由依side



理佐「やっと卒業してくれたね…由依」


私の卒業コンサートに来てくれた彼女の第一声はそれだった。


由依「いい加減、他所の飼い犬がうるさそうだったから」


理佐「飼い犬って…笑」


愛おしそうに私の頬を撫でてそのまま唇に触れるその手には、どんな意味があるのか。


由依「ん、こら」


理佐「あぁ…ごめん」



ピコン


由依「あ、ひかるからだ」


理佐「私も保乃から呼ばれてる。行かなきゃ…」



誰にもバレてはいけない、秘密の関係。

お互い部屋を出ると別々の方向へ進んで、私たちの本当の恋人のいる楽屋へ向かった。



ガチャ


由依「ひかる」


森田「由依、さん…」


由依「ふふっ、どしたの笑」


大きな瞳に涙をいっぱいためた彼女は他の誰にも負けないくらい可愛くて。

先程、理佐と一件を交わしたことに罪悪感が湧いてきた。


森田「少し、寂しいです。これから由依さんのいないグループで活動していくのが。少しだけ、、本当に少し…寂しい」


やっと聞けたひかるの本音。

卒業することを伝えてもずっと平気そうな顔をしていたから意外と平気なのかなって思っていたけど、そういう訳ではなかったのね。


森田「由依さん…」


由依「かわいいね笑」


森田「っ、寂しい…」


ポロリと零れた涙を拭って、柔らかい唇にキスをした。


先程、理佐に触れられた唇を上書きするかのように。


バレないように…


ひかるのメンタルケアだと偽って。


由依「今日はお家でいっぱいいちゃいちゃしようか笑」


森田「…」コクン


遠くから刺さってくる視線。
まるで棘のように鋭いその視線は、ひかるにもバレてしまいそうでひやひやする。


だから隠すようにひかるを腕の中へ閉じ込めた。


軽く後ろを振り向くと、同じように彼女を抱きしめている理佐と目が合って。その目がなんとも言えないくらい恐ろしくてゾクゾクとした。


森田「あ、でも今日お疲れ会行きますよね…」


行って欲しくなさそうな瞳。


痛いくらい気持ちは伝わっているけど、敢えて私は汚い道を選択してしまった。


由依「そうだね。」


森田「主役がいないと、意味ないですしね…」


由依「すぐ帰ってくるからさ。お家で待ってて欲しいな」


森田「いいんですか?」


由依「うん。待っててくれる?」


森田「待ちます、待ってます…やったぁ」


胸の中で控えめに喜んでいるひかるが可愛くて可愛くて、堪らず唇に触れてしまった。


由依「んっ…」


森田「っ……!///」


そしてまたやってくる鋭い視線。

あぁ本当に二人とも可愛いな



菅井「1期生で飲み行くよ〜!みんな準備して〜」


そんなこんなでゆっかーの呼び掛けが始まって、このイチャイチャタイムも終盤に差し掛かった。


森田「由依さん、、いっぱい楽しんできてください!でも、私のことは少しでいいから頭に残していて欲しいです…」


由依「当たり前じゃん笑」


森田「行ってらっしゃい」


由依「行ってきます。」


ポンっと頭を撫でると、嬉しそうに微笑んで2期生の輪の中へ入っていった。


菅井「ゆいぽん〜!行くよ!」


由依「はーい!今行く!」


織田「今日の主役さん〜!いつ見てもかわいいなぁほんと」


志田「ほらうっさい織田置いて行こ行こ」


欅の頃の懐かしい景色が目の前で流れて、思わずふふっと笑がこぼれる。

私は恋人に悲しげな瞳で見つめられていることにも気づかず、呑気にメンバーの方へと向かった。


理佐「んぅ……」


由依「おっ…」


楽屋を出た瞬間、速攻理佐が私の手を痛いくらい握ってくるもんだから。珍しいな…なんて思いながら私も握り返すとパッと振り返って唇に触れられた。


由依「こら。バレたらどうすんの」


理佐「見せつけるようにキスした由依が悪い」



なんて、少し不機嫌気味に言われ手を離される。


これは、嫉妬なのか?



いや、そんなわけない



もうなんなんだこの大型犬。



私の気持ち振り回さないでよ。






なんて、こんなこと彼女持ちの私が思っちゃいけないんだろうけど。




────────────


理佐「由依のばーか」


由依「はぁ…」



思わず、ため息が溢れてしまった。


お店に着いて30分以上経っているのに、さっきからずっとこの調子。

隣に来たかと思えば可愛らしい暴言を吐いて変な顔をしてくる。


楽屋を出た時から何も変わっていない。

隙を見せればちゅーしてこようとするし。



理由も教えてくれず、ただ不機嫌を醸し出してるだけ。


理由は何となく察してはいるけども。


由依「りーさちゃん。なんで怒ってんの」


理佐「…」ギロ


うっ、こわい…


由依「ねぇごめんって。約束破ったのは謝るよ」


理佐「…気にしてないし。」


由依「でも理佐だって約束破ったじゃん?バレてないと思ってたでしょ。保乃ちゃんとちゅーしてるのバッチリ見えてたからね」


理佐「あ、ばれてたんだ。やべっ笑」


由依「やべっ。じゃないわ、散々人に悪態ついてたけど人のこと言えないじゃん。って思ってたよ」


理佐「えへへ、どんな反応するかなって思って笑」


由依「はぁ、5歳児かよ」


本気で怒ってるかもって焦っていたけど、徐々に元の理佐に戻ってきて安堵する。


理佐「じゃ、まなかの方行くね」


由依「え、もう行くの、」


理佐「んー、ほら。怪しまれてもじゃん?」


由依「うん…」


じゃ。って頭を撫でる姿が、先程のひかるを思い出させて、またやってくる罪悪感。
そして同時に襲ってくる嫌悪感。
どうして私が愛佳の方へ行くのを嫌がっているかと言うと…

