理佐side

理佐「んんっ……なにあれ」

菅井「おぉ理佐さん、珍しく不機嫌ですねぇ…笑」


そう言って私の頬を突っついてくるのは同期の菅井友香。
私たちが付き合っている事を知っている1人であり、一番の理解者とも言える友人だ。


そんな友人は、私が何に対して不満を抱いているのか分かっているから、楽しそうにいじってくる。
だけど今の私にそんないじりを構ってあげる余裕なんてなくて。目の前で繰り広げられている映像に、胸を抉られていた。


森田「ゆーいさんっ!今日飲み行きましょ!」


井上「えぇ!ダメだよ!今日は僕が由依さんを借りる!」


さっきからずっとこの調子で、モテモテの由依は色んな人にこの後の予定や、いつかの休みの日の予定を埋めようと言い寄られている。


由依は飲みの誘いに乗り気な時と乗り気じゃない時があって、乗り気じゃない日だけど、どうしても断れない飲み会があった時には私に伝えてくれる。
けど、問題なのはここからで…。
乗り気過ぎた日には私に何も言わないで、名前も性別も知らない人と、夜遅くまで飲んでいる日があった。
さすがにその日は怒ったけど、反省しているのかしていないのかふにゃふにゃした笑顔で「大好きだよ」なんて言われて
誤魔化された。


だから、2度目はないよって忠告したいけど
そんなことを余裕なさげに言ってしまえば、大人の威厳というものが消え去ってしまうのではないか。と
言うのを渋っている。

まぁ少なくとも、いや百歩譲って、森田さんは許したとして、井上君は絶対にダメだよね。
性別とかは関係ないとしても、井上君は由依にボディータッチされたら頬赤らめてあわあわしているし。


ていうかさ、さっきから思ってたんだけど……

森田「由依さんは私のだよ!!!」

井上「はぁ?由依さんは誰のものでもないわ!!!」


いや私のなんですけど……!!!!


なんて、声を大にして叫びたい。

てか由依はものじゃないんだよ。私のマイハニーというか、ガールフレンドと言いますか。まぁとにかく、そんな私の大切な大切な恋人ちゃんは今日、私と過ごすっていう大事な予定があるんですぅ〜!!


森田、井上「由依さんはどっちを選びますか!!!」


由依「え、えぇ〜、、どうしよっかな〜笑」


森田「んん!由依さん!!!」


井上「由依さん!」


由依「ふふっ笑」


森田「てか!井上君!由依さんには大切な人がいるんだから2人きりで飲みに行くなんてダメだよ!!」


井上「っ…!?なんで僕はダメでひかるはいいんだよ!僕だって由依さんと飲みに行きたい!」


森田「私は下心なんてないもんっ」


井上「僕もないし!!」


森田「へっ、どうだか…」


由依「まぁまぁ落ち着いて笑」


後輩に言い寄られて、気持ちよさそうにしているところ大変申し訳ないんですけど、今すぐ腹パンして私のだよねって確認したい。

理佐「はぁ…」

こういうのをキッパリ断らない由依も由依だし
恋人の私が近くにいることを知ってて誘っている森田さんも森田さんだし、
井上君に関しては、何も知らないから論外。

んもう、やだ、、モヤモヤする


理佐「むかつく…」


菅井「ふふっ笑 いってきなよ、由依は私のだ〜!って、今日は私と過ごすんだ〜!って笑」


理佐「やだよ、私の方が先輩だもん」


あの3人より、年齢も立場も一応上だから、たった1人のこんな感情を表に出してあの3人の関係を壊したくない。
それに私の方が歳上なんだから余裕っぽいもの見せたいじゃん…。
由依の前では子供みたいに駄々を捏ねて迷惑ばかりかけているから、せめて職場では年上ヅラして何も無い顔をしていたい。

だってそうでもしていないと、このままじゃ面倒臭い恋人から、面倒臭いおばさんになってしまうかもしれないから…。

私、由依と違って全然可愛くないし
性格だって良くないし
財力もそこまでない。

由依が今仲良くしている森田さんとか、井上くんとかと違って、モテているわけでもない。

嫉妬しぃで独占欲も強くて、おまけに寂しがり屋で不安ばっかしの私。そんな不安定な私に付き合ってくれる由依はすごいと思う。

だけどその優しさは、私だけに向けられているわけじゃない。
色んな人に分け隔てなく向けられていて、そんな所にまで嫉妬してしまっている。

菅井「まぁでもゆいぽんもちょっと距離には気をつけた方がいいよね」

理佐「っ…!だよね!」

思わず前のめりになってその言葉に食いつくと少し引き気味に頷かれた。

菅井「井上くんも、女の子に見えるけど実際は男の子だし」

理佐「うん…」

いつ由依が井上くんを好きになるかなんてわかんない。
私は女だし、結婚もできないし、子供も出来ないから。いつ飽きられてもおかしくない。
それに由依の周りには森田さんとか保乃ちゃんとか色んな若くて可愛い子がいる。

から……そんなに仲睦まじげにされると自信なんてなくなっちゃうよ……

理佐「うぅ…泣きそう」

菅井「ん〜よしよし泣くなぁ」

って雑に頭をわしゃわしゃ撫でて慰めてくれる。

菅井「ひっ…」

心地良い撫で方に思わず頬を緩ませていると、友香の手が止まって、思わず不満を漏らした。

理佐「なんで辞めるの」

菅井「あっ、あ〜、、、、はは、笑」

理佐「撫でてよ」

菅井「いや、ちょっ、と、、、」

何に脅えているのか、少し震えながら私からの接近に身構えるから、どこからか湧いてくる悪戯心を擽られて
飛びつこうとした時、ふと扉の開く音が聞こえた。

由依「あっ、夏鈴、ちゃん」

夏鈴「あ、お久しぶりです、由依さん」

また、由依の知り合いか…。
なんて呆れながら、横目で見てバレない程度に威嚇をする。

誰だよ…!次から次へとやって来てさ…!楽しそうに談笑して!そろそろ我慢の限界なんだけど!

