理佐side


由依「理佐さんって好きでもない人に嫉妬するんですか?」

事後。ベランダの柵に寄りかかりながら
タバコを吸っている由依にそう言われた。


──由依だから嫉妬するんだよ。

出かかった言葉を飲み込んで
用意していた別のセリフを由依に投げる。


理佐「…私ってそんな嫉妬深い?」


的はずれなその返しに、由依は笑って答えてくれた。


由依「そうですねぇ。まぁ少なくとも私よりかは嫉妬深いかも?」

由依「今日だって私が黙って他の子とご飯食べに行ったから嫉妬して怒ったんですよね?笑」



理佐「…そんなわけないでしょ。」


由依「あれ、私の体中にいっぱいついているキスマは何かなぁ」


理佐「それは、!違うもん…」


由依「ふふ、やっぱ理佐さんは嫉妬深いよ笑」



理佐「…由依も嫉妬深いじゃん」


由依「そうですかね…?」



理佐「そうだよ!この前私が同期の男の子と話してたら腕引っ張って無理やり会議室に連れていくし…。会社ではダメって言ったのにキスしてくるし…」

理佐「由依が私引っ張る時その同期にめっちゃ睨みきかせたせいで、私その後同期にめちゃくちゃ揶揄われたんだから!」


由依「あー、ふふ笑 なんて言われたんですか?」


理佐「…普段から誰ともコミュニケーション取りたがらない小林さんが珍しく渡邉に懐いてんじゃん笑
何?なんかあるの?って」


由依「なんて答えたんですか?」



理佐「何も無いから。小林さんはただの部下だよって」



由依「ふーん。あるって言えばよかったのに」



理佐「嫌だよ。変に気遣われるのも困るし
それに由依の狙っているあの子にも支障をきたすでしょうし」


由依「…あの子?」



理佐「え?」



由依「いや、だれですか?その子」


理佐「え、ほらあの人事部の森田さん」


由依「あー、ひかるか。可愛いですよね」


理佐「……」



由依「私、目の大きい子好きなんですよね。あと背の低い子」



理佐「…ふーん。森田さんドンピシャじゃん」


由依「そうなんですよねぇ。マジで可愛い」


煙を吐くと同時に
灰皿にタバコを押し付けて、中へ入って私の隣へとやってくる。
タバコの匂いを服に付けたままソファへ身を委ねた。



理佐「くさい」


由依「ふふ、すみません笑」



理佐「反省してないでしょ」



由依「あー、バレちゃいました?」


理佐「もう…いっつもそうなんだから」



由依「あはは笑」


ピコン



空気を読まず震えた由依のスマホ。

遠目で画面を覗くとどうやらその通知の犯人は
森田さんで。モヤモヤと黒い霧が私を覆った。


嬉しそうに口角を上げて返信をしている…
私の見た事のない表情をして。

嗚呼、楽しくない。つまらない、気持ち悪い


もう嫌になってきた。



理佐「由依…」


由依「ん?」



──無視されると思ってた。

森田さんに必死で、私の声なんて届かないって思ってた。
でも由依は私が名前を呼ぶと、わざわざスマホの電源を落として
私の方に関心を向けてくれた。


"嬉しい"



理佐「んー、眠くなってきた…」



由依「もう寝ますか?」



理佐「…そうしようかな」



由依「あー、じゃあ私帰りますね」



理佐「え?なんで?」


由依「んー、ちょっと用事が…」



ポリポリと頭を掻いて
さりげなく目を逸らした。
……用事ってもしかして


理佐「森田さん?」


由依「えっ…!」



…当たりだ。この反応
由依は分かり易過ぎだよ


理佐「森田さんのところに行くの?」


由依「んー、まぁ、えーっと呼び出されて」


理佐「どこに集まるの?」


由依「ひかるの家?」



理佐「森田さんの家に行って何するの?」



由依「さぁ…」



さぁ…って
何となく由依も気づいてるでしょ。
てかこんな時間に、しかも家に呼び出して
ノコノコ向かって無事に終わるわけがないんだよ


理佐「するんじゃないの?」


由依「分かんないですね」


理佐「分かるでしょ」



由依「いや、ひかるガード固そうですし」


理佐「何その言い方。私が緩いみたいじゃん」



由依「まぁ、うん。理佐さんは緩いですけど…」



理佐「緩くないし」


由依「そうですね」



理佐「なんでそんな面倒くさそうにするの」


由依「そんなつもりないです」



理佐「森田さんのところに行くってことは、森田さんと付き合うってこと?」



由依「どうしてそうなるんですか。」



理佐「だって好きなんでしょ?森田さんのこと」



由依「いつ誰が、そんなこと言いました?」



理佐「好きじゃないなら何?何のために、この時間にあの子の家に行くの?」



由依「それはっ…」



理佐「私じゃ満足できなかった?」


由依「は?」



理佐「まぁ、そうだよね。私よりもっと若い子の方が気持ちいいよね。こんなおばさん抱いても楽しくっ…んん」


由依「うるさい」


無理やり口を塞いでそのまま後ろへと押し倒される。
左手で頭を支えながら、でも腕の力は抜いて
ぐっと距離が縮まった。
近くで見る由依の顔はこれまた、見た事も無い表情で。何も言えなくなった。