最近謎に男性を進めてくるから、理佐が男性に転びそうで怖いってだけ。


理佐は絶対無いって言ってたけど、普通に心配。


んー、どうしたものか…。


ピコン


小池「ゆいちゃぁんスマホ鳴ってるや〜ん!愛おしの恋人から〜??」


由依「ちょ、みぃちゃん酔いすぎ。近いって笑」


あ、ひかる…


"由依さん。寂しいです…"


齋藤「なになに〜。寂しい…って。。くぅっ!ひかるちゃんかわいいねぇ〜!」


由依「あ、ちょ。見ないでよ笑」


齋藤「はぁ、あんな可愛い子と付き合えるって最高だよね。普通に考えて」


由依「まぁね笑」


齋藤「1期も勿論顔整ってる子ばっかだけど、もう一緒に居すぎてそんな感情湧かないって言うか」


由依「確かに笑」


そんな事ないけど。笑


理佐「由依」


由依「ん?」


理佐「ちょっと外行くから付き合って」


齋藤「あ、それなら私が付いてってあげよーか!」


理佐「いい。早く来て、由依」


由依「うん」


さっきまでニコニコ愛佳と話していたのに。

不機嫌とかのレベルじゃない顔の理佐に呼ばれて、冷や汗が流れる。

席を立って理佐の方へ行くとそのまま手を引っ張られ人混みの少ないトイレへと連れていかれた。


理佐「はぁ…」


眉間に皺を寄せて感情を押し殺そうとしている理佐を見て、固唾を飲み込む。


理佐の気持ちは聞かなくても何となくわかるようになった。今だって、さっきのふーちゃんとの会話が原因だってわかるし。



この大型犬、本当にわかりやすいなぁ…



なのに、大事な部分はいつも分かりにくい。



由依「前言撤回させて。1期の中で唯一理佐だけをそういう対象として見てるよ」


理佐「1期の中で…ね。他の2期生とかにはそういう感情湧いてるんだ」


由依「…そりゃ、恋人にはね」


理佐「…」


あ、やば。地雷踏んだかも


由依「んっ…」


理佐「キスだけで我慢してやってんの、ありがたく思ってよ」


掴まれてるほっぺからひしひしと伝わってくる怒り。


理佐「どれだけ約束破ってるか分かってんの」


分かってるよ。もちろん

理佐のいる場所で、理佐の視界に入るところでひかるとイチャイチャしたし。
本当は行くはずのなかったお疲れ会にも参加したし。
お疲れ会が終わったあとの、あの約束も破った。


理佐「ご飯終わったらすぐ帰るんでしょ?」


由依「そうだね」


理佐「っ…私に1時間くれるって言ったのに」


由依「あーーっ、かわい…」


理佐「かわいいとか…んむっ」


由依「んっ」


理佐「ちょ、ゆい、だめだって」


由依「ふふっ、分かってるよ笑」


自分からはちゅーするくせに
いざ私がスイッチ入れようとしたら、止めてくるんだから。
本当にタチが悪い。


理佐「はぁ…」


由依「今度穴埋めするからさ?」


理佐「例えば?何してくれるの?」


由依「んー、1日時間あげるよ」


理佐「ふーん…」


由依「2日。」


理佐「よし。決まり」


由依「やった」


理佐「約束だからね。次破ったらこの関係終わりにするから」


由依「ん、分かった。」


理佐「じゃ、戻ろ…っきゃ!」


由依「待ってよ、まだ満足してない。最後までしないから満足させて。」


理佐「っ、、ん、いいよ」


首に腕を回したのを合図に、お互いのスイッチが入ってしまった。


私のために綺麗に着こなしたであろう服を剥いで、目の前にあるぷるんとした唇を貪る。




この一瞬だけはひかるを忘れて。



理佐を食べ尽くした。




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一方その頃取り残されたメンバーは。。


菅井「はぁ…どうしたものか」


小池「あそこの2人バレバレすぎ」


平手「理佐、怒るとすぐ由依呼びになるね」


齋藤「普通に危ないよね。ずっとこばだったのに…せめてメンバーの前では隠せって思っちゃう
てかよくひかるちゃんと保乃ちゃんも気づかないよね」


平手「鈍感なんじゃん?」


志田「ヘルプ。理佐全然男興味なさげ。手の打ちようがないです、」


小池「はぁ、、あそこの関係止めるに止めにくいよ…」


齋藤「んね。お互い欅の頃から両片思いだったし…」


守屋「年少組の恋愛を壊すのは心が痛ましい…絶対無理だ」


菅井「なんでこうなっちゃったかなぁ…」





メンバー「「はぁ…頭抱える…」」