もう今度から、由依に話しかける前に私の許可が必要と書類に記載して新年会でその紙を提出してやろうか。

由依「夏鈴ちゃんって、ここで働いてんの?」

夏鈴「はい。離れた間に随分とお綺麗になりましたね」

由依「そう、かな…ありがと」

少し照れくさそうにはにかんで、笑っている由依と
由依をまじまじと見ている夏鈴さん。
どこか微妙な雰囲気に2人はただの友達ではないんじゃないかと疑いが出てきてしまう。

どこでどう出会って、今こうなって、どういう関係なのか、知りたい…

そんな思いを代弁するかのように森田さんが口を開いた。

森田「どちら様ですか、?」

由依「あぁ…っと、、私の友…「元カノです」


「「えっ…?」」


きっとここにいる由依以外の全員が、疑問に思ったであろうこの時。何だか嫌な雰囲気になってきて、目を伏せた。


井上「えっと…」


夏鈴「由依さんの元カノの藤吉夏鈴です」


森田「え、、へ〜!そうなんですね!由依さんと同い年ですか?」


夏鈴「いえ、2個したです」


理佐「っ…」


年下…なんだ……。


井上「え〜!由依さんって年上派かと思ってたけど、違ったんですね」

由依「どこをどう見てそう思ったんじゃい笑」

夏鈴「ふふっ笑 由依さんはどちらかと言えば年下派ですよね笑」

由依「うーん、、どーだろ」

夏鈴「自分より若くてクール系の男の子がお家では子犬みたいに甘えてくる姿が好き〜って言ってたじゃないですか笑」

"夏鈴と付き合う前に。"


……知らなかった。
由依は年下派で、子犬みたいな男の子が好きで、元彼、元カノがいたなんて。
なんで教えてくれなかったんだろう

ちょっとでも話してくれていれば、今こんなに苦しまなくて済んだのに。

菅井「理、佐?大丈夫?」

理佐「ん、、ちょっとやばいかも、、、」

溢れてくる熱いものを抑えようと、上を向いて手でそこを仰ぐけど、なかなか収まってくれないそれは次第に溢れてきて、頬を濡らしていく。

菅井「っ、よしよし、会議室行く?」

理佐「っ、ぅ、、、ん、、いく、」


私の手を取って心配そうに見つめてくる友香。
ドキドキしている胸に大丈夫、大丈夫と呪文のように唱えても中々おさまってくれない動悸。


オフィスを出る時に、近くにいた由依と目が合った気がして冷や汗が出てきた。


もしかしたら泣いている事がバレたんじゃないか。
もしバレてたら、呆れられてしまうかもしれない
そんなのやだ、、お願いだからばれてませんように……


菅井「ん、座って」


理佐「ぅん、、グスン、、」


菅井「あ〜しくしく理佐ちゃんになっちゃった、泣かないでぇ」


理佐「…すぐ嫉妬しちゃう」


菅井「理佐は嫉妬しぃもんね」


理佐「もう嫌だ、、」


菅井「私は可愛いと思うけどな〜、茜と比べたら理佐の嫉妬は可愛いものだよ。笑」


理佐「だけどっ…」


菅井「じゃあ理佐はさ、ゆいぽんが今の理佐みたいに嫉妬して泣いてたらどう思う?重いな、とかだるいな、とか思ったりする?」

由依が嫉妬して泣いているところ…。
想像つかない


いつもすました顔をして私を弄んでいる彼女の
そんな表情、妄想でも浮かばないよ


理佐「わかんない…」


菅井「ふふっ笑 分かんないか〜ゆいぽんも結構嫉妬しぃと思うけどなぁ笑」


理佐「え?」


菅井「だって私が理佐を撫でてる時、めっちゃ睨まれたもん笑 だから途中で撫でるのやめたし…笑」


理佐「ほ、ほんと!?」


菅井「うん、本当。だから心配しなくても、ゆいぽんが理佐に幻滅することなんて絶対にないと思うよ。」


理佐「うぅ///…ちょっと自信持てた、ありがと」


菅井「いいえ〜!少し目腫れちゃってるからもうちょっと時間置いて戻ろ!私飲み物買ってくる!何がいい?」


理佐「お茶でお願いします」


菅井「は〜い」


私がこうやって不安定になるのに慣れている友香は
私の慰め方も、私の諭し方も何もかもわかっているから
私もすぐに泣き止んで、安心する。

そんな友人が近くにいてくれて本当に感謝だ〜


理佐「ふぅ…」


ガチャ


ノックもなしに開いた扉。
きっと友香だと思って、だけどやけに早いお帰りに財布でも忘れたんだと思った。


理佐「あ、ねぇゆうか〜?私やっぱ水…っ」


何も見ないで話しかけていたから、少しの気まずさと襲ってくる沈黙。

扉に立っていたのは友香じゃなくて由依だった。


由依「ねぇ、理佐さん」


少し悲しそうな表情で私の名前を呼んできて。
友香のおかげで落ち着いた胸がまたドキドキし始めた。


はぁ、今は1人で居たかった…







来て欲しく、なかったな…