理佐side


綺麗な並木道。

木の葉の隙間から夕日が私たちを照らし、イチョウが風と踊っている。


車も通っていない、静かな道を歩くのが好きで。

仕事帰りで疲れているであろう由依に
少し我儘を言って、この景色を一緒に眺めている。


揺れる葉の音が、気持ちを柔らかにしてくれて。


夕日に照らされている由依が、なんとも言えないくらい美しく光る。



言葉にして伝えるのは何だか気恥しいけど。
私のお気に入りのこの道を隣で歩く人は一生由依がいいな…。


なんて、そんなことを考えていると


??「りっちゃん…?」


誰かに後ろから
懐かしいあだ名で呼ばれた気がした。


高校の頃のあだ名を、ふんわりとした優しい声で呼ぶ人なんて、一人しかいない。


今この現場で1番、鉢合わせたくなかった人。




私の一番、大好きだった人。



「…ねる。」



ねる「あ!やっぱりりっちゃんだ〜!」



なんの悪びれもなく、あの時の優しい笑顔で近づいてくる
ねるに、どこからか湧いてくる焦燥感が
隣にいる彼女にも伝わってしまったらしい。

由依「理佐…?」


不思議そうな、でもって少し不安そうな彼女の瞳を見てはっとした。

理佐「久しぶり…」


ねる「久しぶり!えっと、隣にいるのは…?」


由依「あっ、初めまして、!理佐の彼女のこばy…「友達!!…ただの、友達だよ…友達のこば。」


彼女。

そう由依が言葉にした時、ねるの表情が一瞬変わったのに気が付いた。全身から湧き出る冷や汗。


お願いだから、早く居なくなって欲しい


ねる「友達…?」


首を傾げて聞くねるに、由依は悲しそうに
「はい」と頷いた。


理佐「友達、だから。じゃ、またね…」


由依との接触をなるべく減らしたい一心で
逃げるように去ろうとすれば

いきなり強い力で腕を引かれてバランスを崩した。


ねる「あ、ごめん〜!」


そう、支えるフリをして
耳元に寄ってきた唇。

あの時みたいに、私の嫌いな冷たい声で言葉を放つ。



理佐「っ…」



あぁ、最悪だ。

こんな道、通んなきゃよかった。


我儘なんて、言わなきゃよかった。


ごめんなさい…。




由依side


ねるさん。


今日私が初めましてをした、理佐の知り合い。


ふんわりとした印象のあるねるさんは、男性からはもちろん女性からも好かれそうな人で。
だけどどこか、彼女が微笑む度に触れちゃいけない何かに引き込まれそうでゾッとした。



なんて…そんなことはどうでもいいんだけど。。


理佐「……」


由依「……」



ねるさんと別れた後から、ずっと無言な理佐。
私が話しかけても、どこか上の空で
こんな理佐初めて見るなぁって、とりあえず放っておいた。




ガチャ

乾いた空間に、響くように解錠された扉の音。


由依「ただいま…」



理佐「……」



由依「っ…」


なんで。

危うく言葉に出るところだった。

普段だったら「ただいま」「おかえり」を言い合ってぎゅーをしてから手を洗いに行くのに。

付き合って始めて、それをしなかった。



1人で静かに洗面所に向かう理佐。
呆気に取られる私。



手を洗い終わった理佐は私の方を向くことなく、部屋に入って行く。


そんな態度に、チクッと痛む胸。

と、同時に思い出す「友達」って単語。



わざわざ重ねるように、なんで言われたのか。


今までだって、理佐のお友達とは沢山出会ってきた。
その都度、嬉しそうな笑顔で私のことを「彼女」として紹介してくれるから、私まで嬉しくなっていて。


だからか、初めてそんな扱いをされた時
違和感はもちろん、味わったことの無い胸の痛みに、顔の表情まで動かせなくなって
ねるさんの前で、上手く笑えていたか分からない。


理佐の行動に対して、疑問しか浮かばないが
ただ1つ言い切れるのは、ねるさんにだけは私たちの関係を隠したかったって事。



ねるさんは理佐の何なのか。
そして、理佐の中でねるさんは何なのか。



聞きたいことは沢山あったけど。
さっきの理佐の態度を見て、ねるさんの話題を出したら
傷つく回答を得てしまいそうで、怖くなって聞くのを辞めた。


理佐と同様、私も手を洗い部屋に入ると
着替えもせず真っ暗な画面を見て、ソファに項垂れている理佐が居る。


由依「…理佐」


理佐「……」



やはりおかしい。
綺麗好きな理佐が、外気に触れた服でソファに座るなんて。


由依「り、さ…」


理佐「…」


返事くらい、してよね。
友達って言われたこと、結構ショックだったんだから…


由依「んっ…」


理佐「っ…」


何を考えてるのか。

聞くのも怖くなって思わず唇を奪った。


理佐「ゆ、い」


由依「由依だよ」


理佐「ゆい、」


由依「ん、、理佐」


ギュッと腰を掴まれたまま理佐に引っ張られ、ソファに押し倒される。やっと理佐と目が合って安心した


理佐「由依…いい?」


段々いつもの理佐に戻ってきて、先程までの怖い表情はどこに行ったのか。

理佐「由依のこと、食べたい…」

とてもとても柔らかい表情でそう言われ、普段の私だったら絶対断るけど。今は理佐の温もりがどうしようもなく欲しくて
首に腕を回した。


由依「いっぱい食べて…」



ゴクリと生唾を飲み込む音が響く。



目の前の狼さんは、本当に私で満腹になってくれるのか。



不安を抱えたまま理佐に身を任せた。