彼女の裏切りには…

衝撃を受けて…絶望的になった。

いや…

彼女ではなく…

自分のバカさ加減に腹が立ったのだ…




結婚まで考えていた彼女…遥には…

俺以外に付き合っている男がいた…

ようするに…二股をかけられていたのだ…

それも…

彼女の相手が、2人の共通の友人であり、大学の同級生の山田だなんて…




おめでたい俺は、そんな事とは露知らず…

彼女にプロポーズをするために指輪を準備し、サプライズで彼女のアパートを訪れていた。

だが…

チャイムを鳴らしても、全く出て来る気配はない。

彼女の行動パターンから何処にも行くことはないと思ったのだが、もしかしたら買い物にでも出掛けているのかと、スマホで彼女に電話をかけた…

すると…




彼女の部屋の中から着信音が聞こえて来たのだ…

不審に思いドアをノックして…




「遥?いるの?」

そう言って再びドアをノックしようとすると…

ドアが開き…

真っ赤な顔をして息を切らした彼女が、凄い形相で立っていた…

「どうしたの…具合でも悪いの…?」

「翔…何でもないから…今は…ちょっと…帰ってくれない?」

「何で…?」

そこまで言って、ふと玄関を見ると…男性サイズのスニーカーが…

「誰か…いる?」

答えを聞くのが怖かったが…聞かずにはいられなかった…

彼女は…

「…いる」

虚ろに答える…

俺は彼女を退かすと、部屋の中にズカズカと入って行き…

震える手で寝室のドアを開いた…

そこには…

急いで服を身に付けようとしている山田の姿があった…

俺の中で…

何かが壊れた…

山田に掴みかかると壁に背を押し付ける…

「おまえ…なんで…!」

衝撃と怒りで混乱し…上手く言葉が出て来ない…

そんな俺を見て…山田は唇の端を上げニャリと笑うと…




「遥は…お前がエリートサラリーマンだから付き合ってたんだよ」

そう言い放った。

怒りが頂点に達した俺は…

山田を殴り倒していた…

「なんで…なんで…こんなことに…」

「翔…やめて…」

弱々しく遥が言う…

「遥…俺は…プロポーズしようと思っていたんだよ…それなのに…」

遥は…部屋の角に座り込むと泣きながら、繰り返し「ごめんなさい」と言うばかりで…

気づくと…俺は遥のアパートを飛び出していた…




本当に俺はおめでたいヤツだ…

なぜ気がつかなかった?

ちゃんと遥の事を見ていなかったということか…?

何か兆候とかサインが出ていなかったのか?

いくら考えても理解出来ないし…どんどん混乱してゆくばかりだ…




行くあてもなく…フラフラと歩いていると小さな橋の上に立っていた…

小さな用水路のような川が目の前に真っ直ぐ延びている。

川沿いには桜の木が植えられ、もうすぐ咲きそうに膨らんだ蕾を付けていた。

もうすぐ春なのに…俺は…

再び絶望的な気持ちになり、ポケットから遥へ贈るはずだった指輪のケースを取り出し…それを開いてプラチナの台座の上に輝くダイヤを眺めた…

眺めいているうちに…遥の火照った頬や山田のニヤついた顔が浮かんできて…

衝動的にその指輪をケースごと川に向かって放り投げていた…

俺はその指輪を捨てたことにより…少しだけ…落ち着けた気がしたのだった…




それでもマンションへ帰る気がせず…

再び街をフラフラしていると、日が傾きはじめ…

足は自然と行きつけの居酒屋へ向かっていた。




いつもの居酒屋のカウンター席に腰を落ち着けると…

ほんの少しだけ…現実を忘れる事が出来そうな気がした。

メニューを見ていると、店員がオーダーを取りに来る…

「えっと…生…」

そこまで言いかけた時…

店員が…何かを、そっとテーブルの上に置いた…

一瞬…何がおきたのか理解出来なかった…




店員がテーブルに置いたもの…




それは…




先ほど川に捨てたはずの指輪のケースだった…




驚いて店員を見ると…




居酒屋のロゴの入った、黒いTシャツを着た彼は…男の俺でも、見惚れるほど美しい青年で…




その彼は美しく微笑むと…




「落とし物です」




…と、言った。









つづく







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