理佐side


理佐「あ〜彼氏欲しい」


由依「いっつもそればっかだね」


理佐「飢えてるんです〜」


由依「理佐ならすぐ出来るでしょ笑」


なんて、微笑みながら言っていた私の好きな人に彼氏が出来た。少し照れくさそうにはにかんで、友達である私に報告してきた時は
積み重ねてきた何かが崩れ落ちて、時が止まる感覚がしたのを今でも覚えている。


ずっと、「私が彼女になってあげるよ」って漫画みたいなセリフを待っていたのに。由依が、少し私を気にしていたのも知っていたのに。

曲がり曲がって、意味わかんない方向に行ってしまった私たちの関係は、時間が経つにつれて元々なかったかのように静かに消え去った。


仲のいい幼馴染で、好きな人だったのに
彼氏との予定が増えた由依と、バイトのシフトを増やした私。
家が隣同士で一緒に帰っていた通学路も、今は1人でとぼとぼと歩いている。たまに甘えたくなってハグをすることも、しょうもない話で盛り上がることも、ちょっとした会話をすることも無くなった。


どちらかと言えば乙女な私と、どちらかと言えばクールというか凛としていた由依だから
告白はきっと由依からなんだと思っていた。

だけど、そう私が勝手に思っていただけだから
由依を恨むなんて。由依の彼氏を妬む事なんてことできなくて。

でも絶対に、誰にも奪われたくない相手だったから、どうしようもなく辛かった。


もうこんな経験をしたくなくて
周りとの関係を、由依との関係を終わらせた。



─────────────

懐かしい夢を見た。



7年前の、想い出。


彼氏持ちだった由依と、高校最後だからという名目で卒業式後に開催された打ち上げを2人で抜け出した
私の1番大切な想い出。

あの日、彼氏がいた由依と物理的にも心理的にも距離を置いていた私を連れ出したのは由依だった。
もう関わりたくないのに、昔から怒ったら怖いことを私が1番知っていたから、抵抗も出来なくて。


渋々ついて行くと、私たちがよく遊んでいた公園に連れていかれて、ベンチに座れと諭された。
大人しくちょこんと座れば、目の前で腕を組む由依と目が合って、思わず逸らす。


…隣に座らないのか


由依「こっち見て」



怒っているのは分かっていたけど普段の倍の倍、低い声は私の肩をビクつかせる。


恐る恐る顔を上げると、さっきの声からは想像できない程弱々しい顔をした由依が居た。


由依「なんでずっと、ずっと私を避けてたの」


理佐「避けてなんか…」


由依「避けてた。家が隣なんだから一緒に帰ることだってできた。ハグだって毎日できた。話すことも、出来たのに…なのに…」


理佐「…」


由依「理佐が避けるから、寂しかった」


ポロリと零れた涙は
由依の頬を伝って、次々に流れていく。

…私は、その涙を拭っていい人間なのか。

泣かせた張本人でもあり、彼氏持ちのこの子に好意を寄せている、こんな私が……


由依「もう、触れるのも嫌になっちゃったの、?」


由依が涙を流す度、その涙を拭うのは必ず私だった。
だからか、疑問に思ったのかそう聞いてくるけど

違うんだよ。ただ、触れていいのか分からないの


理佐「別に…」


由依「ねぇ前みたいな関係にはもう戻れない?」


戻れるなら、私も戻りたい。
だけどね、、だけど、彼氏持ちのあなたを思い続けて苦しむほど惨めなものはないんだ。


だから…


理佐「……ごめん」


由依「そっ、か、、ごめん、そうだよね、、」


理佐「…うん、ごめんね」


由依「グスッ…私、理佐が、好きだったよ、、本当に大好き、だった」


この汚れた手で触れてしまったら、消えてしまうんじゃないかと思うくらいに今の由依は儚げな雰囲気を纏っていて。だからか、逆に由依から触れられてしまえば身動きが取れなくなってしまう。

