理佐side


珍しく由依から予定をキャンセルされた。


「ごめんね」の言葉と共にスタンプが送られている



そんな連絡を無視してスマホを閉じた。



なんだか少し、イラッとしてしまって。



あっちから誘ってきたのに、私を蔑ろにしてまで優先したい予定が何なのか気になってしょうがない


だから、これから由依には黙ってお家にお邪魔しようと思っている。いつもの私だったら絶対こんな事しないんだろうけど。


今日は少しほろ酔い気分で、なんだか会いたくなってしまった。




久しぶりに同期の志田と飲みに行ったんだ。

由依が今、誰とどこで何をしているのか深く詮索して傷つくのが嫌で誤魔化すために飲みに行った。


それと、、、夏鈴ちゃん…

最近やけに由依に近づいている夏鈴ちゃんが不信でたまらないから。もし、今日の予定が夏鈴ちゃんだったらって考えただけで、なんだか胸の奥がザワザワしてしまう。


どうしてこんなこと思ってしまうのか、知りたくて。


志田は恋愛経験豊富で私のことを私より知っているから
何か分かるかなって思って相談してみた。




それが、いけなかった───



志田「理佐、そんなの"恋"に決まってんじゃん」


理佐「んん、?」


志田「いや、確かにドタキャンされたらえ?って思うよ。しかもその予定も教えてくれないとかだと特にね。」


理佐「だよね…たとえ友達でもなんかやだよね」


志田「うん。だけどもしさ、今日の由依の用事が夏鈴ちゃん関連とかだったらどーする?」


理佐「え、?」


志田「実は今日の朝聞いちゃったんだよね。夏鈴ちゃんが由依に告白するとこ」


チクッ…


理佐「っ…」


胸が、痛い。
モヤモヤして今にも吐いてしまいそう

よりによって、なんで夏鈴ちゃん?


志田「あと、今日ご飯行く約束してたのも聞いた」


理佐「ふーん…」


志田「いいの?夏鈴ちゃんに取られても」


理佐「……いいよ。だって由依は私のものじゃないし。付き合ってないから何も言えないじゃん」


そう。付き合ってないから、何も言えない
たとえ由依が夏鈴ちゃんを選んで付き合ったとしても
私は止めることは出来ないし、このお遊びも終わり。


理佐「由依は所詮遊び相手。由依もきっとこの関係にうんざりして夏鈴ちゃんと"きっかけ"を作ろうとしてるんだよ」


それを邪魔する権限なんて私には無い。


志田「あーごちゃごちゃうるさいなぁもう。嫌なら嫌って言いなさい。そんな涙目になるくらいならね」


理佐「なってないし」


志田「分かってるよ、理佐。いつも気持ちが芽ばえる前にそういう関係に持っていって、この子とはもう体の関係だから好きにならない…って割り切ってるんでしょ?無理やり気持ち押し殺して」


理佐「だってそうでもしないとあの子の二の舞になっちゃうから。」


志田「もうその事は十分反省したから忘れていいんだよ」


理佐「ダメだよ、、」


志田「真面目か。」


理佐「いてっ、、」


ベチッと額を叩かれてヒリヒリ痛む。
どうして私、叩かれた?


志田「理佐。こんな曖昧な関係長続きしないんだから自分が後悔する前に気持ちから逃げないで向き合ってね。」


理佐「頑張るよ」


愛佳「はぁ、最近夏鈴ちゃんの行動が怪しいからって夏鈴ちゃんを監視したら、由依に夏鈴ちゃんのこと気になってるって勘違いされて、、ほんと不器用だよね」


理佐「…」


愛佳「理佐が誰かを愛することが怖いのはわかるけど、由依は受け入れてくれると思うよ」



理佐「ありがとう」



ポンっと頭に乗せられた手は妙に心地が良かった───





その後も少し話をしてお会計を済ませた。


お互い帰路は別々だから軽く手を振って別れ、由依のお家の方面へ向かう。




そういえば志田は、まるでこの気持ちが恋だと言わんばかりに話を進めてたけど、私は誰にも恋はしないし、後悔することもないはず。

というかもう、恋愛なんてしたくない


ただ、私が由依に執着してるだけ

何となく相性が良くて落ち着くから取られたくないだけで。



所詮、そんなものなんだよ。



執着してる割に由依の前では素直になれなくて
いつも冷たく当たってしまうけど。
でもそれでいいんだ。勘違いさせて、もしかしたらって期待させるよりかは冷たく当たってはやく嫌いになってもらった方が私も由依も穏便に終われるはず。