由依「満足できてないっていつ言った?誰がおばさんって言った?理佐の事抱いてて楽しくないって、いつ私が言ったの」


理佐「っ…だって、だって」



由依「だってじゃない。私の言った覚えのないことを1人でペラペラ話さないで」


だって、それは、由依が隠そうとするから。
不安になって、それで…。全部由依が悪いじゃん

言いたくても、言えなくて。目にはどんどん涙が溜まっていった


由依「…ごめん。泣かないで」


悲しそうに眉を下げて頬を撫でてくる。
狡い…。いつもそうやって、優しくして
惚れさせて…。こういうこと、私じゃない他の誰かにもやってるんでしょ?って思えば思うほど、胸はどんどん苦しくなって。


涙がとめどなく溢れてきた。


由依「ごめん、ごめんね。泣かないで」


理佐「なんでっ、隠そうとしたの?」


由依「理佐さんひかるの話したら不機嫌になるから…」



理佐「だから、って、、隠さなくていいじゃん」


由依「ごめんね…」


由依は何も悪くないのに。
ただ意中の用事を優先しようとしただけなのに。
こんな、なんでもない、ただの友人に我儘を言われて
泣かれて、それで謝って。


理佐「行かないでっ、、行っちゃやだ、」


この我儘にも笑って


由依「ん、分かった。ここにいる」


なんて言って。
上司なのに、年齢も立場も上なのに
情けない姿を晒してでも、引き止めたくて。
それ程、今の由依を森田さんに奪われるのが嫌で
堪らなく、悲しくなった。