温かなその手に懐かしい感覚を覚える。


理佐「…ありがとう。私も、友達として由依のこと好きだったよ」


由依「じゃあ、私の好きと理佐の好きは違うね、笑 お揃いじゃないや」


その言葉がどういう意味を持っているのか。
期待してもいいのか。いや、相手は彼氏持ちだよ
鵜呑みにして、また傷ついたらどうするの


由依「本当に、愛してた」


ふにゃっと軽くぶつかった唇。
柔らかくて、温かくて…。だけど、顔はもっと温かくて


キスをされて、動揺していたせいか
由依は「ごめん」と悲しそうに謝って私の前から姿を消した。



─────────────


もう、7年も前の話なのに
なんでこんな鮮明に夢として出てきたのか。


まぁ、何となく予想はできるけど。
こんな夢を見たのはきっと、今日は高校の同窓会があるから。だから夢に出てきたんだと思う。

もう薄れていたはずの記憶と、由依に対しての思いは
夢を見たせいで再熱してしまった。

今日の同窓会に由依が来るかどうかなんて知らない。
だけどもしもう一度会えて、あの悲しい出来事を昔話として笑い合えるのなら、今日の同窓会に行く価値はあるんじゃないかと思う。

だから私は今こうやって用意しているし、少し緊張している。

あの時の「好き」とキスはどういう意味だったのかな
弄びたかっただけ?反応を見たくてしただけ?

もしそうなんだったら、相当タチが悪いね。



同窓会まで残り1時間。

私は家を出て、会場まで向かった。

片道だいたい45分だから、着く頃にはもうほとんどの人が集まっているのかな
楽しみだな、会えるの─────────






愛佳「おっ!理佐久しぶりー!」

会場に入って、真っ先に声をかけて来たのはもう1人の幼馴染、愛佳だった。
高校を卒業してからスマホを変えて、誰とも繋がっていなかったから久しぶりに逢えて少し感動している。

愛佳「いきなり音信不通になるからさ、びっくりしたよ笑 LINE交換しよ!」

理佐「うん、いいよ」

愛佳「なんか一言言ってくれたらこんなに傷つかなかったのになーって思う笑」

怒りもしないで、理由も聞かないで
でも、自分の感情は素直に伝えてくれる愛佳には感謝しかない。昔から気の使える繊細で優しい子だったから、愛佳には相談した方が良かったよね

理佐「ごめんね」

愛佳「ううん、また今度遊んだ時に話は聞くから笑」

ねる「あっ!りっさ〜!!!!」

愛佳「ほら呼ばれてるよ笑」

理佐「ありがとう笑」

色んな友達に囲まれて、あの時の懐かしい感覚に戻っている時に、ふと生まれた疑問。


────由依は?


理佐「由依、いないの?」


ねる「ん〜、そういえばまだ見かけとらんね」


齋藤「懐かし〜、欠席したのかな、?会いたかった」


理佐「そうだね」


私も会いたかった。


もう由依とは会えない運命なのかな
今日、もし私が来なかったら由依は来ていた?


グルグルと頭を回るのはマイナスな思考ばかりで。
そんなことを考えているとお酒を持つ手が進んでしまって。ふわふわしていた時に、聞こえてきた声。

高くも低くもない、落ち着くようなそんな声に
惹かれるように視線が動いた。


??「久しぶり〜」


齋藤「ゆいぽん!今日欠席かと思った!笑 うわぁ〜!」


織田「ぽん!!!!」


??「おぉ、そんな急に抱きつかないでよ笑」


"ゆいぽん"

あの人の愛称として浸透していたその言葉を聞いて、目でその人を見て、確信した。






──由依だ。



あの時より、一段と綺麗になっていて
また胸が騒がしくなる。


理佐「ゆ、い…」


拒絶されるかもしれない、なんて気持ちと裏腹に
話したい気持ちが強まって
思わず、由依の手を掴んでいた。


由依「お、あ、、理佐、、久しぶり」


いきなり手を掴まれて、驚いている由依。
私の事、覚えててくれたんだ。


由依「ふふっ笑 理佐だ」


ふにゃっと笑って私の手を握り返してくれた由依。

あぁ、もう全部が愛おしい。


理佐「えっ…」


…指輪?


