君らしさが、あの日、僕を狂わせた。【第2狂】 | 渚りりかオフィシャルブログ「 《 苺 い ち え 。 》」Powered by Ameba

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仮面女子:イースターガールズ 渚りりか のつぶやきブログ













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僕が君の妹を誘拐したのは、
雨の降る夏の終わり際の夕方だった。


僕は君の妹の存在を知った瞬間、
あってはならない衝動に駆られた。


『愛美、元気にしてる?』


つまり愛美とは君の妹のこと。
そんな真っ直ぐな目をして、
君は何故そんなことを聞けるのか。


それにあれはもう1ヶ月以上も前のことだ。


そもそも現時点で
僕の家に君の妹がいることが
明らかになっていないこと.......


というよりも、
そもそも君の妹が行方不明になったことですら
明るみになっていない。


おかしいと思わなければいけなかったんだ。


「なんでそれを.......」


ほんの出来心で、
小学校から出てきた君の妹に声をかけた。


あの時、僕は何を思って、
何故声を掛けてしまったのか。


今になってやっと、
僕は我に返ったのかもしれない。


『杉山君、案外野蛮なことしちゃうんだね』


平常心を保ち続けている君。


『杉山君』


半分震えた声で、僕は返事をする。
こんなにも感情が対照的な2人が
同じ空間にいるなんてどう考えてもおかしい。


『自分が悪いことしたって
全然思ってないでしょ?』


その通りだった。


何故あんな事をしたのか、だけが
頭の中をぐるぐる走馬灯のように
駆け巡っている。


僕は狂っているんだ。
その時に気づいた。


『私もね、別になんとも思ってないの。
気が合うね。そんな気がしてた。』


さっきまで妹を心配してた言葉が
嘘のように思えた。


だけど君は何とも思ってないんだ。


僕にとってそれは、君の魅力だった。


「冴木.......」


『分からないんだ』


「.......え?」


『寂しい、とか。苦しい、とか。
嬉しいとか楽しいとか。
なんにも、分かんないんだ、私。』


そう言いながら君は悲しそうな目をした。
嘘偽りない、悲しげな目。


作られたものではない。


君はきっと、この世で1番人間らしさはなくても、
人間としての魅力を持っているんだ。


君と僕の、きっと普通ではない、
だけど僕達にとっては何の変哲もない
毎日はこの瞬間から始まった。





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『お兄ちゃん』


「.......ん?」


『私、いつまでここにいればいいの?


僕はこの子に嘘をつき続けている。


『お兄ちゃん、本当にお姉ちゃんの
彼氏さんなんだよね?』


「そうだよ」


何となく、そう言うだけで
気持ちが満たされるんだ。


別に付き合っているわけではない。
特別な関係になってしまったことに
違いはないんだけど。


『なら安心だ!』


無邪気に笑う愛美ちゃん。


この子の笑顔にさえあの日から
狂気を感じるようになった。


小学5年生とはいえ、
姉があんなにも狂気的な人間だと。


何よりこの子の目は、
あの子に似たものを感じる。


この子の場合は、
生きてるようで生きてないような。


そんな感じだ。


それにこの2人の両親。
どうして事件沙汰にしないのか。


いや、何故僕は知られたのにも関わらず
今も尚まだ愛美ちゃんをこの部屋に
隠しているのか。


もはや隠しているとも言わない。


『寧ろ、好都合だったから』


君はきっぱりとそう言ったんだ、僕に。


『杉山君、もう共犯者だからね』


いつもみたいな無表情で、
感情がこもっていない声で君はそう言った。


やっぱり狂気に満ち溢れている。


君は被害者なのに、
わざわざ僕の誘拐を隠蔽して.......


いやそれも自分の妹を誘拐されてて?


一体何になるんだ?
何か考えがあるのか。


ただ君は嘘はつかない。


何故僕は君を信頼し続けているのだろう。
誘拐したことを誰にも言わずに
いてくれているからなのか?


君を知ろうとすればする程、
その分【狂気】を知る。


同時に僕が狂気に塗れていることも、
どんどん侵されていることも、
そんなことは十分に分かっている。


だけど止められない。
まるでもう、
この感覚が快感になったみたいだ。


「愛美ちゃん」


『何〜?』 


自由帳に絵を書いてる手を
止めて僕の方を振り向いた。


至って子どもらしい笑顔。


「お姉ちゃんって、さ.......、
優しい?」


『優しいよ』


即答。
僕は聞いてはいけないことを
聞いてしまったのかもしれないと。


後悔した。


この子の声色が180度変わってしまった。


低くて冷たい、そして力強く、
まるで何かが一瞬で憑依したような声。


『お兄ちゃん』


「.......」


僕は声が出なくなってしまった。
返事が上手くできない。


『お姉ちゃんが怖くなる時は、私のせい。


どういう.......ことだ.......?


いまいち理解が出来ないまま、
僕は理解する猶予も与えられないまま、
制服の袖に腕を通した。



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__空を見上げている君。
__何故君はそこに立ち尽くしているのか。


授業開始を伝えるチャイム。
鳴り響いてからもう既に数十秒経過した。


今僕の目の前に君はいる。


風に靡く長い髪。
つい数日まで遠い場所にいた君は、
今となっては僕のすぐ側で立っている。


「あのさ」


『なに?』


僕の声に振り向いて、
涼しい顔で僕を見て。


何故そんなに普通なんだ。 


「妹の.......」


『愛美がどうかした?』


「どうかしたって.......」


『だから私、言ったでしょ?
なんとも思ってないって』


「だけど.......学校.......とかは?
何も言われてないのか?」


『しばらく休むって言ってあるから、
心配しないで』


淡々と答えを返してくる。
本当に何も思ってないんだ。


冷静をただ装ってるようには
とてもだけど見えない。



『もう少し、愛美のこと誘拐してて』


「もう、少し.......?」


『私達もう、共犯.......でしょ?』


君はにやっとした。
その不気味な笑みでさえ、
僕は素敵だと思っていた。


その時までは、ね。



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