だから、今日くらいは、私の我儘を聞いて欲しい。
全部じゃなくていいから、せめて森田さんの所に行くのは
やめて欲しかった。


由依「よいしょっと…」


私の上から退くと
私の腕を引っ張って元の体制に戻してくれた
未だ目元に涙が残っている私は、それを拭いていた。


由依「ふふ、嫌なら嫌って言ってくれれば私だって直ぐに断ったのに」

私の方を向くと、ゆっくり優しく目元を拭ってくれる。


理佐「だって…」


由依「ん?」


理佐「由依、森田さんの事好きなんでしょ?」


──だから不安で。



由依「ねー、私がひかるを好きだって誰から聞いたの?」


理佐「…同期の白石君」


由依「…またあの人」


理佐「…嫌い?」


由依「あんまり好んで関わりたいと思わないかも。」


理佐「結構優しいよ?」


由依「ふーん。別に興味ない」



理佐「何よそれ笑」



由依「それより!」

いきなり大声を出したかと思えば
腕をガシッと掴まれて、由依との距離が一気に縮まる


理佐「な、なに?」


由依「変な噂すぐに信じて、1人で勝手に傷ついて…理佐さんって馬鹿なんですか?」


理佐「なっ…!」


由依「この前もこんな感じの噂信じて、一人で泣いて。言ってくれれば直ぐに本当のこと言うのに、遠回しに、それも自分の限界が来てから言うし…」



理佐「えっ、てことは森田さんのことは…」


由依「特別な感情はないですよ。ただの同期です」


理佐「…よかった」



由依「それに私、他に好きな人いるし」



理佐「え……」



由依「ふふっ、私の好きな人は…優しくて、可愛くて嫉妬深くて、なのに遠慮がちで、泣き虫な独占欲強めの女性です笑」


聞いてもないのに、いつもより饒舌に
その人の話をする由依は楽しそうで耳を塞ぎたくなった


由依「あー、あと2つ。私の上司で、大切なセフレ兼友人です。」


聞かされた事実が、思っていたよりも
深く胸に刺さってきて。悲しくて。
由依を見ず、何も映っていないテレビを見ながら
疑問に思った点を質問した。


理佐「…私の他にもセフレいるの?」


こんな時でも、どこから湧いてきた嫉妬が私を包んで──。


由依「もう、なんで気づかないんですか笑 私の好きな人は理佐さんですよ」


理佐「え…?」


由依「だから!私は理佐さんが好きなんですって」


理佐「嘘だ…」


由依「嘘じゃないですよ笑」



理佐「だって、今までそんな素振り一切見せなかった…」


由依「えー、結構見せてたつもりなんですけど。てか理佐さんが私の事好きって分かってたから、何となく緩いアプローチしてたんですよ」


理佐「なっ、!え!」


由依「理佐さん直ぐ顔に出るんですもん笑」


理佐「っ…///」


カァと顔に熱が集まるのが分かった。
熱い、熱い、恥ずかしい。
…ばか。分かってたなら最初から言ってくれれば良かったのに…


理佐「いじわる…」


由依「ふふ、理佐さん。私と付き合ってくれますか?」


理佐「…私でよければ、お願いします」


由依「やったぁ!」



ギュッ


理佐「わっ、!ちょっと急に…」


由依「いいじゃないですか笑 もう、恋人なんですから」



理佐「そうだけどっ…恥ずかしい…」


由依「っ…可愛すぎ」



理佐「可愛くないっ…」



由依「可愛いですよ。めっちゃ」



理佐「っ、、もう」


由依「あっ、あの…」



理佐「ん?」


由依「ひかるの事なんですけど。このままあやふやにして理佐さんを不安にさせるのは嫌なんで言うんですけど、ひかるとは本当に何も無いですからね。今日行こうとしたのは、その、、」


理佐「うん」

由依「理佐さん、来週誕生日だから、その、ネックレスを渡したくて…でもお店になかったから探してたんです。それをひかるも手伝ってくれて、で、ようやく見つかったから
今日行こうとしてて…まだ、お店開いてるって言ってたから…」


理佐「えっ…あ、、じゃあひかるちゃんの家に行くって言ったのは嘘?」


由依「はい。私、嘘つくの下手だからバレるのが怖くて…すみません」


理佐「ううん。嬉しい…ありがと」


由依「でも、まだ買えてないから…」



理佐「それでも嬉しい。ごめんね勘違いしちゃって」


由依「いや、勘違いさせるような事をしたのは私だから」


理佐「まぁ、確かに笑」


由依「気をつけます…」



理佐「うん笑 あ、じゃあ森田さんから連絡が来てあんなにニヤニヤしてたのは探してたものが見つかったから。って言うこと?」



由依「えっ!そんなにやにやしてました?」


理佐「うん笑 で、どうなの?」


由依「…もしかしてまだ疑ってます?私がひかるから連絡来てそんなに喜ぶのなんて理佐さん関連くらいしか無いですよ
他の人もそうです」


理佐「そ、そっか…////」


由依「なんで照れるんですかぁ笑」


理佐「だって、嬉しくて…」


由依「っ…無理だ。死にそう…」


理佐「え?」


由依「今まで伝えられなかった分、これからは沢山理佐さんに愛を伝えますから!覚悟しててくださいね!ウザったいって思うくらいベタベタしますから!」


あ、あと。

付け加えて言われた次の言葉に
私の胸は五月蝿いくらい高鳴った。


由依「私、結構嫉妬深いですから。気をつけてくださいね」


理佐「……可愛い」



今まで全然、嫉妬してるところなんて見たこと無かったから
それこそあの会議室の事件以外特になかったから
正直嬉しかった。由依も私に独占欲を出してくれるんだって


由依「……だから距離にはくれぐれも気をつけてくださいね。特に白石先輩。肩とか触れたりしたらまじで怒りますから」


理佐「わ、わかった」


由依「んふふ、じゃあそろそろ寝ますか?さっき眠いって言ってたし」


理佐「うん」


いつもと変わらず、由依に手を引かれて寝室へ連れていかれる。
私が右側で由依が左側。いつもと変わらないのに
どこか違和感があるのは、由依が恋人になったからかな。


由依「…おやすみなさい」


理佐「ん、おやすみ」



由依「あ、忘れてた」



理佐「ん?なにがっ……んっ」


さりげなく腰に手を回して、唇に唇を重ねてきた。


由依「おやすみ、理佐さん」


理佐「っ…////」

理佐「ば、ばかぁ!!」



由依「ふふ、ほら寝ますよ〜」


由依にガッチリホールドされている所為で
私は動けず、由依の胸を軽くパンチしながら
文句を言うしかなかった。


理佐「ばかばかばか…!」


由依「そんな嫌でした?」


理佐「嫌じゃないけど…恋人として初めてのキスはちゃんとしたかった…」


由依「じゃあ今のノーカンで」

由依「理佐さん。こっち向いてください」



由依の腕が緩んで、少し身体から離れると
ゆっくり頬を包まれて上を向かされた。
「しますよ?」その合図とともに、私の唇には
柔らかい由依の唇が合わさった。


由依「おやすみなさい」


理佐「…おやすみ」



興奮して寝れそうにないや──。