手に、違和感があって。下に目を向けると

由依の左手の薬指には、シルバーの綺麗なリングがはめられていた。


理佐「結婚、したの、?」


由依「あ、うん…結婚、した…」


理佐「そう、なんだ、、まぁそうだよね、」


由依、昔から可愛かったし
今はめっちゃ綺麗になってるし
そりゃ色んな人が由依を狙うわけだ。


由依「ねぇ、理佐、?」


理佐「ん、?」


由依「…好きだよ」


理佐「っ…」


どういうこと…


由依「理佐と結婚したかったなぁって…笑 ごめん、急に」


理佐「ねぇ私も好きだよ」


由依「あり、がと…///」


っ…あぁもう、バカ、、期待してしまうよ

もう既に他の人のものになっている好きな人に、頬を火照らせながら好きなんて言われて。
私どんだけ振り回されてんの…

ねぇ好き、ってそういうことでいいよね。
じゃあさ、抜け出そうよ
あの時みたいに。
今度は私から、由依の手を引っ張って。



断られれば諦めようと思っていた。



だけど由依は拒むことは愚か、乗り気で着いてきて。

あの公園に向かおうとすれば、由依は行き道途中1本外れた方へと手を引っ張ってきた。
そこは所謂、ホテル街で。

色んなところにピンクがかった空気が漂っていた。

手を引いていたはずが逆に引かれながら、時折やってくるナンパっぽいものを避けながら由依について行く。




まさかここに行くのではないだろうか、と多少の疑いを持ちながら足を進めると、由依は数ある多くの建物の中から1つ選んで、手馴れたように中へ入ろうとした。
外観も所謂そういう感じの所に。


理佐「え、まって」


由依「……ダメ?」


上目遣いで言われてしまえば、由依の上目遣いに弱い私は無理なんて言えなくなってしまって。


由依「行きたい…」


そう甘えてくる由依にこくんと頷いた。


理佐「ん、分かった…」


こんな所入ったことないから、由依に全部任せて
私はただ後ろを歩いた。

中に入ると、意外にも広くて。
そういうことをする所には見えないほど、普通のホテルに見えた。けど、ベッドの近くにある、販売機的なものを見て
思わず目を逸らす。

私、今から由依としちゃうのかな


そんなことを考えていると、ベッドへと手を引かれてそのまま押し倒された。


理佐「ん、まって…」


由依「ここまで来て、無理なんて言わないでよ」


理佐「ねぇ由依、あの時どうして私にキスしたの?」


それだけ、それだけでいいから教えて。
そしたらもう、なんでもいいから
何をされても文句言わないから…


由依「理佐にキスする前、私理佐に言ったじゃん。好きだって、愛してるって」


理佐「友達としてじゃ…」


由依「違うよ。理佐は友達としてって言ったけど、私は恋愛的に理佐が好きだった。」


理佐「え、、」


由依「だけど、理佐が「彼氏欲しい」とか「友達として好き」とか言うから、やっぱり女の私じゃダメなんだって思ったの。」


理佐「いや、あれは……」
 

由依「今日だけ、今日だけでいいから私を求めて…」


理佐「由依には大切な人がいるじゃん…」


由依「好きで結婚したわけじゃない。女の子と付き合って、変な目で見られるくらいなら最初から普通の幸せを手に入れて、皆と過ごせばいいかなって思ったの。」


由依「だけどもう何年も経ってるのに理佐を忘れられなかった。今もまだ好き。大好き」


理佐「っ、私もっ…」




"好き"


そう、言葉を発する前に、由依の柔らかい唇で口を塞がれた。
まるでその先は言っちゃダメと言われているようで涙の膜が張る。


理佐「なん、でっ、ん、、」


由依「理佐には私以外の人と幸せになって欲しい」


理佐「無理だよ、由依の事が、、「ダメなんだって、、私たちは同性なんだよ」


キッパリとそう言い放った。

由依の中では、同性愛がとてもとても重荷になっているんだと分かった。それはきっと私じゃ想像できないほどに。


由依「今日だけ、だから。もう二度と理佐の目の前に現れないから、抱かせて。理佐に触れたい」


理佐「っ、、いいよ、、来て…」


由依「理佐、今日が終わったら私を忘れてね。苦しんで欲しくないから」


あぁ、本当にずるい人だ。
こんなに惚れさせて、最後だからと私を抱こうとしている貴方はきっと、私の記憶から消えることは無い。
そして、この想いからも開放されることはない。

私はずっと由依に縛られて生きていくんだ。


理佐「好き」

初めて本当の好きを発することが出来て、また涙が溢れた。
だけど由依はそれに気付かないふりをして
行為を続けた。