海道函館市出身で90年に自ら命を絶った小説家、佐藤泰志の未完の連作短編集を、函館市民が中心となって映画化したヒューマン・ドラマ
原作から5編をセレクトし、函館市をモデルにした“海炭市”を舞台に、そこに生きる市井の人々の人生模様をオムニバスタッチで綴ってゆく
熊切和嘉監督自身も、北海道出身
 
あらすじ

冬の海炭市、造船所が縮小され、大規模なリストラが断行される
妹とつましく暮らしていた颯太も職を失い、兄妹は不安の中で年越しを迎えようとしていた・・・「まだ若い廃墟」
再開発地域にただ一軒残る古い家、市役所のまことは、一人で暮らす70歳のトキばあさんに立退きの説得を試みるが・・・「ネコを抱いた婆さん」
プラネタリウムで働く49歳の隆三、水商売の仕事を始めた妻との溝は深まるばかりで・・・「黒い森」
ガス屋を継いだ晴夫は仕事が行き詰まり苛立ちを募らせる、一方、再婚の妻は晴夫の不倫を知り、晴夫の連れ子を虐待してしまう・・・「裂けた爪」
路面電車の運転手を務める達一郎はある日、東京で働いている息子・博の姿を見かける、博は仕事で地元に帰って来ていたのだが、決して父親とは会おうとせず・・・「裸足」
 
 
 
 
 
 
リリィの評価 ★★★★☆
 
 
感想
 
 
上映時間150分強
海炭市のごく普通の人間の日常が、微妙にリンクする5つのオムニバス・ストーリー
原作は作者の佐藤泰志氏の自害によって未完だそうです
熊切監督作品で観たことがあるのは、他に「空の穴」だけ
そっか菊池百合子さん=菊池凛子さんだったんだと今頃になって合点しました
無知すぎ、恥ずかしい・・

本作は海炭市の住人に起こった静かなドラマです
本人にとっては衝撃的な事件でも、社会にとっては何も変わらない
リストラに遭った兄が戻ってこなかったり
餌をあげていた猫が忽然と姿を消したり
夜の街に働く妻の浮気を疑ったり
後妻が子供を虐待しているのに気づいたり
何年も音信不通の大学生の息子が帰郷したり
淡々とした風情で、その人のそのときの心情を切り取って、失望が周囲の雑音を掻き消す、まさにその一瞬を表現している感じでした
一瞬が過ぎるとまた周囲は賑やかな音に包まれていくけれど、その人を打ちのめした場面描写がとても秀逸です
 
そして、表情
死にに行く決意を隠して笑う兄の何とも言えない侘しい微笑みや、それを予感していながらも見送ってしまう妹の不安な影に揺れる瞳
妻の浮気現場に乗り込んでいこうと車を走らせる焦燥感、その後に襲ってくる虚無感
人が感情を露にするのはもちろん表情だけじゃなく、気落ちした肩であったり、身じろぎできない体であったり、力んでしまう手であったり、そう言う数々の表現も見事に伝わってきました
 
楽しい気分じゃない時も、人間は歩む時間を止められない
多少無理をしても取り繕うとするから、曲がったり歪んだりしてしまう
そんな特別じゃない、日常に有り触れた人間のどうしょうもない愚かしさ、遣る瀬無い寂しさが、静かに胸に満ちてきました
背景も美しかったですが、その中に小さな街にいる人間の閉塞感まで描いていたような気がします
 
 


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