だから今日の由依の予定が夏鈴ちゃんだったとしても、優先されて当たり前だし、私なんか関わらない方がいい。
そしたら傷つくこともないし…



って、あれ。


あの姿、見覚えがある。もしかして…


理佐「夏鈴ちゃん?」


ギクッとした感じで振り向いた夏鈴ちゃんの奥の方には
ベロベロに酔った由依がいた。


理佐「何、してるの?」


相手が本当に夏鈴ちゃんで思わず戸惑ってしまう。
こんなとこで鉢合わせてしまうとは思わなかった


夏鈴「ご飯食べた帰りで、由依さん送ろうと思って。」


理佐「あぁ。じゃあ私が連れて帰るからいいよ。由依の家向かおうと思ってたから」


夏鈴「っ…」


確か夏鈴ちゃんはここからお家が近かったはずだから
タクシーは使わないはず。私も別にいいから
由依を降ろすついでに断りを入れよう


理佐「由依、おいで。」


由依「んぁ、?理佐?」


理佐「うん。家帰るよ」


由依「ふふっ、理佐だぁ」


そう言いパァっと明るくなった表情を見て安堵する。
さっき志田と話してたとおり、由依の気持ちが夏鈴ちゃんに行ってしまうのではないか…って正直不安だったから。

だからこの子の表情で何となく気持ちが伝わってきて落ち着いた。


理佐「すみません、お時間とって申し訳ないんですけどやっぱ降りますね」


「了解しました。お気をつけて」


優しめな運転手に頭を軽く下げ由依の腰に手を回して、タクシーから降ろした。


夏鈴「…あの」



それまで全く口を開かなかった夏鈴ちゃんが
後ろから話しかけてきてドキッとする。


何を言われるのか…



夏鈴「なんで邪魔するんですか…」


理佐「え、っと」


夏鈴「せっかくデートしてたのに、どうしていつもこう邪魔ばかりするんですか」


理佐「ごめん、」


夏鈴「はぁ…今日、約束してたんですか?由依さんと」


理佐「してたけど、断られて。暇だったからこれから由依の家向かうつもりだった」


夏鈴「断られたのに?」


理佐「うん」


夏鈴「由依さんのプライベート皆無ですね。可哀想」


理佐「…」


夏鈴「とにかく今日は譲ってください。一緒に帰るんで。せっかく捕まえたタクシーも居ないし、夏鈴の家に行きます」


理佐「何するつもり?」


夏鈴「さぁ…。てか理佐さんに関係ないですよね、笑」


理佐「関係ある。由依は…」



由依は、、





私のじゃ、ない、、、、



どう足掻いても、今はただの友達。

そしてこれからも。



夏鈴「由依は、なんですか?」


理佐「なんでもない、」


夏鈴「はぁ、もういいですか。私は由依さんとの時間を楽しみたい。だから、邪魔しないでください」


半ば強引に酔っている由依を私から奪って
堂々と腰に手を回す夏鈴ちゃん


理佐「っ、、ねぇ、何もしないよね?てか、何もしてないよね?」



夏鈴「んー、、ちゅーはしましたよ」





理佐「え……」




え、キスしたの、?由依と?


理佐「え、なんで、」


由依のファーストキスってまだだったよね

まだ誰ともしたことないって言ってたはず。



夏鈴ちゃんが、由依の初めてなの、?




疑問が残る頭の中ではっきり聞こえた言葉。


"合意の上でしました"


「じゃあ、お疲れ様です」



そう言ってどんどん遠ざかっていく夏鈴ちゃん。



理佐「っ…」



あぁ、もううざい。






うざい






うざいっ…!





キスごときでモヤモヤするのも、夏鈴ちゃんに腹が立つのも
先輩として有り得ない。



でも、私はどんなことがあろうと
唇だけは好きな人としか交わらない。


だから、由依がどうして夏鈴ちゃんのキスを受けいれたのか皆目見当もつかない


だって、由依は私のことが好きだから…




"こんな曖昧な関係、長続きしない"


不意に志田から言われた言葉を思い出した。



あぁ、そうか。そういう事か



由依はもう、夏鈴ちゃんの方へ行ってしまったんだ




由依とそういう関係になって1年くらいかな。





とうとう終わってしまった。



私も手を引かないといけない時が来た。




でも、なんでだろ。




なんでこんなに悲しいんだろ。



手放せる気がしない